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どこで寝るか

「立てる?」


 傷のある肩に布を当て、包帯でぐるぐる巻きにされている。

 俺は立ち上がって、上半身を色々動かしてみた。


「ちょっと動きにくいけど、まあ、何とか」

「ここからはお前の分も俺が戦うよ」


 アンタレスがフルンティングの柄をポンポンと叩く。


 デネブもアンタレスもすっかり元気を取り戻したみたいだ。

 シャウカットもまだ小さいままでデネブのローブの胸元から顔を出しているが、先ほどまでのぐったりした様子はない。


 見上げると少し橙色を帯びた光。

 今、パーティーがいるのは魔族から追いかけられているときに見つけた光のラインの中。

 予想通り洞窟の上部に穴が空いていて、そこから光が差し込んでいる。

 光に照らされているのは直径五メートルほどの円。

 アンタレスとデネブはオセとの戦闘に傷ついた俺をここまで運び手当をしてくれたのだ。

 明るくないと手当がしづらいということで、この場所だったのだが、光に照らされた地面からは瘴気が出ないようで、ここではアロンダイトがなくても呼吸が楽だった。


「日が傾き出したよ」

「ねぇ。今日、どこで寝るの?」


 デネブが不安そうに辺りを見渡す。「こんな魔族一杯の洞窟の中でなんて寝れないよ」


 俺は頭上に指を差した。


「上、かな」

「ここの上だって大して変わらない気がするがな」

「全然違うわよ。日が暮れたらここだって瘴気が出てこないとも限らないのよ。それにこの日の当たっている部分にテントを三つも張れないわ。あ……」


 何か良いことを思いついたのか、デネブが目を見開き胸の前で手を合わせる。


「ん?」

「ここでいいかも。テントは二つなら張れるわ。あたしとアルは同じテントに……」

「却下」


 アンタレスがデネブの提案をあっさり否決する。

 そしておもむろに足元の小石を拾い上げ上部の穴に向かって放り投げる。

 小石は見事に穴から外へ出て、落ちてこない。「これだな」


「どれよ」

「だから、魔法で小さくなった奴を俺があの穴めがけて放り投げて、それでこの洞窟の上に出る。これしかないだろ」

「そんなにうまくいくの?」


 デネブは懐疑的な目でアンタレスを見る。「ねぇ、アル」


「んー」


 しかし、ここでは寝られないとすると、何とかして外へ出ないと。


「他に方法があるのか?」


 アンタレスに言われてデネブは渋々承知した。


「誰から行く?」

「あたししかいないでしょ。あなたたち魔法使えないんだから。あたしさえ上に行ければ、あとは魔法で長くした紐を下ろして、それに小さくなったアルが掴まって、それをあたしが引き上げて、同じ要領で今度はアルとあたしがアニーを引っ張り上げると。それで全員無事脱出よ」

「デネブ、賢いね」


 俺が褒めるとデネブは呆れたような表情で顔を横に振り、自分に魔法を掛けて小さくなった。


 小石と同じぐらいの重さが必要とアンタレスが言うので、デネブを小石に結わえ付ける。

 デネブのたっての希望で小石に紐で縛るのは俺の役目となった。

 言われて俺が紐を使っていると、デネブが甘い吐息を出す。


「この作戦で唯一この瞬間だけ満足できるわ」

「馬鹿か」


 アンタレスが俺の手からデネブを拾い上げる。


「ちょっと。邪魔しないでよね」

「いいからさっさとアルにも魔法を掛けろ」


 アンタレスに言われて、デネブは「仕方ないわね」と俺を魔法で小さくした。


「不安だわぁ」

「任せとけって。穴の上に出たらすぐに紐を下ろせよ。ここで魔族に囲まれたらひとたまりもない」

「分かってるわよ。しっかり狙って投げてよね。洞窟の天井に激突して即死なんて絶対に嫌だからね」

「分かってるって」


 アンタレスは感触を確認するようにデネブがひっついている小石を手の上でポンポン投げる。


「ちょ、ちょっと。怖い、怖い。やめて!」


 デネブにしてみたら、ジェットコースターより怖いだろう。


「あ、そうか。すまん、すまん。じゃあ、行くぞ」


 アンタレスは頭上の穴をキッと睨んだ。「おらよっと」


 アンタレスが投げた小石はデネブの「キャー」という悲鳴と共に飛んでいった。

 が、穴の外に出る前に失速し落ちてくる。

 「キャー」が戻ってくる。

 

 アンタレスは小さくなっている俺と顔を見合わせ、落下地点に走った。

 そしてデネブをキャッチして、そっと地面に横たえる。

 デネブが放心している。

 顔は土気色で、紫色に変色した唇をパクパクと動かす。


「すまん。デネブ」


 アンタレスが小さなデネブを前に土下座で深々と頭を下げる。


「死ぬかと、思った……」

「ちょっと、加減しちまった。今度は思い切り全力でいくから」

「それも怖い……」

「怖くても、やるしかない。だろ?」

「ちょ、ちょっと、まだ」


 アンタレスはデネブの制止に耳を貸さず、ひょいと拾い上げると先ほどよりも鋭い腕の振りでデネブを結び付けた小石を頭上の空を切り取った穴に目がけて放り投げた。

 先ほどと同じようにデネブは「キャー」の悲鳴を残して穴に向かって一直線。

 そして、今度はそのまま穴の向こうに消えていった。

 悲鳴も聞こえなくなる。


「さすが、俺!」


 アンタレスが得意げに握り拳を作って俺を見る。


「穴からは出て行ったけど、大丈夫かな」


 デネブはちゃんと着地できただろうか。

 あのまま岩石に衝突したり、小石の下敷きになったりして潰れていないだろうか。


 それから暫く俺たちが見上げる穴の上には何の変化もなかった。


「あいつ、逃げたんじゃないだろうな」

「まさか。……でも、やっぱりうまく着地できなくて……」


 そのとき、穴の上からするするとロープが下りてきた。


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