腐ってたのは兄の方だったと言われたね
誤字脱字多くてすみません
ご報告助かります
SSS、トリプルスター…確かにすごいんだろうとも…弟君、ガレッシュ様はナッシュ様がSSSだと分かった途端、それはもう嬉しそうに無条件に懐いている。ハッキリ言って兄弟でラブラブだ…こんな言い方、今は言わないか…私は仲良く2人で話している所に非常にお邪魔なような気がしてならない。
私達はカステカートの王宮に戻ってきている。勇者の剣を巡る争いでリヴァイスラント殿下が浚われた、という事で国際問題になったらいかん!とフロックスパパが騒いだので…とりあえず、帰国は延期でここに待機になった。でもカステカート側の護衛が犯人ということでもあり、両国間で検討すべき案件であることは間違いない。
私達は緑豆の意識が回復するのを待っている。カデちゃん達は子供達を連れて帰宅した。聴取は明日改めて…になった。当然だ、子供達に恐怖をあたえやがってぇ~許さんぞっ。
あれこれ私が心の中で考えていると突然…私の前がフワッと輝いてエフェルカリードが現れて、ギュッと私にしがみ付いて来た。
「ママ、勝手なことしてごめんね」
「勝手?どうしたの?」
「緑豆が脅されて…私に剣になれって言われたんだけど、あそこで剣に戻っちゃったら私だけパパの所にいっちゃうでしょ?そしたら、あの子達だけ取り残されちゃって危ないじゃない?だから人型のまま抵抗してたのだけど、かえって緑豆を危なくしちゃった。後で緑豆に謝らなくちゃ……許してくれるかな」
咄嗟の判断でなんて偉いのっエフェルカリードッ!元々子供の見た目じゃなく知能は高いのだろうけど、素晴らしい機転だわっ!
「さっきから聞こうと思っていたのだけど…え~とあの子、何?」
ガレッシュ様が不思議そうにエフェルカリードを見つめている。
「人間…じゃないよね?」
エフェルカリードはじーっとガレッシュ様を見つめた後、私を見た。
「あれが弟?あの子にギュッてしても怒られない?」
なんだろう?不思議に思ってナッシュ様とガレッシュ様を交互に見てしまう。ナッシュ様が手を伸ばすとエフェルカリードは私の膝から降りてトコトコ…と兄弟二人の前に立った。
「パパ、弟……ごめんね。私がもやしを弟じゃないと言ったから皆が泣いて困ったと思うの。それに弟も今更、お兄さん出来て困ってない?全部……私のせいなの」
ああ、確かにきっかけはエフェルカリードの診た魔力波形だった。だけど、知らなければ…もしかしたらもっと違う形で露呈して…良くない展開もあったかもしれない。ガレッシュ様は優しげに目元を綻ばせた。
「よく分からないけど……俺、兄貴が出来て困らないよ?寧ろ1人ぼっちだと思ってたのに両親もいるし…従兄弟もいるし、急に俺の周り明るくなったみたいで…俺、嬉しいよ?」
エフェルカリードは困ったようにナッシュ様を見た。ナッシュ様は優しい微笑みを向けている。すると、部屋の扉がバーンと開いて…な、なんとキリッシュルアン国王陛下とクリッシュナ様とマジー様、おまけにドアンガーデファミリーが全員いた。何事?圧がすごいよ。ガレッシュ様はガバッと立ち上がった。
「あの人達が…」
するとクリッシュナ様が、泣きながらガレッシュ様の傍に走って来た。
「あぁ、間違いないわ…ねえ?ナッシュ、陛下っお腹にいてくれた子よっ!つわりがひどい時、夜中何度も回復魔法かけてくれたもの…そうだわっ間違いないわ…私のっ…」
ガレッシュ様は泣き笑いの表情になった。魔力波形が視えているならもうここにいる面子が、誰かは分かっているだろう。クリッシュナ様がガレッシュ様の手をソッと握り締めた。
「赤ちゃんの時ぶりね?息災…でしたか?大きくなって…イヤだわ…フフ、陛下とナッシュにそっくりじゃない、ねえ?」
後ろからゆっくり歩いて来たキリッシュルアン国王陛下は少し涙を滲ませながら…優しく妻と弟殿下を抱き締めた。その周りをドアンガーデ一家とマジー様が輪になって見つめる。
その後はお局トリオの独壇場だった。誰もが口を挟めず、ガレッシュ様はあっと言う間にナジャガルに拉致られた…ええもうあれは拉致以外の何物でもない。私と剣(人型)、客間に残されたナッシュ様と3人で茫然とする。
「今更…ですがガレッシュ様、ナジャガルに強引に連れて行っても良かったのでしょうか?」
「え?」
「いえそのお年頃の男子ですし、奥さんやお子さんなどは…」
ナッシュ様はやっと我に返られたのか、ソファに座り直すとお茶のおかわりをユリアンに頼んだ。
「家族はいない…私と似た感じで、魔力が凄すぎてなかなか調整が出来なかったらしく、どうしても高魔力保持者じゃないと付き合えないし、そうすると…冒険者の女性とかぐらいしか相手もいなくて…まあ…それで…今に至ると言う訳らしい」
「冒険者の女性だと何がダメなんですか?」
ナッシュ様はいやに言い淀む…なんだろ?
