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視える目と見えない心

長い説明回になります。誤字修正しています

どうして「舞台女優」をしているのだろう…?カデちゃんにクールに切り返されても女優魂?で何事もなかったかのように…持ち直すと手を胸の上で組んだ。今、スポットライトが見えた気がしたわ…


「だって…第一皇子殿下が勇者なのでしょう?だったら本物の皇子の異界の乙女がわた…」


「それは違います」


な、なんと…クリッシュナ様が話を遮られた。いつも大人しいイメージなのにどうした…?


「あなたの召喚は私が姉上に頼みました。そしてとても大量の魔力を消費するとのことで…ナッシュにも頼みました。あなたは私達が意図的に呼んだのです」


ええ!?初耳よ?ナッシュ様は渋いお顔をされている。どうしよう…これは困った…冷や汗が垂れる。


「クリッシュナ…その者に言っても分からないでしょう。剣を呼べばいいのに…泣き叫ぶばかりで役に立たない。大体、異界から来たものが、言葉が理解出来ないなどとは、前代未聞ですよ?異界からの迷い子は知識と教養が素晴らしく、この世界に英知をもたらす存在だと言われているのに…なんですか、まったく」


突然の乱入者、巫女姫!こ、これはっ…噂に聞く嫁いびり…?に近い感じがするよね…チクチク針で刺す感じ、怖いわぁ…


沢田美憂が私をクルンと顧みた。私を巻き込むなよー巻き込むなよー押すなよっ!押すなよっ!


「あの人だってっ異世界人よっ?役に立ってないじゃないっ!」


(ポッケの窃盗罪で)訴えてやるぞっ…今日だってギリギリまで町の警邏業務の改善点の素案作りやってましたけどーー


巫女姫はチラリと私を見ると、少し見つめて口角を上げながら答えた。


「あの子は職を得て働いているそうじゃない…あなたとは違います」


おお、なんか巻き込まれそうな感じになってきたよ…思わずカデちゃんと手を握り合う。


沢田美憂が動きかけたその時に、静かな声が響いた…キリッシュルアン国王陛下だ。


「異界の乙女よ…そもそも間違えておるようだな。異界の乙女とは、この地に来て、自らで勇者を探すのが使命ぞ。勇者を与えられるものではない」


だよね…私もそう聞いたし、図書館の伝承記にもそう書いてあった。そしてもう一つ…異世界人の加護…どんな言葉も読めてしまう力を使ってしまって、伝承の()()()()()()()()()()ので、恐らく皆様が知らない事実を何か所か発見してしまったのだ…怖くてまだ言ってない。しかも今、この段階でナッシュ様にますます言えなくなってしまった。何故なら…


乙女を呼べるのは勇者の資格を持つ者だけ。後、勇者の剣は所持者が亡くなったら消える……


そりゃ…宝物庫に勇者の剣を置いてないはずだわ…消えるんだもんね。それにしても…


ナッシュ様ーーなんで召喚を手伝ったんだぁ!確かに呼んでくれなきゃ会えなかったけど…これで否が応でも自分が…この鷹宮 葵が異界の乙女…じゃないかと思わざるを得ない。


ああ、面倒くさ。これ以上仕事増やさないでほしいよ…でも言わなきゃこれは、ばれないよね?うん、黙っとこ…うん大丈夫だ。


「母上…」


ユラリ…とリディックルアン(元)皇子殿下がクリッシュナ様を見た。クリッシュナ様は困ったような泣きたいような顔で(元)皇子殿下を見ている。


「私が勇者では…ないのですか?だって…母上言いましたよね…お前が選ばれたと…」


クリッシュナ様は目を伏せた。


「ごめんなさい…あなたに…もっとしっかりして欲しくて…だって何度言っても全然ダメで…ナッシュは優秀なのに…どうしてあなたはって…早く何とかしなきゃ…と……しか……だっ…ん」


何か小声で後半部分はよく聞き取れなかったが、クリッシュナ様的にはリディックルアン(元)皇子殿下を奮起させたくて…決してよくはないけど嘘をついたわけよね?


