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一本道

 土砂の上で俺は体を起こした。

 ぺっぺっ。

 落ちたときのはずみで口の中に入ってしまった土を懸命に吐き出す。


「アニー?アニー。どこ行った」


 辺りを見回してもアンタレスの姿は見えない。

 と思ったら、俺の尻の下から「んー、んー」と呻き声が聞こえてきた。

 驚いてその場から体を動かす。

 そこには誰かの目があった。

 目の周辺以外は土砂に埋まっている。


「ぶはぁ!」


 アンタレスは土砂から勢い良く顔を突き出し、そして「ゲホッゲホッ」と激しく咳込んだ。


 俺はアンタレスを土砂から引きずり出し、背中をさすってやる。


「早くどけよ。死ぬかと思ったぞ」

「いやぁ。まさか下に埋まってるとは思わなくて」

「俺の方が先に落ちたんだから、ちょっと考えれば分かることだろ」

「まあまあ」


 俺はなだめるように笑う。「そんなことより、アロンダイトがなくても体はしんどくないか?」


「そんなに簡単に話題を転換できると思うなよ」


 アンタレスは俺の思惑を完全に悟っていた。


 俺は「何言ってるんだよ」と辛うじて笑顔を保つ。

 そして、さらに無理やり話を続ける。


「俺は今んところ大丈夫だな。土砂の堆積で瘴気が蓋されているのかな」


 俺は額に手で庇を作り、辺りを見渡す。

 洞窟の上部はほぼ一直線に崩落していて、まるで俺たちを導くように奥に向かって土砂の堆積の道が続いていた。

 そこに日が差し込んでいる。

 土砂と日差しで瘴気を防ぐ効果が二重に出来上がったように思う。


 アンタレスは怒ったような顔で俺を見ていたが、諦めたように首を横に振る。


「まるで、ここを歩いてこいって示されたような感じだな。サタンが俺たちを呼んでいるのか」


 サタンが……。

 俺は身震いした。

 だけど、行くしかない。

 デネブは捕らえられてしまった。

 そしてアストラガルスを見つけられなければヴェガ王女は救えない。

 アストラガルスはこの先にあるような気がしてならない。

 どこにあるかは魔族の王であるサタンが知っているのではないか。


「行くしかないね」


 俺が立ち上がると、アンタレスはごくりと生唾を飲み込んだような音を立てる。


「そうだな」


 アンタレスは俺の横に立ち、フルンティングの鞘を撫でる。「いざ、ポラリス王国のために」


 アンタレスが恐怖を振り払うように俺の前を歩き出す。


 俺は周囲に気を払いながらアンタレスについていく。

 魔族の気配は感じられない。

 崩落が魔族をも埋めたのだろうか。

 それともこれも罠なのか。

 頼りになるのはアスカロン。

 俺もアスカロンの鞘を撫で、いつでも抜けるように柄に手を掛けながら歩く。


 と、アンタレスが急に立ち止まり、俺はその背中に顔をぶつけた。


「いてて。どうした、アニー」

「道が終わる」

「え?」


 俺はアンタレスの後ろから道の先を覗く。


 確かに土砂の堆積はアンタレスの手前で終わってしまっていた。

 頭上を仰ぐと同じあたりで崩落も止まっている。

 途絶えた道の先には光が届いていない。


「アロンダイトなしでは、この先には行けないぞ」


 アンタレスが「何か手はないか」と辺りを見渡す。


「ん?」


 俺は何か聞こえた気がして、耳をすませた。

 


 あ、ああっ、やめて、はあっ、そこはっ、だめぇ


 俺とアンタレスは顔を見合わせる。

 アンタレスの顔が赤くなった。

 俺も自分が首筋から熱くなるのを感じた。


 聞こえてくるのは、女性の声。

 喘いでいるような、辛そうな、それでいて、喜んでいるような。


「どうする?」


 アンタレスに訊かれても答えがない。

 いくら先に進まなくてはいけなくても、今、暗闇の中に入っていくのは躊躇われた。



 はあっ、ふぅん、くぅ、うぅ、ああっ



「今は入っていけないよ」

「だな。盗み聞きも……。ちょっと引き返すか」



 ちょっ、ああっ、はあぁ、ふぅ、うああぁ、だめぇ、アルゥ、アルゥ



「え?」

「もしかして、今の、デネブか?」



 アル、助けてぇ、はあぁっ



 間違いない。

 デネブが俺を呼んでいる。

 俺に助けてきてほしいと願っている。


 俺は土砂の道から駆けおりた。

 すぐに暗闇に覆われる。

 視界が効かなくなる。



 もう、やめてぇ、はあっ、頭がおかしくなっちゃうぅ、ああっ!



「やっと現れたようだな」


 聞き覚えのある男の声が洞窟内に響いた。


「え?アル?アルなの?」


 デネブの上ずった声も聞こえる。


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