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マウント女子と異世界へ

宜しくお願いします。

長期連載にはならないと思います…多分。

「ねぇ、藤川君」


「はい、何っすか?」


「マウントって何かな?」


藤川君、企画営業部3年目の彼は、今時の若者である。特出している部分は無く、ひたすら平凡だ。ルックスも平均値。可も不可もなくである。


藤川君はキョトンとしてこちらを見た。


PC画面からエラー音してないか?おい?


「マウントって山じゃない…方のマウントですよね?」


「そう、そっちのマウント。ちなみに検索はしてみた」


藤川君は首を捻った。


「昔から呼び名は違いますがありますよね、上から目線とか…蔑む…とか、後は鼻で笑うとか?」


「うわっ似たような意味合いの言葉なのに、日本語だと何だか生々しいね」


「で、鷹宮さん、誰かに言われたんっすか?マウンティングやめろ、とか?」


「ん〜イヤ?逆」


藤川君はガタンと椅子を鳴らしてこちらを見た。


「た、鷹宮さんをマウントして来たの?すげぇ…」


私は苦笑した。何を驚くことがあるんだ。結構これでもマウントされているんだぞ。


鷹宮葵28歳、高すぎる学歴、高身長、実家は超金持ちで口煩い両親、女だとこの条件は逆マウントされやすいんだ。


「行き遅れのアラサーだからね」


「鷹宮さん、実際見た目で判断されやすいですよね」


「お前は私の何を知っているんだぁ~?」


笑いながら藤川君に聞くと、何度か頷き返している。


「派手な服やお化粧は会社の為にしているんでしょ?うちは有名なアパレルと美容のメーカーですもんね。会社の広告塔ですよね?いつも社の為にありがとうございます」


私は藤川君を睨んだ。


「誰から聞いたの?」


「神崎部長です」


あのオッサン……


「服はサンプル、化粧品もサンプル、有難く使わせて貰っている。経済的だ、文句あるか?」


藤川君は可笑しそうに笑っている。


「金持ちなのに~」


私も笑い返した。


「藤川君これはマウントでもなく、私なりの経済活動だと思って欲しいのだけど…使いたいものには惜しみなくお金を出すことにしているの。価値を認め、コレだ!と思ったものには使う」


「アニキカッコイイ!」


変な合いの手を入れるな…


「でも、そのマウントしてきた人、鷹宮さんを妬んでるんじゃないっすかね?」


「ふむ…ネタミ、妬みねぇ~とてもそういう人種に見えないけどね」


「どういう人種なんですか?」


「自分に自信があって、自分を可愛く見せる角度とか知ってて、服装に手抜きがなくて全身ピカピカ」


藤川くんはへぇ~と感嘆の声を上げた。


「鷹宮さんベタ褒めじゃないっすか!そんな人なのにマウントしてきたんですか?」


「ん…よく分からんね、ちょっとお昼行ってくる。松坂商事には午後一で向かうからね」


「了解っす!」


私は小さい手提げ袋を片手に持つと、企画営業部の部屋を出てエレベーターへ向かった。


お昼少し過ぎのエレベーター前に歩いて行くと、珍しく人が居ない…思わず携帯の画面を見た。


うん…12時10分、どうしたんだろう?そしてひとり、エレベーターを待っていると…誰かが近づいて来るのに気が付いた。


あ……噂しちゃったからかな〜


自分に自信があって、自分を可愛く見せる角度とかを知っていて、服装に手抜きがなくて全身ピカピカ…な彼女が毛先を指で弄りながら唇をプルンと潤ませてこちらを見ながら近づいてくる。


沢田美憂さわだみゆ22才。大学卒業をして今年入社したばかり。当然男性社員には絶大な人気がある。当然だろう、ここまで可愛いのだ。それに、彼女は「女優」だ。違うな…「舞台女優」だ。常に至近距離で360度見られても隙が無い。この隙の無い所が一部女子と鼻の効く男性社員には毛嫌いされている。


だが私はそれほど彼女が嫌いではない。何故なら私も「女優」だからだ。私の場合「ミュージカル女優」だけど、自分が実家の広告塔だと自覚しているし、それを隠すこともしない。別に私はお金持ちのお嬢様よ!とバーキンを振り回して歩いている訳ではないが、質の良いものを常に所持するようにしている。


私の実家は、それはそれはお金持ちだ。


そのせいで、かどうかは分からないが、私が小学校に進学する前に、一生女優を演じなければいけないことが決定してしまった。私が女性にしては優秀だということが一族の皆に露呈してしまったことが原因だ。


決して悪いことでなかった…と今でも思っているが、私の人生がそこで決まってしまった。一族は私にこのまま優秀でいることを強要してきた。日々習い事の連続、休めるのはお手洗いか、お風呂場と睡眠中のみ…


「お金持ちのお嬢様でいいわね~遊び放題ね」


と、中学校に上がったばかりの頃、自分だって同じ学校に通っているくせに、金持ちの学友にそう言われたことがある。アホか…と、私の一週間のスケジュールをその子に見せてやった。


「代われるなら代わってよ、毎日ヘトヘトよ?」


その子、實川実莉じつかわみのりはそれから私の親友になった。今でも仲良く付き合っている。


私の役目は結婚せずに、会社の屋台骨をしっかり支え、一族が可愛がっている従兄弟達の子供達に潤沢な資金と共に会社を引き継いで渡すこと…ただそれのみだ。私は一族の為に綺麗に歌う舞台女優だ。


私はこの会社の企画営業に所属している。しかも執行役員だ、副会長だ。企画営業の仕事をこなしつつ、副会長の業務もこなす。休日に休みなんかは無い。得意先接待と後は親と一緒に会合。自分でもよく倒れないな…と思う、体が丈夫なのだ。


「お疲れ様です、鷹宮さん」


沢田美憂はニッコリと微笑んだ。今日も口角綺麗に上がってますね!


「お疲れ様、沢田さん」


やっぱりか……溜め息が漏れる。


男性には分からないのか…とも思う、この微妙な感じの表情。目線…どこがと聞かれると困るが、なんとなく?といえる曖昧な所でこの沢田美憂は私をマウントしてくる。


私は女優よ!綺麗でしょ?可愛いでしょ?若いでしょ?


おそらくマウントしている理由はこの辺りかな?正直いやらしいかな、と思ったけど彼女の履歴書を確認してみた。至って特出ある出自ではなく平々凡々だった。


何故私にマウントを仕掛けてくるのか分からない。だって目指している方向がそもそも違うし、私は「ミュージカル女優」だし、彼女は「舞台女優」だ。


私達は到着したエレベーターに乗り込んだ。


「一階でいいですか?」


「はい」


私は中に乗り込んで中央に立った。沢田美憂が操作ボタンを押した。


えぇ……それくらいで気になるの?可愛い顔がコンマ0.001秒くらい歪んでましたけど?操作ボタンを押すのも嫌なのかな?


やがて、エレベーターは動き出した。


猛スピードで……下に向かって……


体が跳ね上がって壁に叩きつけられた。


背中が痛い……意識はしっかりしている。息が上手く出来ないみたい…あぁ…なんかやばいのかな、何やってるんだかな。


私はそこで意識を手放した。


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