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双頭のドラゴン

「さらに低くなったな」


 アンタレスの視線の先にはもちろん闇夜の森。

 いよいよ近づいてきたそれは昨日よりもさらに背が低くなっているように見える。

 デネブによれば、俺たちが見ているものは樹々ではなく国境に位置する緑の城壁ということになるが。

 言われてみれば、幹の部分の茶色の樹肌というものが見えない。

 地面からすぐに緑一色だ。


「二メートルぐらいかな?」


 まだ俺の身長よりは高そうだ。「よじ登れなくはないね」


「元々は十メートルぐらいあったんだけどね」


 デネブが何となく寂しそうに言う。


 もしかしたら、デネブもサキュバスだったころに近しい魔族を亡くして、あの緑の城壁にその遺品を積み上げたことがあるのかもしれない。


「デネブ」

「ん?」

「無理しなくていいんだよ」

「どうしたの?アル」

「だって、俺たちはこれから魔族の国に入り込む。歓迎されるわけがないから、きっと戦いの連続になる。それってデネブにとっては祖国に斬りこむってことだろ?そんなこと、俺だったらしたくない」

「何言ってんの、アル」


 デネブは屈託なく笑った。「そんなこと、はじめから分かってたことじゃない。嫌だったら、一緒に来てないわ。あたしはアルの役に立ちたいだけよ」


「デネブ……」


 俺はデネブの上目遣いの熱い視線をまともに受け止めてしまい、言葉を失った。

 こそばゆい。

 顔が赤らむ。

 でも、正直、嬉しかった。

 心がぐらぐら揺れる。

 こんないい子、いないんじゃないか。


「おい!よけろっ!」


 突然、アンタレスの怒号が響く。


 俺は反射的にデネブに飛びかかり、そのまま地面に伏せた。


 ドゴォォオン


 近くの地面に何か重いものが落ち、地響きが体を揺する。

 そして、背中に粉塵が降りかかってきた。


 もうもうと土煙が立つなか、地面に這いつくばったまま空を振り仰ぐと、輝く六つの目に見下ろされていた。

 少しずつ靄が晴れてくると、空に浮かぶその生き物の姿がはっきりと見えてくる。

 大きな翼を持った灰色のドラゴンが二頭。

 いや、胴体は一つで、そこから首が二本生えているので正確には一頭なのか。

 そしてそこに鉄兜を被り立派な黄金の髭を生やした人間の姿の男が跨っている。


「ウァラク!」


 デネブが叫ぶ。


「ほう。ポラリス人の女。我の名を知っているのか」


 ウァラクに言われて、デネブはしまったという表情で顔を伏せた。「地人に裏切り者がいて人間と共に我らを害しようとしているという話があるが、もしや、お前のことか?」


 デネブが地面に伏せたまま手を胸元に忍ばせる。


「知らないわよ、そんな奴!」


 ウァラクに向かってデネブが手を振りあげる。

 すると幾つもの円盤がウァラクに向かって飛び出した。


 カッター?


 あれはベネトの得意だった魔法ではないか。

 俺はデネブの姿にベネトを重ねる。


 空気を押しつぶした鋭利な刃物がウァラクと双頭のドラゴンに襲い掛かる。


 ガァアオオオ


 ドラゴンが咆哮し、その二つの口から巨大な炎が吐き出された。

 白いカッターが紅蓮の炎に包まれる。


「笑止」


 ウァラクは腕組みをしてこちらを睥睨する。「そんな姑息な魔法が我に効くか」


 炎が消えると、カッターも跡形もなく掻き消されていた。


「へぇ。じゃあ、これはどうかしら?」


 デネブはもう一度カッターを幾つも放つ。


「我には効かんと言っている」


 ドラゴンが再び吼えながら巨大な火炎を吐き出し、デネブのカッターを包み込む。


「こう見えて私、馬鹿じゃないの」


 デネブはゆっくり立ち上がってローブの埃を手で払う。

 どこかからやってきたシャウカットを肩に乗せる。「カッターの強度や威力だって自在に操れるのよ」


 その余裕に満ちた動きに俺は地面に伏せたままアンタレスと驚きの顔を突き合わせた。

 

 キャウゥ


 見上げると、向かって右側のドラゴンが顔をしかめて鳴いている。

 首に一筋の線が入っていて、そこから緑の魔液が滴り落ちていた。


 ウァラクが怒りに満ちた声で「女!」と吠えたてた。


「よくも我が子に傷をつけたな」

「勝手に仕掛けてきておいて、よく言うわ」

「貴様ぁ」


 俺はデネブがウァラクと言い争いをしている間にアンタレスの方にズリズリとほふく前進で近づく。


「アンタレス」

「ん?」

「デネブって性格変わったよな」

「だよな。何か、怖いもんなしって感じがする」

「元々があんな感じだったのかな。今は完全に人間の体を手に入れたから、隠すもんがないってことかも」

「頼もしい、感じもあるよな」

「確かに」


「そこの二人!」


 デネブの叫ぶような声が響く。


「「はいっ」」

「こっちに来て!」

「「え?」」

「早く!」

「「はいっ」」


 俺とアンタレスはまろびつつデネブの傍に駆け寄った。


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