「冒険者を生業にする女性とは、その…女性離れした身体をお持ちでだな、それに高魔力保持者というと、大抵が魔力を扱う仕事に偏り、城務めの割合が多いのだ。必然的に一般庶民の…その…若いお嬢さん方だと低魔力な者が大半で、お付き合いしにくい…と言う訳だな」
はーん、つまり冒険者はごつい腕自慢の女ばかりで、後は城勤めの魔術師ばかり…一般の可愛~い男性の好む女子は低魔力の方が多くて、泣く泣く断念しているというわけね…なんだかモヤモヤする話だなぁ~
そこへ戻ったと思っていたジューイとレデュラートお兄様が戻って来た。あら?なんだ?
「いよっ!妃殿下の初外交どうよ?」
「何もしてないですよ?女子会したり、体術の指導したり…悪人追いかけたり…これ外交?」
「違うぜっ絶対」
ジューイと頷き合う。レデュラートお兄様は走り寄ってきたエフェルカリードの頭を撫でてからソファに座った。ジューイも座る…お茶が配られて人払いをしてからジューイが話し出した。
「とりあえず、今、弟には護衛と暗部両方つけとくわ。でもあいつ自身もめちゃ強いだろう?」
「SSクラスだった。ギルドカードも確認した」
「マジでっ!か~やっぱりお前の弟だよ~絶対軍に入れるぞっ決めたっ!」
ナッシュ様がニヤリと笑う。それを受けてのジューイの発言にレデュラートお兄様は苦笑いをしている。
「お前が決める訳じゃないだろう?ガレッシュ殿下の御気持ちを優先させる…これが国王陛下のご意向だ」
「本音を言えば、是非とも皇族としてうちに迎え入れたい。だがそれを押し付けるのは避けたい。只、本人の意思とは関係なく担ぎ出されるのは避けたいし、そうだ……エフェルカリード」
ナッシュ様はエフェルカリードを呼んだ。私の膝の上に居たが呼ばれて「はい、パパ」と言ってナッシュ様の前へ行った。
「正直に聞かせて欲しい。ガレッシュ…私の弟の魔力波形はどうだった?黒く染まってはいなかったか?」
ああ、なるほど。ナッシュ様の心配の原因が分かった。
ガレッシュ様が長年の恨みなどを抱いて、もしかして良からぬ思いに取りつかれているのでは…と危惧しているのね?折角会えた兄弟だけど、統治者としては二心ありと見れば、辛い決断もせざるを得ないもの。私達はエフェルカリードの言葉を待った。
「え~だからさっき言ったよね?弟、ギュッてしてもいい?って…くっついていたい魔力だったんだもん!」
ああっ…それってコロンド君にもよく言っている、心地良い魔力ってやつよね?ナッシュ様一同から安堵の溜め息が漏れた。
「良かった…よく腐らずにいてくれた」
「ここには腐ってたやつはいるけどな~」
ジューイはナッシュ様をまた指差している。もう、不敬よ…ドアンガーデ兄弟の性格は真逆だな。
「本人は魔力波形が視えて…良からぬ輩は目視確認が出来て便利だ、と笑っていたので今の所は、アイツは大丈夫だ。だが警戒していても近づいてくるのはいる…目を光らせてやってくれ」
ドアンガーデ兄弟は深く頷くと出て行った、帰ったのか?どっと疲れる…
コンコン…扉がノックされた。侍従の方だった。
「リヴァイス殿下が目を覚まされました」
私達は急いで取り次いでもらって、緑豆の寝室まで入らせてもらった。枕元には国王陛下とヴィオ様と妹姫様がいらっしゃる。
「エフェルカリード!怪我はなかったか?」
驚いた…開口一番、剣…人型?の心配をされるなんて…優しい緑豆ね~彼は悔しそうな表情を浮かべている。
「ザック達も怪我はないと聞いているが…明日顔を見るまでは安心出来ないな。本当に自分が不甲斐ない…一番年長で子供達を守らねばならん立場なのに…」
エフェルカリードはトコトコと緑豆…リヴァイスラント王子殿下の傍まで行くと、しばらく俯いていたがパッと顔を上げた。
「緑豆…ごめんね。アイツに剣になれ!て言われて、出来なかったのは…」
エフェルカリードはチラとナッシュ様を顧みた。ナッシュ様は優しく微笑んで頷いた。エフェルカリードはリヴァイスラント王子殿下を再び見た。おかっぱ頭の髪がサラサラ…と揺れている。