でも気づかないモヤシもヤバくない?ちょっと考えてもおかしいし、ましてや図書館に堂々と表記されている伝承を知らないことにも問題はあるよね。そうそう、他国のアルクリーダ殿下ですらご存じなのにね。


クリッシュナ様も実際…沢田美憂を呼んでみて、何かが変わることを期待していただろうに、正直変わらなかったんじゃないかな?だから今度は侯爵家のご令嬢と婚姻させてみようとしたのかも。極端過ぎる発想だけどさ。


「私がダメだって!?この私が!?兄上の方が優秀だとおっしゃるのですかっ!」


「そ…そうよぉ!ナッシュは昔から優秀で何でも出来てっ…私なんていなくてもっ全然大丈夫で…私みたいな母親といなくてもっ…ぐすっ…本当に…キリッシュに怖い…ぐすっ…くらい似ていてぇ…いつも…何も出来ない私を…きっと軽蔑してて…だから…リディックを立派な皇子殿下にしたら…キリッシュもナッシュも私のごと…うくっ…認めて…ぐすっ。認めてくれるのよぅ」


クリッシュナ様はそう言いながら絶叫して再び泣き崩れた。ナッシュ様はあまりの展開に茫然とされているみたい。


うそでしょう…じゃあ、そんな目で見るな…とか気に入らない…とかナッシュ様に言っていたのは…そんな目で私を見ないで?気に入らないのねわたしのこと?とかの意味だったのぉ!?


そんなの5才の子供に伝わる訳ないじゃないっ!あぁ…伝わらないから拗れたのか、双方可哀相すぎる。


「ガンバレ…ガンバレ…キリッシュ国王陛下っっ!」


横でカデちゃんの小さい声援が聞こえて、私も慌ててキリッシュ国王陛下を見た。きゃああ!腕を伸ばして、泣いているクリッシュナ様の肩を抱こうとしている。もうちょい…何故引っ込める!?そうだっ!もう一回行けっっ!もっと近づくんだっっ!


ぶっちゃけドアンガーデ家全員もガン見ですよ。カッシュブランカ様なんて扇子が折れんばかりに握り締めてますよ。


どうしよう…国王陛下の背後に回って、押すなよっ?してみようかな…流石に不敬かしら…すると…


ドンッ…!


押したのは、クリッシュナ様をだった!巫女姫様ぁ!?


クリッシュナ様は押されてキリッシュルアン国王陛下の腕の中に倒れ込んだ。どうなるんだっ!?皆が固唾を飲んで見守った。


ゆっくりと…噛みしめるように、キリッシュルアン国王陛下は話し出した。


「誰が…お前を軽蔑するものかっずっと苦しかったのだな?気付いてやれず済まなかった。魔力酔いでつわりも随分と苦しかっただろう…本当に苦労をかけたな、お前のもう一人の子供を必ず…必ずっ見つけてやるから…」


…よしっ!言い切ったぁ良くやった!思わず拍手しそうになって…手を引っ込めようとしたら…隣のカデちゃんも同じ動きをしていた。お互いに目が合う…同志よっ


見るとドアンガーデご一家も皆様、泣きながら笑顔だ。声を上げて隅っこでおっさん2人、バウンドべリ宰相とフロックスパパが泣いているのも、今は微笑ましい。


ナッシュ様がヨロヨロしながらキリッシュルアン国王陛下とクリッシュナ様に近づいて行く。するとキリッシュルアン国王陛下とクリッシュナ様はお二人共、笑顔を向けてナッシュ様に手を差し出したっ!


まるで子供の様にナッシュ様はお二人にしがみ付いた。


私の目には5才のナッシュ様がご両親に抱き付いているように見えた。だって、ナッシュ様の気持ちはその時から止まったままだものね。5才の時にクリッシュナ様に見切りをつけたと本人は言っていたけど…実際はそう思わなければとても5才の子供には耐えられなかったのじゃないかな。


カデちゃんと鼻水を啜りながら2人、号泣していると私達の前に巫女姫様がやって来た。


「親子だけにしてあげましょう…」


巫女姫様のお顔は、私達と同じく涙に濡れていて、そして慈愛に満ちたお顔をされていた。国王陛下ファミリー3人を残して私達は静かに応接室を出た。


リディックルアン(元)皇子殿下の傍には前国王陛下夫妻が寄り添っている。そうだね、一応…孫は孫だもんね…


彼も本当に不幸だよ…個人的に嫌味で好きになれないけど、無意識に…本当にクリッシュナ様の無意識でキリッシュルアン国王陛下とナッシュ様の気を引く当て馬にされていたんだもん。


「少し、お話してもいいかしら?」


巫女姫様がカデちゃんと私を促した。先ほどから薄ら思っていたのだけれど、この巫女姫様って私がイメージしていた方と実際は違うんじゃないかな?


