とんでも理論を展開中
やっとラブラブしてまいりました。
一部文章書き直しております。
誤字修正しています。ご報告ありがとうございます。
翌朝、ちゃんとした普通の味のチョコクッキーをナッシュ様に渡して2人、通勤の道を歩いていた。
「実はな、理由が恥ずかしくて誰にも言ってなかったんだが…ガーベジーデ商会のあのポーチな、何故あんなもの引っかかったのか…多分焦っていたからだと思うのだ」
「焦る?」
ナッシュ様は苦笑いしている。確かにものすごい痛恨のミスよね…さようなら銀貨10枚…お金ばかりがすべてじゃないけどさ、お金が無いと何もできないのも事実よね、世知辛い。
「アオイを討伐に連れて行こうと思いついたのはいいが、ヨジゲンポッケが無いと不便だろう?物が自由に運べんし…」
確かに!そうなのよね~普通のカバンは鞄屋さんに売っているけど…ヨジゲンポッケの便利さが分かると多少高くてもこれ使いたいものね。
でも、確かナジャガルに直営ショップってないのよね?タクハイ所で頼むか、なんと公所で手続きして買うかなのよね…面倒くさいよね~あ~あ直営店作って欲しいわ!そうだっ今度ユタカンテ商会に行ったら頼んでみよう!ダメなら私に委託業務させて欲しいわ!きっちりクリーンな商いをして見せる自信はあるわっ!
「ヤウエンに行く日も迫っていたし…ついあの男が話しているのが耳に入って、よく確かめなかった自分が悪いのだがな…」
結局、私の為に焦ってくれたのよね…なんだか可愛いわ~皇子殿下に可愛いなんて不敬なことだけど…アラ?もっと不敬な胡椒入りクッキーとかあるじゃねぇか!と声が聞こえそうだけど…スルーしましょ。
また思い出して落ち込んだのかしょんぼりしたナッシュ様の手を握る。すると、人目もあるかもなのに、ゆっくりとナッシュ様の顔が近づいてくる。そっと私の唇にナッシュ様の唇が触れる。
最近…まあこんな感じなのよ。嫌じゃないし…まぁ好きだし?甘い雰囲気は味わっている。正直、男性とここまで親密になれたのは初めて。だっていつもは忙しくてデートすらままならなかったし…深い関係になる前に自然消滅か…一方的に決別ばかりだった。
私もモヤシと沢田美憂のことは言えないね、人前でなんてっ!とかPTAのおば様の如く、怒っていたけど自分だって外でイチャコラだ。恋って不思議ね…ナッシュ様と散々野外チュチュッした後、私達は詰所に入って行った。
「おはよっ!カステカートの訪問についてだが近衛騎士の護衛を付けるぜ~」
ジューイに挨拶を返し、護衛?と思ったがそうりゃそうか…とすぐに思い返した。
だって一応、腐っても…ポヨヨンとしてても…詐欺に引っかかっていても皇子殿下様だもんね。それに…ナッシュ様は明言しないけど、いずれ皇太子殿下の地位に戻られるつもりじゃないかと思うのよね、まあ思うだけだけど…
「えぇ~護衛なんていらないよ~アオイと二人きりの逢引が出来ないじゃないかっ」
ナッシュ様は頬を膨らませている。いや…あんた腐っても皇子殿下だからさ、フリーダムの行動は出来ないんだよ…
ナッシュ様は私達のことをすぐに公にした。もっと色々な方面から苛められたり…嫌味を言われたり…はたまたお付き合い自体を阻止される何かが起こると危惧していたのだけど…誰にも何にも反対されなかった。
国王陛下からは諸手を挙げて賛成されるし「早く婚姻しろっ!」とせっつかれる始末。一番の難関だと思っていたカッシュブランカ様は大喜びで「新しい娘が出来た!」と泣かれてしまった。クリッシュナ様にもご報告はさせてもらったけど…「そうなの…好きにしたらいいわ」と言われてしまった。
反対されないのも、拍子抜けね…されないに越したことはないけれどね。
「何言ってるんだ、一応表敬訪問だろうがっ。一国の皇子が供も付けずに奥方と練り歩けるかってんだ!」
そうこれ…私達の関係を伝えた後、皆の態度は全然いつも通りだったんだけど、私の呼び方がねぇ…ジューイは面白がって「奥さん、奥方、妃殿下」とか色々呼んでくる。最初は怒っていたけど、段々面倒になってきて最近じゃ何で呼ばれても返事している。慣れって怖いね。
「第三の誰かでいいじゃないか、ルルとジャックスでいい」
ナッシュ様は第三の中でナッシュ様を除く…実力NO.1とNO.2を指名した。確かに強さでは最強コンビだ。
するとジューイはナッシュ様に分厚い書類の束を渡しながらこう言った。
「ルルもジャックスも兼任で軍の仕事もあるんだ、無茶言うなっ!」
そう軍の内部構成は実はこんな感じだ。
軍部…各町の警吏としての警邏業務、それと城の警護、関所の警護、など。戦争が起これば戦地に赴く。
第一部隊から第三部隊まで…皆、基本は軍と兼任である。選抜で選ばれており魔の物の討伐が主な任務で…魔獣等が出没した際は部隊が動く。各部隊は月ごとのローテーション制なので自分の部隊が当番じゃない月は軍部の通常勤務に戻ると言う訳だ。
もちろん部隊に入れば危険手当も付く。それに選抜されればエリート街道まっしぐらだ…と聞いたこともある。あくまで噂だ。
この第三部隊は第三の詰所にはいるけれども…今、私が処理している書類を見る限りでは軍本部の執務と何ら変わりはない。つまり、軍を動かしているのは実質第三のメンバー…ここにいる方々なのだ。
バァァンッッ!