「私、剣になってパパ以外の人に触れられちゃうと…すぐにパパの手に戻っちゃうの…だから、あの時に剣になっちゃうと子供達だけ、あんな怖い人の所に置き去りにしちゃうって思って抵抗してたの。だけどそれが、緑豆を余計に危なくさせちゃった…ごめんなさい…」
ルーイドリヒト国王陛下とヴィオ様は息を飲んでナッシュ様を見た。
「申し訳ございませんでした、エフェルカリードが子供達の為と行動した事がかえって裏目に出てしまったようです」
「いや、よい。エフェルカリード、剣の精よ。英断であった。先程、グレイモアを訊問した際に、剣の奪取に失敗した折は王子殿下を浚うように…と指示されたと申していたのだ。そなたが交渉を引き延ばしてくれたお陰で皆、助かったのだ。良くやった」
エフェルカリードはルーイドリヒト国王陛下の顔を見てから、ヴィオ様の顔も見た。ヴィオ様はニッコリと微笑まれた。
「私からもお礼を申しますわ、子供達を守って下さってありがとうございます」
エフェルカリードはパアッ…と笑顔になった。剣だけどめっちゃ可愛いね、彼女のキャラクターデザインをした制作会社さんを褒めたいよ。
あら?そう言えば、あのモッサリした社長さん、自らがデザインをされてなかったっけ?確か会合でお会いした時に、私のもえを詰め込みました、とか言ってたよね?燃え?萌えよね?確か…
今、夢が壊れるので止めてください!って言うルル君の声で幻聴が聞こえた気がしたわ…疲れているのかしら…
とりあえずこちらに戻ってきたフロックスさんを交え、今回の件の話し合うことになった。フロックスパパは怒り心頭である。
「あんな幼子を盾に取るとはまったく持って非道な輩ですぞっ」
私もフロックスパパに同調する。そーだそーだ!
「小刀突きつけたりっ引きずり回したりっ私があいつら縄に縛って引きずり回してやろうかしらっ!」
フロックスパパと大きく頷き合っていると、ナッシュ様が落ち着け~みたいなジェスチャーしながら会話に入って来た。あら?落ち着いてますけど、何か?
「まあ、リヴァイス殿下は兎も角無事だったし…ザック達も明日には元気に会えることを祈ろう。で、フロックス、連行したメイドの方は何か分かったか?」
フロックスさんは手元の書類を覗いた。
「すべて異界の乙女の指示だと言っております」
「嘘ですね」
私は即答した。皆様、真剣な面持ちでこちらを見てくる。仕方ないなぁ…気が付かないの?ほら、うちには最終兵器がいるじゃない…それに新たにもう一人増えたしね。
「エフェルカリードとガレッシュ様に魔力波形を視て頂いて確認すればすぐ分かりますよ。嘘か本当か…波形に現れるんですって〜」
あ…!とナッシュ様が声を上げた。良からぬ輩は目視確認出来るって先ほども言っていたじゃない?
「ちょっと御面倒かけますが、立ち会って貰えれば解決ですよ。それに異界の乙女にそれほど柔軟な対応が出来るとは思えないのです」
ナッシュ様は興味深そうに前のめりになった。ちょっと語らせてもらおうかしら。
「そもそも私も、異界の乙女もこの世界に来て…まだ数月ですよ?自分の代わりに動いてくれる信頼できる人物をそんな短期間で作れると思います?無理ですよ〜特に彼女は皇宮の自室に籠ってばかりだったと聞きますし…とにかく、最初のヨジゲンポッケのひったくりですが…少なくともひったくりの実行犯と大声を上げた女性、いましたよね?あの2人が乙女の協力者だと見て間違いはないと思います」
ナッシュ様もフロックス親子もさほど顔色を変えない。まあ、そう思って調べは進んでいるのだろう。
「そして毒薬事件…あの時も侍従の子が協力者ですが、毒薬の入手経路分かりましたか?」
男3人は目配せし合う。もう分かっているんだろう…ふんっ、別に除け者でも構わないさっ。でもここから大胆な仮説をぶち上げてやろうじゃないかっ!
