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後編 ナッシュルアン視点

ナッシュ様は皇子殿下に擬態した変態様なのでご了承下さいませ

異界からの迷い子…アオイ=タカミヤはよく働く子だった。勤務一日目から驚くほどの順応性を見せ、瞬く間に第三部隊の重鎮になった、いや…そうなってしまった。


第三でアオイの許可が下りないものは、書類を上へあげれない。アオイに不備を突き返されると、2日以内に直して返さないと大層怒られる。


私も含め誰にでも遠慮はない。賃金分は働け!皇子だからと特別扱いはしない!と声高に宣言されてしまった。


吃驚したけど、まずい…本当に好みの女性だった。神に心底、心から感謝する…彼女を呼んでくれてありがとう


アオイは料理も出来る、しかもどれも美味い。異世界の味付け…というのかな?とても口に合う。今日もアオイの手料理だ。


ヴォルナを飲みながらアオイの作ってくれた揚げ物を食する…なんて幸せなんだ。美味しくて思わずヘラヘラと笑ってしまう。アオイと会ってからは私のタガが外れているのは、自分でも重々承知している。


今日はいい日だな…先程アオイ用のヨジゲンポッケも手に入れたし…


今日は2人で酒を飲みながら異界の乙女について少しアオイに説明をしてみた。


アオイは秀麗な顔を曇らせて私の話に相槌を打っていた。リディックを謀り、異界の乙女を謀り、アオイ自身は異界の乙女…名をミユと言ったか?の職場の上司に当たるらしく、そのミユの扱いに心を痛めているようだった


アオイはしばらく、心痛な表情を浮かべていたが少し俯くと、静かに涙を零した。しまったっ!何かまた失言したのか?慌ててアオイの側に寄り添った。


ああ、アオイから良い匂いがする…私の腕の中で泣きながらもアオイはヴォルナを煽っていた…もしかして…酒を飲み過ぎたのか?酔うと泣きながらも絡む方かな?しかし酔いながら私にしな垂れかかるアオイが可愛い…


そして1刻後…


「暑いねーーなんだろーーああ、暑いや!服、脱いじゃえ!」


突然、アオイは立ち上がると、服を脱ぎながら歩き出して廊下をズンズン進んで行ってしまう。私は突然のアオイの行動に反応が遅れた。アオイが脱いだ服を拾いながら慌てて後を追った。そしてアオイは何故か私の部屋の前で立ち止まると、部屋の中に入ってしまった!?


ええ!?どうして私の部屋に入るんだぁ!?


…ていうかちょっと待てよ?


おい…今…アオイは全裸じゃないのか?


突然降って湧いた幸運…というか何かの運命なのか…。逸る気持ちが抑えられない!


コレ…前に回り込んで…み、見ても…怒られないよな?うん。大丈夫だよな、なんて言っても酔っているしな…うん。我ながら言い訳が激しいな…


私は意を決して部屋に入ると、フラフラ揺れながら寝所まで移動しようとしている、アオイの体の前に回り込んだ!


私の前に(さら)け出されたアオイの全身!

色っぽい唇、肩、胸、腰…舐めるように見てしまう。


こっこれはーーーーイカーーーンッ!


私は自室の湯殿に飛び込んだ……ふうっ…


半刻後、すべての昂りを抑えて湯殿から出ると、な、なんとアオイが私の寝台に横になってしまっているではないかーーっ!?どうしてなのだっ!?いや、酔っているから前後不覚なのか…


恐る恐るアオイの掛け布団を捲る…アオイの体が眩しいっ!


見てしまったーーすまんっアオイッ!


アオイが寝返りを打った。ハラリ…と掛け布団が横にずれた。全部見てしまった!


ああああぁこれまたイカーーン!