私達が頷くと、近くに居た若い侍従の方にお部屋を準備するように言いつけて…私達は近くの小さめの応接間に案内された。ソファに座る前に、巫女姫様はいきなり淑女の礼をとってカデちゃんに謝られた。


「カデリーナ姫には本当にご迷惑をおかけしまして申し訳ありませんでした。私の勝手な思いを押し付けてご不興を買い、直接の謝罪にも行かず誠にも…」


「巫女姫様っ」


カデちゃんは巫女姫様の言葉を遮った。巫女姫様はお顔を下げたままだ。


「もうよいのです…確かに12才の時に巫女の打診を受けた時は逃げることばかりをしてきて、巫女姫様にどうして断るのか…ちゃんとご説明しなかったのもいけなかったのです。とりあえず、座りましょう…」


カデちゃんに促されて私達は座った。カデちゃんは静かに口を開いた。


「本当を申しますと…巫女姫様の再三のお誘いを断り続けたのは、外に出て沢山の患者様を見たかったこともあるのです。今はシュテイントハラルとカステカートの何か所かに医術医院を開設しておりますの」


うわーっカデちゃん、病院も経営しているの!?さっすが!


「今はのびのび自由にさせて頂いてますのよ?正直、王籍を離れてよかったとすら思っています、これ内緒ですよ?」


カデちゃんはくすくすと笑った。巫女姫様も強張った顔から少し笑みが漏れた。


ノックと共に侍従がお茶を準備してくれた…甘い香りが部屋に立ち上がる。喉乾いたわ…でも礼儀としては最初に私がお茶に口を付けるわけにはいかない。本当はカデちゃんが序列としては一番上だが、王籍を離れて庶民だし…ここは巫女姫様が飲んでからだ…そして巫女姫様が一口飲まれた、私も頂こう…


「お待ちなさい、あなた」


え?と思って顔を上げた私に、巫女姫様が指先を私のカップに触れさせた…何か魔法が発動する。


「そして、侍従のあなた…あなたもお待ちなさい」


侍従のあなた…と言われた若い侍従の男の子は慌てたように、こちらを振り向いた。


「誰の命令で毒を入れたの?私達3人共殺すつもりなの?私はともかく、この2人に何かあったら黙ってない方々がいるんじゃなくって?あなた八つ裂きにされてよ?」


え?何?どういうこと…カップを持ったままの私の手を、ゆっくりと下すように促しながらカデちゃんが小さく


「毒を入れられていたわ。大丈夫よ、巫女姫様がすぐに浄化して下さったから」


と言った。


ど、ど…毒だって!?誰が!?…ってそれは今、巫女姫様が聞いているかっ…って高貴な方々(私を除く)を暗殺するために仕込んだってこと?許せんっ!


侍従の若い男の子はブルブル首を振りながら「知りませんっ…知りませんっ…」と呟いている。


「知らない訳ないでしょう?そんなに異様な魔力波形を出しておいて…さあ早くお言いなさいな。ああ、ダメよ、逃げても無駄よ。私もだけど…ここには完全に魔力波形を読み取れる術士が二人いるのよ?あなたがどこに隠れても、顔を変えても何をしても見つかってしまうのよ…魔力波形は一人一人違うのよ?ご存じなかった?」


ホホホッ…と笑いながら優雅に話す巫女姫様は…めっちゃ怖かった。この人には逆らってはいかん!と本能が告げている。やがてブルブル震えながら侍従の男の子は口を開いた。


「い…いか…異界の乙女です」


な…なん…なんだってぇぇ!沢田美憂ーーっお前ーーっ!巫女姫様はチロリと侍従の子を見て溜め息をついた。


「ふむ…嘘はついていないわね…あの娘も恐ろしい子ねぇ。腹が黒かったのは治ったようだけど…あれもしかして性根が腐っているからなのかしらねぇ?」


ドアンガーデ家の女子達と気が合いそうですねっ巫女姫様っ!


