じゃあ、行くか
「感じ悪いわぁ」
もう何度目だろう。
デネブがアンサーの頭を撫でながら、またプンプンとシリウスたちを非難する。
アンサーを馬鹿にされたことが、すごく気に入らなかったみたいだ。
当のアンサーは先ほどのシャウカットとの衝突などすっかり忘れたようで、心地良さそうに目を細めて地面にうずくまりデネブの為すがままにされている。
瞬一が「まあまあ」とデネブをなだめるのだが、先ほどから効果は全然ない。
「大体、陛下も陛下よ」
怒りの矛先をポラリス王に向け、「ねぇ、アルもそう思うでしょ?」と同意を求めてくる。
「え?何で?」
まだアルと呼ばれることになじめないのだが、「アルじゃない!」と否定し続けるのも面倒で、俺は徐々に「アル」を受け容れつつある。
「だって、シリウスたちに頼まなくったって、あたしたちだけでヴェガ様を助け出せるじゃない。それをあたしたちを煽るようにシリウスなんかにも捜させるなんて」
「逆にさぁ、俺たち、王女捜しなんてやらなくても良くない?あの自信満々のシリウスとかいう人達が王女様を助けてくれるならそれでいいじゃん」
我ながら名案だと思ったのだが、瞬一とデネブの視線は怖ろしく冷たかった。
「アル。一度、陛下に行くと言ったんだ。今さら行かないなんて通用すると思ってるのか。忠誠心はどこにやった?」
「そうよ、アル。陛下直々の命令を無視するなんて、死罪になりたいの?」
デネブは眉間に皺を寄せ、睨むように俺を見てくる。
「死罪?マジで?」
さすがにそれは困る。
こんな良く知らない世界でいきなり殺されてはたまらない。
「それに、もし、本当にあいつらに先を越されたらどうするんだ?ヴェガ様とシリウスが結婚しちゃってもいいのかよ」
瞬一は心から心配そうに俺の顔を見る。
きっと俺の気持ちを慮ってくれているのだろう。
付き合っている女性が他の男と結婚するってことになったら、そりゃ辛いよな。
俺は王女と結婚したいわけではないが、今は俺がヴェガ王女を助け出すことが一番自然な物事の運びなのだろう。
色々、言いたいことはあったが、とにかく今はそのヴェガ王女を捜さなくてはならないということらしい。
「じゃあ、行くか」
俺は瞬一に向かって呼びかけた。
愛する女を助けに、とか、この国に対する忠誠心なんて全然ピンとこないが、死んでしまっては元の世界に戻れない。
仮にこれが夢の続きであるのなら、天才剣士として少し冒険してみるのも悪くはない。