第弐話
今回は絢香中心のためホノカは出てきません。
建物に長くゆったり響くチャイム音。
同じ服を着た子供達は席を立ち、思い思いの
場所へ移動する。
1人だけ動かない少女に何者かが近付く。
「絢香!」
不意に肩を叩かれ体をすくめてしまった。
「急に来んなよ、このアホ錦が!」
「いや絢香ってさ毎回反応受けるんだよね」
ヘラヘラ笑っているのが錦戸淳。
私と同じくスクールカーストぶっちぎり人物だ。
そこへ馬鹿でかい声が響いた。
「なー聞いてな聞いてな!!」
「うるさい!耳痛てえよ〜…」
次から次とうるさいのが集まってきた。
「うちな、隣のクラスの山内と富田にな!金無いから貸してくれ〜て頼んだんよ、そったら2人揃って1万くれたんよ〜!」
この関西弁女は紺野奈々美。よく他人に金を
せがんではプリクラやゲーセンで消費していく野郎だ。東京都出身の大阪育ち。
「また金せびったんだな…」
「せびるなんて言い方よしてよ!貸してくれただけなんよ〜?」
また後ろで淳がケタケタ笑い転げている。
全くこいつは……(私は考えるのを辞めた)
私は不良グルから追い出されたのに
2人は未だに 仲良く してくれていた。
「絢香!今日も行く?」
「…どこに?」
「いつものトコだよ」
見た事のある企みの笑顔で私は思い出した。
「……ああ」
太陽が私を睨み付ける。
睨まれたくなくて私は木の下で立っていた。
私、1人だけが。
「おまたせ〜!あっつ!」
淳と奈々美が小走りで駆け寄って来た。
「今日は人そんなおらんかったから楽勝!」
「…収穫は?」
2人が制服のポケットから取り出したのは
メーク商品だった。
「次は絢香の番だよ」
いつもの様に肩を叩かれるのが今は痛く感じた。
「うちら下手だからさバレそうになったわ」
「絢香は盗るの上手いもんなぁ〜」
「上手い言うな」
「次は何にしよか?」
「マニキュアかアイシャドウお願い!」
笑顔で送り出された私は力なく店へ歩いた。
店内に入ると、所狭しと雑貨や生活用品、食品などが並べられている。
化粧品は1番奥のコーナー。大体覚えていた。
「盗るの上手いって…嬉しくねえな」
私はまず防犯カメラの向きを確認する。
撮影範囲内で商品を探すフリをしたり店員に声をかけたりする。
そして範囲外や店員の視界外で商品を手に隠しポケットに突っ込む。
"いつも"ならこの手段で終わる。
私は暑いからアイスを買って外に店を出た。
「あ、来た来た!」
「その袋なに?何か買ったん?」
「…暑いからジャリジャリ君買った」
「まじ!?助かる〜!さっすが絢香!」
「うちソーダやなくて梨味が好きやねんけど」
「自分の金で買ってこいや」
アイスを食べながら私はポケットの中に
手をやっていた。
「絢香!収穫は?」
ギクッ。暑さのせいでは無い汗が流れた。
「そやそや、忘れとったわ!」
2人に詰め寄られ、私はポケットの中に手を入れる。
出て来たのは約束通りマニキュアとアイシャドウ
だった。
「おお!もう絢香天才じゃん!」
「天才や!マニキュアもーらいっ!」
商品に伸びる手から私は手を引っ込めた。
「何で隠すん?」
「うちらが頼んだんだから良いっしょ」
目が笑ってない。やばいやばいやっちまった!
「これは……私が盗ったんだから私のモンだ」
キョトンとした顔の2人はお互い見つめあった。
「そうだな、良いよ。あんたにあげる」
「良いで!次はキッチリ貰うかんな!」
夕焼けに染まる陽炎の中、私は2人の影に
手を振っていた。影も私に手を振る。
「…天才か」
何とも言えない顔で私は空を眺めた。
「別の天才になりてえな〜」
家路について少し泣きそうだった。
後ろからは何かが着いてきていた事は知らない。