巫女姫様は自ら立ち上がるとその侍従に近づいた。そしてスッと手を挙げた。挙げただけで侍従の男の子はバンッと床にひっくり返った。気を失ったのだろうか…何したんだろうか、めっちゃ怖い…


戻って来ると巫女姫様はゆっくりお茶を飲んだ。毒は大丈夫なのよね?まだ怖いけど…


「私ね、リディックの正体に気づいていたのよ…26年前に。生まれたリディックルアンを見に産院へ行ったら…私の魔力判定をしたリディックじゃない、知らない子になっているのですもの、困ったどうしよう…と思ったわ。クリッシュナは産後疲れで寝込んでいるし…おまけに父親はアイザックだとすぐ分かったし…あのアイザックが何かしたのじゃないかってね。アイザックって昔から気持ち悪くてね。私、恐ろしくなってしまって、そうこうしている間に私が巫女姫に選ばれてしまって…神殿から出れなくなってしまったの…」


そうだよね、そうだった!カデちゃんも言ってたじゃないっ生まれた時に魔力判定受けているかもって…判定をされたのは巫女姫様だったんだ!その時はまだ公爵家のご令嬢だったけど。


「あら、いけない。自己紹介がまだでしたね。私、マジュリアンナ=フーランテルロと申しますの。マジーと呼んで下さると嬉しいわ」


ああ、やっぱり。この人…マジー様、好きだな~と思った。隣のカデちゃんをチラ見したら柔らかく微笑まれている。そうよね?カデちゃんも思うよね?


「一度神殿に入ってしまうと、基本外部とのやり取りは手紙のみなの。しかも中身は神殿の者も閲覧されてからだし…リディックが別人かも、しかもアイザックの子供かも…なんて手紙には書けないし、直接会って王族の方か重臣の方々にしか打ち明けられないし、再三会って欲しい…内密の話をさせてくれ…と方々へ手紙を出したけど、呼びつけられても困る、あまり干渉してくれるな…なんてお返事ばかりで困り果ててしまったわ」


ああ、これはっナッシュ様が言っていた…内政への干渉だと勘違いされてしまったのでないか!?手紙には詳細は載せられないし…


「今思えば…馬鹿みたいに理由も書かずに呼びつけて、来てくれる訳ないのよねぇ。その辺の駆け引きが、お嬢様すぎて分かっていなかったわ」


これは…悪い方へ悪い方へ転がってしまっていたのね…カデちゃんもうんうん頷いている。


「時間が経つとね…段々自信が無くなってきたのよ、あの子は本当のリディックだったのではないか?ただ一度見ただけで見間違えじゃなかったのかって…気に病んでいたけど、アイザックは何も問題を起こしているようではないし。そうしたらね…特別拝謁で国王陛下にお会いできることが出来る機会が訪れたの」


おおっそれでそれで?どうなりましたか?マジー様お話上手だな~引き込まれるわ。カデちゃんも前のめりだ。


「折を見てすべてを書き留めた陳書をお渡ししよう…と胸元に隠して拝謁場に行ったら…あの子がいたのよ。リディックが…しかもアイザックと並んで…どう見ても親子だったわ、恐ろしいほど同じ魔力波形だった!それにアイザックの腹に魔素の塊が見えたの」


「魔素!?あの魔核の前兆のっ?」


カデちゃんが声を上げた。マジー様はお顔を引きつらせている。


「私を見ているアイザックの目が、恐ろしくて恐ろしくて…何か余計なことをしたら殺されるのでは…と思って。それに国王陛下の周辺はアイザックもいるし、近衛の方の警護が厳しくって…下手に走り寄って切られても困るし…そのまま帰ってしまったわ。今なら陳書をアイザックの顔に叩きつけてやれるけど。でも、あんなに似ている魔力波形に、気が付かないなんて城の術士にも困ったものだわ」


公爵家のお嬢様だけど考え方が面白いな…カデちゃんがここで説明してくれた。


「魔力波形が視える目を持っていても、治療魔法が得意とは限らないのです。視えた上に、治療魔法も素晴らしい方は中々いないのが現状です」


マジー様が補足してくれた。


「城付きの術士は視えることはさほど重要じゃないのよ、高度でより実用的な術が使えるかどうかなの」


なるほど、それでフロックスさんが治療魔法は完璧なのに、視る時に見えない…とか自分じゃ無理…と言っていたのはそう言う訳か!


