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メテオ

「ハアッ!」


 デネブは気合いに満ちた雄叫びをあげて、天に手をかざした。「もっと、近づいて!」


 俺とアンタレスはデネブに言われるがままに、その足にすがりつくようにくっついた。


 するとデネブの掌から光が溢れ出て傘のように広がった。

 俺たち三人を包むように光のドームが出来上がる。


 そこへ空からワンボックスカーぐらいの大きさの黒い岩石のようなものが降ってきた。


「うわっ」


 隕石?

 こんなものに直撃されたらひとたまりもない。

 俺は腰を抜かしたような感じで、地面に座り込んで身動きが取れなくなった。

 その俺の目の前で隕石が光の盾に衝突。

 瞬間、ぐにゃりとドームがたわむ。

 中の空気が押しつぶされたからか、体の四方から強い圧迫感に襲われる。

 鼓膜が捩じ切られそうな鈍痛。


「ぐぅ」


 アンタレスが声にならない声を吐き、耳を手で押さえて蹲る。

 シャウカットも体を小さくして目をギュッと閉じた。


 俺も両手で耳を塞いだが、しっかり目は見開いていた。

 目の前の光景に言葉を失った。


 隕石が光のドームに少しずつ溶けていくように見える。

 ゴー、と地響きのような音が体を揺する。

 デネブが苦しそうに眉根をひそめながらも隕石に向けて、まるで素手で隕石を受け止めているように手を伸ばし続ける。

 その先で光は一層輝きを放つ。

 やがて、光は隕石を包み込み、消え去った。


「ふぅー」


 デネブが膝に手をついて大きく息を吐き出す。「ちかれたぁ」


「デネブ!大丈夫か?」

「何とかね。でも、さすがにちょっと消耗したわ」


 デネブの顔を覗き込むと、土色になっている。

 相当体力を失ったのだろう。


「おいっ。次、来るぞ」


 アンタレスの言葉に弾かれるように空を見上げると、ウァラクが掲げた右手の上にまた巨大な玉が浮かび上がっている。「さっきの光魔法、使えるか?」


「ちょ、ちょっと無茶言わないで」

「だったらどうする?」

「どうするって……」


 こうなったらしようがない。

 これに賭けるしかない。


「俺が斬る」

「「斬る?」」


 アンタレスとデネブが声を裏返らせて驚く。


 俺はアスカロンの柄に手を掛けた。

 アスカロンの実力なら斬れなくはないはず。

 しかし、……アスカロンはやはり抜けない。


 ウァラクは不敵に笑ったかと思うと無慈悲に手を振り下ろした。

 その手の勢いそのままに隕石が降ってくる。


「アル!逃げて!」


 デネブが金切り声を上げる。「いくら何でもあのメテオは斬れない」


「無理だ。もう逃げられない」


 アンタレスがデネブを突き飛ばすようにして地面に伏せる。


「アスカロン。頼む」


 しかし、アスカロンは頑として出てこない。

 隕石が迫ってくる。

 もう、やばい。

 こいつ。

 ふざけるなよ。「こらっ!いい加減にしろ!さっさと出てこい!」


 俺が怒りに任せて怒鳴り声をあげると、アスカロンは怖い先生に叱られた生徒よろしく鞘からピッと飛び出すように出てきた。

 俺は全身を捻りながら円を描くようにアスカロンを下段から振り上げた。


 スパン


 相変わらずの軽い切れ味と共に隕石が真っ二つに割れ、左右に弾け飛ぶ。


 ドゴオォォン


 半分に割れた隕石が地面に落下して、轟音と共にまた視界を遮るほどの土煙が立ち上る。


「ほんとに斬れた……」


 斬れるかどうか自分でも自信がなかったので、思わず言葉が漏れてしまう。


 クゥエエッ


 ドラゴンの悲鳴が聞こえる。

 見上げると、羽、腹、首、口、足と双頭のドラゴンに無数の切り傷ができているて、緑の魔液が溢れ出ている。

 土煙に紛れてデネブがカッターを放ったのだろう。

 片羽を半分失い、空中でバランスを崩してドラゴンがもがきながら落下してくる。

 ウァラクも一蓮托生だ。


「ぐわぁ」


 ウァラクの足がドラゴンの巨体の下敷きになった。

 いくら魔族でもあの足で戦闘続行は不可能だ。

 ドラゴンが霧散してもウァラクは身動き取れないだろう。


「はい。アンタレスの番よ」


 声を掛けられたアンタレスはゆらぁっと俺の横を通ってウァラクに近づいていく。

 その目は吊り上がり、どこを見ているか分からない。

 この雰囲気。

 知っている。

 俺は背筋を寒くした。


「アンタレス?」


 怖々と呼びかけてみる。


 突如、アンタレスは駆け出した。

 あっという間にウァラクの眼前に立ったかと思うと、フルンティングを振り上げる。

 キラッキラッキラッとフルンティングの刀身が陽光を弾くのだけが見える。

 目で追うことが難しいほど素早い剣技でウァラクが為すすべなく切り刻まれていった。

 肉片が魔液と共に飛び散る。


「うぅあぁ」


 ウァラクの断末魔が響く。

 見ていられなくて俺はデネブを振り返った。


「アンタレスに何したの?」

「ちょっと、気持ちを昂ぶらせただけなんだけどね」


 魔法を掛けた張本人のデネブも顔を引きつらせた。


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