「執拗なまでの執着で、一つ狙われているモノがあります。毒物もある意味、私達が倒れていれば…混乱に乗じて隙をついて、入手出来ると思っていたと思われます」
ナッシュ様は一つ息を吐いた。
「エフェルカリード…だな?」
私は頷いた。
「最初…私も異界の乙女が乙女たる地位を確立する為に、存在する剣を入手しようとしている…と思っていましたが、実は乙女が腕を怪我した段階でおかしいな?と思ったのです。何故なら…ポッケごと盗んだのならそのまま、リディック殿下に渡してしまえば良いではないですか?それをわざわざポッケの中から取り出そうとした」
私は一度お茶を頂いてから、再び口を開いた。
「怪我をした…と押しかけて来た時に異界の乙女もポッケの中の剣がそれほど危険だとは知らなかったのじゃないかと思うのです。それは彼女がこちらの世界のことをほとんど知らない、無知だったからです。もちろん朝議で剣を出す瞬間は見ていますが、魔を一瞬で屠る瞬間は見たことが無い。抜き身でポッケに入っていることも知らない…だから私はこう思ったのです。ナッシュ様のポッケを盗んできたメイドが乙女に『この中にあの剣が入っている。開けて確認してくれ』と言ったのだとね」
ナッシュ様は非常に厳しい目で私を見ている。フロックス親子に至っては射殺されそうだ、こわっ。
「だって…魔法なんて見たこと無い世界から来ているのですよ?私だったらあんな怪しげなポーチ怖くて触れませんよ。でも乙女は何も知らない、知らないと騒ぐ無知な娘…味方のフリをすれば簡単に信じてポッケに手を入れる、あの子に触ってもらうのが一番いいじゃないですか?それがあの騒ぎです。これでメイド達より上の指示を出している誰かは…確信したはずです。素手で触るのはマズい、なら誰かに持ってこさせよう。そして、その後のザック君の脅迫、リヴァイス殿下の拉致です。恐らく剣を奪取したら、高魔力保持者のあの子達を運び屋にさせるつもりだったのでしょうね、だってナッシュ様が触れる剣ですもの、魔力が無いと騒ぐ乙女が持てないなら、魔力が関係していると判断してもおかしくないですしね。まあ、エフェルカリードの特性を犯人側が読み間違えすぎてるのも笑えますけど」
ナッシュ様は満足そうに微笑んだ。
「流石アオイ、ここまで私達も同意見だ、で…お前は黒幕は誰だと思う?」
さて仮説をぶちあげますかっ!私は一呼吸、息を吸い込んだ。
「ガンドレア帝国です。今、最も勇者の剣が欲しい国ですよね。異界の乙女が召喚されたこの時期に、ガーベジーデ商会が詐欺事件なんて起こすのも、おかしな話なのですよ。つまりはわざと不良品返品騒ぎを起こして…乙女の出した剣を奪取してその不良品と一緒にさり気なく本拠地が不明なガーベジーデ商会…つまりはガンドレア帝国に送ってしまうつもりだった。ところが詐欺られた相手が偶然にも、ナッシュ様だった。このことから事務次官はあくまで詐欺だけの関わりで、不良品はすぐにガーベジーデに送るように…とかぐらいしか伝えてなかったのでは?と推察されます」
ガーベジーデ商会の目録を思い出していた。詐欺商会丸出しの所在地記載無しだったのだ。怪しすぎる。ガンドレア帝国の匂いがプンプンするってものよ。ナッシュ様はまたも満足気に微笑まれている。
「私も同じ考えだ。あまりにも稚拙で短絡な考え方で…まさか?と思うがこれしか考えられない。異界の乙女の出した剣を奪おう…しかし乙女がなかなか剣を出さない、すると今度は私が特殊な剣を出して来た…よしあれを奪おう…だな?奪い方が雑すぎて、規則性が分かりづらいが一貫しているのは…」
「「勇者の剣が欲しい」」
皆の声が重なった。思わずみんなでニンマリと笑ってしまう。
すると、フロックスさんがそういえば…と話し出した。
「人間の思惑に左右されない忌憚ない判断の出来る、今、噂のエフェルカリードが居ませんが…どこに行きましたか?」
ええ?思わずナッシュ様を見る…ナッシュ様もこっちを見ていた。
「どこに行ったんだ?」
ええ?いないの?思わずキョロキョロと周りを見た。いないみたい…こ、こんな時にどこ行ったの~!?