…と言いつつまた凝視してしまう。


お、男だから仕方ないっうんっ!見るだけだしなっ…さ、触りたいなんて…少しも…少しも…いいかな…もし、アオイが…お、起きたら…その…やめよう…うん。


再び、半刻後…


私は湯殿で猛省していた


この手がこの手が…如何わしいことをつい、つい…してしまったのだっ!アオイが起きなくて良かったなんて…一瞬でも思ってしまった己自身が嘆かわしいっ。


冷たい水を体に何度も浴びせかける…己を律し、身を慎め…ブツブツと口の中で復唱する。


先程、アオイを彼女自身の部屋へ運ぼうとしたが、起きそうになったので…取り敢えず諦めた


兎に角…全裸では朝、起きたアオイが私と何かあったと…取り乱されて…き、嫌われでもしたら…それこそ私が耐えられないので、速やかに下着類をアオイに着せることにした。


フウッ…大きく息を吐き出した。何とか…上手く着付けた。


着付ける途中、不可抗力で色々見てしまったのは許して欲しい…つい、しなくていい体位をさせてしまったのも、ばれたら殺されそうだけど…許して欲しい。


再び昂る体を鎮め湯殿から出て、静かに…寝台のアオイの横に滑り込む。取り敢えずアオイに背中を向けて心を無にする。よし…


後ろでゴソッと動く気配がする度に飛び上がりそうになる。


明け方…アオイが起きた気配がする。小さく「どうしよう…」と呟く声が聞こえる。


ああ、やっぱり何かばれているのか…怖い…先に謝ってしまおうか?迷っている間にアオイは服を掻き集めると急いで寝所を出て行った。


しばらくどうしようかとオロオロしていると…少し時間が過ぎてしまった。取り敢えず裸を見たことを謝ってしまおうと台所に入って行った。


食器を洗っているアオイがいる…正直に謝ったら…頭を思いっきり叩かれた。


いや、私…皇子殿下だけど…こちらが悪いのだし、不敬だぞ!とか怒るつもりはないけれど…叩かれた後頭部が結構痛い、一切の躊躇ない一撃だった。流石アオイ…


あれから少し行き違いはあったけど、なんとか婚姻の申し込みはすませることが出来た。


婚姻を前提とした交際の報告を、まずは一番難関だと思っていた父上に告げたが、諸手を挙げて喜んでくれたのには正直ホッとした。


「今日は付き合ってくれてありがとう」


最近アオイは少しずつ砕けた話し方で話してくれるようになった。仕事の時に間違って呼んだら恥ずかしいから…とか言って呼び捨てはまだダメらしい。


今日は休日…2人手を繋いで買い物中だ。ゆっくりと市場の中を歩く。


余剰魔力が緩やかに手を通してアオイの体に吸い込まれていく。もしかしたら、アオイがこの世界に来てくれたのは…やっぱり神が私の願いを聞き届けてくれたからかな?


もし来てくれなければ…私は仄暗い思いに囚われて…いつかは人の道を踏み外していたかもしれない。


「アオイ~」


「なんですか~」


「ここに…私の所に来てくれてありがとう…」


アオイはピタッと歩くのを止めて私の前にやって来た。な、なんだ?


「来たくて来た訳じゃないですよー乙女の召喚に巻き込まれただけですよー」


そ、そうだったな。そういうことになっていたのだったな…思わず苦笑いが出る。


「でも…最近思うのですが、もしかして私がナッシュ様に会いたいから来ちゃったのかな~とかね」


思わず手で顔を覆った。何…嬉しすぎる。ああ、こんな街中で嬉し泣きは流石に格好悪いな…とか思ってたいたら…


「やだっちょっと…私が苛めているみたいじゃないですかーもうぅ!」


何それ?こんないい大人の私が、女性に苛められるってどう見えたらそう思うのだ?相変わらずアオイの視点は独特だな…


驚きで涙も引っ込んだ私は、アオイに手を差し出した。そして再びアオイと手を繋いで歩き出した。


「私はアオイが会いに来てくれて幸せだよ…」


繋いだ手に力が籠められる。少し前を歩くアオイが満面の笑顔で私を顧みていた。


「私もナッシュ様に会えて嬉しいですよ~」


ああ、幸せだな…


己を律し、身を慎め、そして愛せ…か。


今の私なら愛せそうだな…と笑顔になった。


次から本編に戻ります

変態様への苦情は浦が承っております

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