「それで、話を戻すけど…また新たに、アイザックが魔人化しそうだと…皆様に伝えたい事が増えてしまってね。連絡を取ろうとしたけどダメで…頼みの綱のクリッシュナはリディックが言うことを聞かない、我儘だと…盛んにナッシュ様と比べるし…余り比べては可哀想よ?と言ったら何でも出来るお姉様には分からない!と拗ねられ話はまともに取り合ってもらえないし…本当に困ってしまったのよ」


分かるわーマジー様、出来る姉の代表みたいな感じだもん。特にあんな感じのクリッシュナ様なら僻んできても仕方ない気もする。


「そんな時にシュテイントハラルのカデリーナ姫様のお噂を聞いたのよ、まだお小さいけど素晴らしい視える目をお持ちだとか…会って診て欲しい方がいる。お越し頂けないかと…手紙の書き方間違えたのかしら?何だか周りが次代の巫女姫を選ばれた〜!とか騒いじゃって、そんなつもりないのに…」


おおぅ…カデちゃんも困った顔で苦笑い、マジー様も苦笑いしている。


「そうしたら、アイザックがカデリーナ姫を娶りたいとか言い出してこれは危ない、魔人に姫が食べられるっと慌ててしまって、私が保護しなきゃと国王陛下に手紙を出したら湾曲して捉えられてしまって……もうこんなのばかりよ?」


確かに魔人は食べるかも知れませんね。しかもあのアイザックは色々胸糞事件おこしてますしね。


「やだわ、私の方の思い違いもありましたのね…」


カデちゃんの言葉にマジー様は首を横に振った。


「私が物知らずだったのよ…伝えるべき方に正確な情報をすぐお教えすればよか……ちょっと待って、静かに…」


マジー様の低い声に、カデちゃんも頷いて小声で私の耳元で囁いた。


「扉の向こうに、あの異界の乙女がいます。毒がどうなったか…様子を見に来たのでしょう…」


私はスッと立つと足音を殺して扉の横に立った。一呼吸置いて勢いよく扉を開けると、びっくりした顔の沢田美憂の腕を掴み捻り上げながら室内に引き入れた。


合気道4段を舐めるなよ!


「葵っカッコイイ!素敵よっ!」


カデちゃん…今褒めたのは男性に向かってのカッコイイと同じじゃないよね?妙に気になる黄色の悲鳴の様な気がしたよ。


「何よっ…くっ…離せっ…!」


カデちゃんとマジー様が沢田美憂の前に立った。


「私達を害して何を得ようとしましたか?」


カデちゃんの問いに沢田美憂は、唾を飛ばす勢いで噛み付いた。


「あんた達がっ来なければ上手く行ってたのよっ!」


「何が上手く行くのよ?私、あなたを…異界の乙女を召喚したいと、クリッシュナから言われた時、すごく期待もしたのよ?あなたが全てを白日のもとに晒して、リディックは勇者じゃない!と宣言してリディックの驕りの気持ちも正して、そして26年前の間違いも正してくれるのではないかと…」


そう言えば…異界の乙女は…英知をもたらす…とか仰ってましたね。


「正すって何よっ!あなた達が偽物の皇子を私に寄越したくせにっ!」


沢田美憂はここまで自尊心の高い子だったのかと、途端に怖くなる。確かに可愛いし…ずっとそう言われて育ってきたのだろう…優遇されて当然、愛されて当然…


「沢田さん、あなたこちらの世界に来て図書館に行った?」


「字が読めないのに意味無いわ!」


「一生文盲でいるつもりだったの?文字は習えばいいじゃない?言葉が喋れないなら、ヒヤリングで覚えればいい、違う?どうして習わなかったの?」


「誰かが読んでくれるわ…」


「誰かって誰?ここには家族も親戚もいない。いざって時にひとりで生活して行かなければならなくなったら、どうするの?世の中には悪い人もいるのよ?今みたいに誰かが、あなたの代わりに毒を入れてくれる、お人好しばかりじゃないのよ?今度はあなたが毒を入れに行く係にされて、罪を被らされておしまいよ?」


子供に諭すように優しく言ったつもりだ。この侍従の子は実行犯だ…他国の姫、我が国の筆頭公爵家の令嬢…死罪は免れない。


沢田美憂にはその自覚はあるのだろうか…異世界転移なんて夢だと思っているのだろうか。沢田美憂はポカンとしている。


マジー様は廊下に出ると衛兵を呼んだ。ものすごい騒ぎになった…事の顛末を聞いた、カデちゃんの旦那様とうちのナッシュ様がものすごい魔力を垂れ流して、ある意味人的被害が凄かった。


その後、ザックヘイム君に旦那様と皇子…大人二人がめっちゃ怒られていた。


「大人ならば自制心を持って下さい!聞いてますか!?」


「言ったでしょ?1番しっかりしているって!ザック君の言うこと聞いてれば間違いないのですよ!」


カデちゃんが悪戯っぽく微笑んだ。すごい7才児だね……


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