突然、詰所の扉が乱暴に開けられた。戸口に立っていたのは沢田美憂と後ろにモヤシ…そしてキラキラの護衛のお兄様達。またか、毎度毎度飽きないなぁ…
「何用ですか?今は執務中ですが」
フロックスさんが仁王様のように沢田美憂の前に立ちはだかった。
すると、沢田美憂は何かを投げた!しかも私に向かって!でも、ごめんなさいねぇ~私ぃ運動神経いいのよ~合気道4段の腕前なのよ~ごめんあそばせっ!私は軽やかに飛んできた何かを手で受けた。ん?これは…
「ナッシュ様のヨジゲンポッケ?」
な、なんで、これがここにあるのぉ!?驚愕で沢田美憂の顔とポッケを交互に見る。沢田美憂は自身の腕を持ち上げた。あら?包帯巻いてるね、怪我したのかしら?
「あんたのせいでっ…あんたがそのポーチに何かしていたんでしょう!?手を入れたらっ手の先が焼けてっ…爛れてっ…全部あんたのせいだからっ!」
………この…この矛盾をどう説明したらよいものか…そもそも何故手を突っ込んだんだっ…じゃなくてぇ…え~と、ポッケが何故沢田美憂の手にあるのか、でして。それをあんたがわざわざ被害者の前に持って来ている、この珍妙な状況をどうしたらよいのか…
「何故あなたが、ナッシュルアン皇子殿下所持の…昨日、窃盗被害にあったヨジゲンポッケを持っていらっしゃるのでしょうか?」
フロックスさん流石に冷静でいらっしゃる。他のメンバーは正にハトが豆鉄砲状態ですものっ!
しかし…私はこのチャンスを見逃さない!
冷や汗が出る、ソォッ…とヨジゲンポッケを開けるとクッキーの袋を弄った。あ、あった!急いで胡椒入りクッキーをポッケから回収すると事務机の引き出しに押し込んだ。
ミッションコンプリート…これで私の肩の荷も降りた。
私はパーテの向こうへ回るとナッシュ様にポッケを手渡した。ナッシュ様は漸く放心状態から解放されたのかハッとしてポッケを受け取り、中を開け確認している。すると普段使っているナッシュ様のお財布とか、男性の身だしなみが入っているポーチとか、地図とか小刀と各種刃物、麻袋、等々結構入っている。
「うん、私のポッケだな…間違いない」
ほらほら…どうすんのよ沢田美憂?あんた加害者のくせに被害者の所へ
「私が盗んだあんたのもので怪我したんで弁償してよ!」
というとんでも理論の被害加害者?になっているのに気が付かないの?
「皇子殿下のヨジゲンポッケは昨日、窃盗被害にあっています。もちろん警護兵を通じて警吏へ被害届を提出しております。もう一度聞きます、何故あなたが所持されているのですか?」
殺し屋アイズを前に沢田美憂は漸く自分の犯した間違いに気が付いたようだ、流石の彼女も怪我したことで気が動転していたんじゃないかしら…と思ってしまう。
「ちがっ…皇子殿下のものだって、証拠…証拠はあるんですかっ!?」
おいおい…今、目の前でナッシュ様が自分のだ…って言ったでしょう?今はとんでも理論中で頭が回らないのかな。もう仕事しようかな…ふと、見るとジューイは通常業務に戻っている…素早い。
「証拠?証拠はありますよ」
ええあるの!?フロックスさんの言葉に驚いた。中身の確認で一応ナッシュ様の物(仮)だとは分かるけど…
「このヨジゲンポッケは正規販売品です。一つ一つの商品に通し番号がついていまして、購入人物や購入日時などが分かるようになっています。今ここで確認させてもらってもいいのですよ?」
うわ~ヨジゲンポッケ、シリアルナンバーついてるんだ!流石っユタカンテのドラミン…これコピー商品対策だね?
