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一進一退

 砂塵の中でもフォラスは俺の剣を避けた。

 しかし、アロンダイトの時よりも明らかにきわどい。

 「ぐっ」と苦しそうな息も漏れている。

 さらに、俺は攻勢に出る。

 炎撃を食らったダメージはない。


「うぉらぁあ」


 気合を込めて、一閃。


 キーン


 金属音が高く響く。

 砂煙が収まって、視界が戻ってくる。


「フォラスが、受けたぞ!」


 アンタレスの咆哮。


 俺の目の前でフォラスが首筋にティルヴィングを突き立ててアスカロンを受け止めている。

 その顔はまるで冥界で閻魔に地獄行きを宣告されたような強張りを示している。

 が、すぐにそれが緩んだ。


 フォラスの蹴りが飛んできて、俺はステップバックでかわす。


 漸く剣を使わせた。


 俺はフォラスを追いつめつつある手応えを覚えたが、何故かフォラスも笑っている。


「どうやらマザーの力はその剣には宿っていないようだな」


 そうか。

 剣を合わせても何もダメージがないことで、フォラスの恐れも払拭されてしまったのか。「もう遊びはおしまいだ」


 フォラスは右足を前に出して体を半身にして構えた。

 肘を脇腹近くに引き、ティルヴィングの切っ先をまっすぐ俺に向ける。

 これが普段のスタイルなのか、それとも左腕を失っているからこその構えなのかは分からないが、その姿はまるでフェンシングの選手のようだ。

 そしてフォラスはためらいなく剣技による攻撃を仕掛けてきた。

 突きだ。

 真っ直ぐに俺の顔目がけて剣が飛んでくる。


 俺はフォラスの突きをアスカロンですんでのところで弾いてかわした。

 と、思ったが、左の頬にピリッと痛みが走った。

 血が流れる感触がある。


 構えからして当然そう来るだろうと攻撃を予想はしていたが、そのスピードは想像以上であり、剣の伸びも想定外だった。

 真っ直ぐに走ってくる突きは距離感が掴みにくい。

 気が付いたら剣先が俺の体に届かんばかりにまで至っている。

 フォラスの動きに無駄がなく、振りかぶりなどの予備動作が全くないことから、いつ来るのか読めないところにも対応することの難しさがある。

 元々、剣道でも突きに対しては恐怖心があった。

 食らったときの衝撃の強さ、痛さ、一瞬息ができなくなる感じが他の攻撃とは異質だからだ。


 厄介だ。

 見切れるようになるか、それともその前にやられてしまうか。


 しかし、避けることにだけ専念していたフォラスの意識が攻撃にシフトしてくるとすれば、俺の斬撃がフォラスにヒットする可能性も高まるはず。

 やられる前にフォラスの攻撃を見切り、フォラスを倒してアストラガルスの根を回収せねば。


 俺は気合を入れ直してアスカロンの柄を両手で絞った。


 フォラスも半身の姿勢からすっと腰を沈める。

 と、すかさずティルヴィングを繰り出してくる。

 前に出した右足をグッと踏み込み「ハッ」、「ハッ」と気合もろとも、顔、胸、左脇腹、右足と次々に狙ってくる。


 足の運びを駆使しつつ、アスカロンを操り、懸命に受ける。


 しかし、受けてばかりだとフォラスがどんどん打ってくる。

 それに、受けてかわしているつもりでもピシッ、ピシッと体に切り傷ができてしまう。

 フォラスの剣の速さゆえか、それとも威力の激しさからくるものか。


 無理にでも一発返さないとずるずるやられそうで、俺は賭けに出る。

 突きの弱点は攻撃の直後。

 剣の下に潜ることができれば、がら空きの胴体が目の前だ。

 次の突きで思い切り体を沈める。

 その時のフォラスの狙いが俺の足だったら一巻の終わりだが。


 と、フォラスが急にステップバックして俺との距離を開けた。


 クソッ。

 読まれたか。


 俺は沈めかけた体を戻して、正眼の構えを作った。

 そして気付く。

 自分が肩で息をしていることを。

 フォラスの剣に集中し、緊張し、懸命に対応した。

 全くと言っていいほど攻撃できていないのに、体が疲労を感じ始めている。


 それに対して、フォラスは余裕があるように見えた。

 シュンと振り払った剣で空気を裂いてみせ、また悠然と半身に構える。

 その顔には焦りもなければ、疲れもない。

 無表情にそこに立っている。


 このままではじり貧だ。

 どこかに活路を見出さなければ。


「私と自分自身を信じなさい」


 胸の裡からアロンダイトの声がする。


 俺は再度打って出た。

 守ってばかりでは、誰も倒せない。


 右から左からと袈裟懸けを連発し、さらに右からと見せかけての手首だけを回してもう一度左から。

 仕返しとばかりに突きもお見舞いするが、フォラスは今度は体を全く動かさずティルヴィングの動きだけで全て受け止めた。


 技で駄目なら、と相討ち覚悟でフォラスの前足を踏むぐらいにこちらの足を踏み込み、間合いを潰して力任せに剣をしならせ左から右へ水平に薙ぎ払う。


 が、フォラスはササッと足を引き、ティルヴィングでアスカロンを受け止める。


 俺は反射的に左手を開いていた。

 そこから生まれた白い光は見る見る巨大な光撃となってフォラスを圧するほどに巨大化した。


「ムゥ」


 左腕のないフォラスは至近距離で放たれる魔法攻撃に対処する手がない。

 光魔法に飲み込まれる刹那、フォラスが体を丸めて防御姿勢を取ったのが見えた。

 

 ドゴォオン


 光撃が壁にぶち当たった。

 広間全体がきしみ、また砂塵が巻き起こる。


「すげえ力!やったか?」


 アンタレスの独り言。


 いや、まだだ。


 俺は、フォラスが叩きつけられた壁のあたりに光撃を連発し、さらに追い打ちをかけるべく砂煙の中に突入した。

 ここで一気にケリをつける。


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