洞窟内探索中
「こんなところに花が咲くのかよ」
「そんなこと知りませんわよ、アニーたま」
「くっ」
アンタレスは悔しそうに奥歯を噛みしめた。
普段冷静で論理的なアンタレスが何一つ言い返せない状況をデネブは堪能しているようだ。
「そろそろ許してやったら?」
「アル。あたし、何も怒ってないのよ。だから、許すも許さないもないの」
「いや、そういうことじゃなくて」
「アル。こいつはこういう性格なんだ。お前はヴェガ王女のことだけを考えればいい。こんな奴のことは考えてやる必要はないし、憐れみとか、ましてや恋愛感情なんて絶対に持っちゃダメだぞ」
「分かったよ、アニー」
「アル。お前もか……」
アンタレスはがっくりとくずおれるようにその場に膝をついた。
「いや、そういうことじゃなくてさ。アンタレスってちょっと長いじゃん。だから、あだ名があったらいいなって前から思ってたんだ。アニーって呼びやすいから丁度いいじゃん」
アンタレスはすっくと立ち上がると、「好きにしてくれ」ときびきび歩き始めた。
しかし、すぐに足を止める。
何故なら、少しは暗さに目が慣れてきているが、デネブから離れると足元が見えづらいからだ。
デネブの光魔法でその半径五メートルぐらいがぼやっと照らされて見えている。
一つの懐中電灯を頼りに闇夜を歩いている感じだ。
「でも、確かに、こんな日差しの届かないところに花は咲かないよね」
歩いてきたところは岩石でごつごつしていて、時折土のところもあるが雑草一本生えていない。
「だろ」
「んー。じゃあ、私たちのやっていることって、まさに徒労ってこと?」
どれぐらい歩いたのだろう。
俺たちは背後を振り返る。
しかし、俺たちが落ちてきた光の差し込む穴はもう見えなくなっている。
俺は身震いした。
前も後ろも真っ暗。
頼りはデネブの放つ小さな光だけ。
そしてここは魔族の巣窟。
アストラガルスは見つかるのか。
それ以前に生きてこの穴から出ることはできるのか。
「それに、この程度の明かりで行き当たりばったりで探しても見つからないんじゃないか?」
アンタレスの発言は的を射ている。
見えない以上感覚でしかないが、音の広がり具合や空気の流れからしてこの穴は相当広い。
アストラガルスの群生があったとしても既に通り過ぎてしまっている可能性もある。
「それはそうかもしれないけど、でも、どうしたらいい?」
俺は二人の顔を見た。
「デネブ。もっと光を強くできないのか?」
「強くってどれぐらいよ?」
「はるか遠くまで見渡せるぐらい」
デネブはアンタレスの言葉に「そんな簡単に言わないでくれる?」というような顔つきで、首を横に振った。
「問題は二つあるわ」
「何だよ」
「まず、光に気付いて魔族が一斉に襲ってくるかもしれないってこと」
「でも、今のままじゃいつまで経ってもらちがあかないだろ」
「もう一つ。光の魔法は、ただ明るいだけじゃない。熱量と質量を持ってるの。今はすごく加減して使ってるから分からないけど、今だって少しだけ熱を発してるし、強さを上げれば硬い盾や矢になるぐらいの質量がある。つまり、遠くまで見渡せるほど魔法の効果を強くするってことになると、どこかに強烈な光の玉をぶつけることになるわ。そんなことしたら、この洞窟が崩落してくるかもしれないわよ」
「それって、デネブにも負担が強いよね」
「そうね。実はこの魔法は人間になってから使えるようになったの。魔族は光魔法が苦手だから。ちょっと扱い方を前国王陛下に教えてもらって、今、少し操れるようになってるけど、どれぐらい自分に負担がかかるか、どれぐらいの加減でどれぐらいの魔法効果になるかは感覚的にまだつかみきれてないのよね。だから、色んなことが、どうなっても知らないわよって感じ」
パーティーに沈黙が訪れた。
「帰ろ……」
「やろう」
アンタレスが俺の弱気をねじ伏せるように声を張る。「このままじゃらちがあかねぇ」
「そうね。じゃあ、やるわよ。どうなっても知らないからね」
「ああ。やれ。やっちまえ」
「一瞬だけよ。瞬きしてたら見逃すからね」
え?え?
俺は心の準備ができていないのに、アンタレスとデネブは体勢を整えている。
二人ってこんなにイケイケドンドンの人だったっけ。
それともこの閉塞感に苛立ちが限界になっているということか。
デネブは胸に手を当て神経を研ぎ澄ませるように目を閉じた。
もう、やるしかない。
俺はすべてを見逃すまいと、目を大きく開いてその時を待った。
スゥッと辺りが暗くなる。
と思うと、ピカッとカメラのストロボのように閃光が周囲に走った。
その時、俺は見た。
何人、何匹もの魔族が今にも飛びかかってこようとしているのを。
口が大きく裂けたケルベロス。
ウシガエルのようなフォルムでワニのように口が長い生き物。
こないだ襲ってきた黒いローブをまとったウィッチの集団。
大きな鎌を持った骸骨の騎士。
顔だけがライオンの大きな剣を持った戦士。
無数に飛ぶガーゴイル。