「何を言っておるのだ!ミユは怪我をしたのだぞっどうしてくれるのだ!」
え~とこのモヤシは目を開けて寝てるのかね?今の話聞いていましたか?おたくのとこの異界の乙女が窃盗罪でしょっ引かれるって話なんですがね?
「怪我なら…フロックス治してやれ」
ナッシュ様…完全に呆れ顔でパーテの向こうから出て来るとフロックスさんにそう指示した。
「そんなので治る訳ないでしょっ!?痛いだけで何も良くならないじゃないっ!?」
んん?どういうこと?治療はしたの?思わず後ろに控えている護衛の方々を見る。護衛のお兄様が困った顔で頷かれる。
「治療して治らない…ということなの?沢田さん?」
沢田美憂はキッと私を睨んだ。
「そうよっ!だって異界人だもんっ…魔法なんて効かないじゃないっ当たり前じゃないっ!」
いや…私、普通に治癒魔法効きますけど…回復魔法も効きますけど…ナッシュ様との色々なアレのせいで疲れている時は回復魔法が重宝しているけど?
「そりゃあなたには…治癒魔法は効かないでしょうね」
フロックスさんはそれは嫌そうな顔で沢田美憂を見た。いや今、診ているのかな?
「魔流が一切見えない、魔力の生成も成されているのか…それすらも体の中心部分が…そう…暗くて見えない。私じゃお手上げです、もっと根本的に魔流を回復させたり高度な治療術が使える方でないと無理です」
上手く誤魔化しましたね~フロックスさん!前に一物も二物も…と沢田美憂の体の中を揶揄っていたけど、アレは本当に真っ黒で見えないって文字通りそのままだったのね。
「高度な治療術だと…誰かっ呼んで参れっ!」
いやいや?もやし、よく考えて発言しろよ?お城勤めの治療術士のフロックスさんが無理だって言ってるのよ?どこに頼むのよ?
「そうだっ伯母上に頼もうっ!」
もやし、いい加減にしろ!!ん?伯母上?誰だろ?カッシュブランカ様は術士じゃないし、間違ってもモヤシ関連の厄介事なんてお断りだろうし…
「お前…無理だろう?巫女姫だろう?あのお方は先だってそこの乙女と掴み合いの喧嘩をして仲たがいしているのだろう?」
ナッシュ様が呆れ顔でそう言っている。
おや…そうでしたか、神子姫様ね。沢田美憂とクリッシュナ様の姉上様との激しいバトルそれは見たかった…
すると、執務室の空気が変わった。あら?この気配、エフェルカリードじゃない?ああ、そうだった…いつも収納していたヨジゲンポッケが無かったので、今日は抜き身の刃のまま持ってきたのだけど…ジューイが
「神力みたいなのを垂れ流すんじゃねぇ!」
と怒って、キッチンの奥の物置にエフェルカリードを置いちゃったのよ、仮にも神様?から頂いた剣よ?物置に仕舞うって神を冒涜する行いじゃない?まあいいか…罰が当たるのはジューイだし、私に実害は無い。
私とナッシュ様は急いで物置のエフェルカリードの所まで行った。濃厚な神社の奥殿のような気配が強くなる。
「どうしたのだ、エフェルカリード?」
ナッシュ様は普通に子供に話しかけるみたいに剣に言葉をかける。剣士の方って結構こういう方多いみたい。ルル君も自分の剣の手入れをしながらよく話しかけていたし…
エフェルカリードの刀身が震えた。そして近づいて来た私とナッシュ様にその気配のようなものが絡まってくる。抱き付かれているみたいだわ…本当に小さな子供みたいね。
あれ?そういえば…記憶を探る。
甥っ子のプレイしていたゲーム…よく見せてくれたゲーム画面と、思わず熟読した攻略本だったかな?を思い出す。エフェルカリードの特性って確か…魔を祓い、万物に癒しの力を行使出来て…おまけに人型になれて、人型はおかっぱヘアーの小さな女の子じゃなかったっけ?
確か会合でお会いした制作会社のモッサリ社長もそう言っていたような…あ、そうだ!社長に頂いたサインは甥っ子に渡しておきました。こんな遠い所からですがお礼申し上げます。
その瞬間、エフェルカリードがカッと眩しく光った。
「!」
光ったと思ったら私の手の中に、何か重みがあるものが乗っかってくる。思わず手に力を入れてソレを抱き留めた。
「ママ!」
な、な、な…なんだって?
私の手の中には濃紺色の髪を持つ目のクリッとした可愛い女の子がいた。ナッシュ様を思わず見る。
「パパッ!」
パッとその女の子は私の手を離れてナッシュ様の手の中へ飛び込んだ。思わず抱き留めたナッシュ様と見つめ合う。
「エフェルカリード…」
「はぁい、ママ何?」
ナッシュ様の腕の中で可愛く微笑む女の子エフェルカリード(元剣)を見てしばらく私達は呆けていた。
しかし呆けてばかりもいられない。3人?で執務室まで戻った。当然、皆がナッシュ様の腕の中を凝視する。
「おいっ…なんだそれ?見た事ない物体が乗ってるんだが…」
ジューイの呟きにエフェルカリードはナッシュ様に擦り寄る。
「ジューイきらーいぃすぐ怒るんだもん」
ジューイはゆっくりと私の方を見た。
「奥方…いつの間に生んだんだ?」
「言うと思ったっ!違いますっエフェルカリードの人型なの。人間にもなれるみたいなの」
「エフェルカリード…ってあの剣!?嘘っ!?」
「これはっなんとも特異な例ですね…」
「わあっ可愛らしいお姿になれるんですね~」
コロンド君の褒め言葉?にエフェルカリードは「コロンド~~」とコロンド君のほうへ手を伸ばした。コロンド君が抱きあげると満面の笑顔だ。アイドル顔が好きなのかしらね?
「あのね、パパ…あの子の手、私が怪我させちゃたの。急に外へ連れ出そうとされて、触られると気持ち悪くなって…怖くて攻撃したの」
あの子…とエフェルカリードが指差す先にいるのは沢田美憂だ。怪我…連れ出す…ヨジゲンポッケの中にいたエフェルカリードを沢田美憂が取り出そうとして、エフェルカリードは抵抗したのか。
「ママァ…ごめんね…でね、あの子のケガを私が治すね。やっぱり攻撃は、やり過ぎたもん…コロンド~連れてって」
エフェルカリードに指示されてコロンド君は沢田美憂に近づく。エフェルカリードは小さな手を沢田美憂に向けた。
フワッと澄んだ空気が辺りを包む。沢田美憂の体を薄いブルーの膜のようなものが包んでいる。そして風船のようにパチンとはじけて消えた。
「お腹の真っ黒も消しておいたよ~これで魔力使えるよ!」
ええっ!?と思っている間に沢田美憂はワナワナと震えだした。ど、どうしたのだろう?気分悪いの?
「なによこれぇ…なによこれ…この体に何が起こったのよ…なんで…体が軽いのよ…」
「お腹の真っ黒消したからだよ~あの真っ黒ね…放っておくと魔素の塊になっちゃうから怖いよ」
ちょっ…!今エフェルカリードが恐ろしいこと言っちゃったけど…黒いの…魔素の塊?魔素って固まると魔核になるよね?それって…皆様の視線が沢田美憂に集まる。魔人になりそうだった…てこと?怖いぃぃっ!!
「ミユどうなったのだ?治ったのか?」
モヤシが沢田美憂の顔を覗き込んでいる。そして私を睨みつけた。
「女っ!貴様っミユの言う通り何かおかしな術でも使ったのではあるまいなっ!?兄上もいつまでもこのような下賎の女を多用しておられるといつか足元をすくわれまするぞ!」
ナッシュ様がまたブワンと魔力を放出しかけた。私は慌ててナッシュ様の手を取って背中を摩った。よしっ落ち着いて来た。
「コロンド…兄上ってお兄さんという意味よね?」
「はい、そうですよ」
コロンド君の腕の中でエフェルカリードは可愛く唸っている。そして…こう言った。
「そこのあなたとパパって兄弟なの?えっと魔力波形がジューイとパパくらいな感じで似ているのだけど…ジューイとパパって兄弟なの?」
そこのあなた…と言われたモヤシことリディックルアン皇子殿下は怪訝な顔をしている。
それどういうことなの?
「ジューイと私は従兄弟だよ。私の父とジューイの母が兄妹なのだ」
ナッシュ様がそう説明するとエフェルカリードは大きく頷いた。
「そうかっ、それに近い魔力波形ね。あなたパパの従兄弟なのね?宜しくモヤシ!」
おっおいっ!!と思ったがモヤシと呼んだことを怒ることよりも、エフェルカリードの言った言葉の方が衝撃が大きかった。
…エフェルカリードはどうやら診える目を持っている。
彼女?は嘘をつく必要はない…
彼女の目にはナッシュ様とリディック様は魔力の質が従兄弟くらいにしか似ていないということだ。
嫌な答えが頭の中をよぎる。お二人は本当の兄弟ではないの?
次はあの方々が登場です。




