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謁見ー1

 頭をきつく締め付けられている感触に意識が戻ってくる。

 薄く目を開いたら一面群青色だった。

 眼前の大きな二つの膨らみは……先ほどの女性、デネブの胸に違いない。


「あ。アル!大丈夫?」

「あ、ああ」


 デネブの豊満な胸から慌てて目を逸らす。

 後頭部の、先ほど血がついたあたりに手をやると、布が何重にも巻かれている感触があった。


「本当に大丈夫?一応、傷口を小さくする魔法をかけて止血したし、包帯も巻いたけど、一度ちゃんとお医者様に診てもらった方がいいかも」


 目に涙を浮かべたデネブの言葉に俺は曖昧に頷いた。


 魔法って何だ?

 これは夢の世界じゃなかったのか?

 だとすれば、一体ここはどこなんだ。


 眼前の出来事が理解できなくて俺は混乱する。

 確か、恵里と瞬一に呼ばれ、琴美が待つプラネタリウムに行き、そこで星空を見ているうちに眠ってしまって……。

 それがどうしてこんなところに。


 デネブの向こうには見たこともない緑の平原が広がっている。

 遠くにはこんもりとした森があり、広くなだらかな川がある。

 明らかに俺や琴美や瞬一が住んでいる山間の田舎町ではない。

 そして背後には小さな煉瓦のようなものが積み上げられてできた高い壁。

 その奥には田舎町の小さな天守閣とは似ても似つかぬ世界遺産にも登録されていそうな欧風の威風堂々たる古城があった。


「城の中が騒がしい。どうやらヴェガ王女が魔族にさらわれたらしい」

「その噂、あたしも聞いた。本当なの?アンタレス」

「どうやら本当ら……」


 俺の横で胡坐をかいて座っていた瞬一が急に立ち上がる「ポラリス陛下!」


 瞬一の視線を追いかけて、顔を反対側に向けると、そこには威風堂々と重厚な紫色のマントを靡かせ馬に跨る初老の男性がいた。

 額を覆う白銀色の冠のようなものは眩く輝くものではないが、時代の積み重ねを感じさせる気品のあるものだ。

 背後には鉄の鎧をまとった騎馬隊と平服の従者を引き連れている。


「あれ?受付のおじさん?」


 俺は指で目を擦ってもう一度馬上の人を見た。

 やはり、プラネタリウムの受付のおじさんだ。

 おじさんが言っていた面白い趣向ってもしかしてこの状況のこと?

 だとしたら、趣向の域を超えていると思うけれど。


 おじさんは付き従う騎馬隊に向かって、止まれ、と示すように手を軽く上げて見せ、単騎でこちらに近づいてきた。


 それを見て瞬一とデネブが居住まいを正し、片膝をついて頭を垂れる。

 キツネのアンサーもデネブの脇に行儀よく座り直した。


「怪我をしたか、剣士アルタイルよ」


 馬上のおじさんに重々しい感じで声を掛けられ、俺はまごついた。

 え?え?と両隣に助けを求めるように視線を飛ばす。

 アルタイルって俺の名前なの?

 アルってアルタイルのアルってことだったのか。

 アルタイルって、これも星の名前じゃん。


 アル。王様に失礼よ。ちゃんとして。

 さっさと返事しろよ。


 デネブと瞬一にせつかれ、仕方なく二人に倣って膝をつき「少し頭を打ちましたが、大したことはありません」と答えた。


「そうか。それは良かった。では、折り入ってアルタイルに頼みがあるのだが聞いてくれるか」


 そう言って、おじさんは颯爽と馬から下りてさらに俺に近づいてきた。

 頼み?

 聞いてくれるかと言われても、この雰囲気じゃ、聞かないわけにはいかないじゃないか。

 デネブも瞬一もおじさんのことを陛下とか王様って呼んでいたな。

 この世界ではおじさんが王様なのか?

 さっき瞬一はポラリス陛下って言っていたけど、ポラリスって北極星のことじゃなかったっけ。

 星々は北極星を中心にして回るから、王様らしい名前と言えばそうだけど。


「剣士アルタイル」


 おじさん、いや、ポラリス王に名前を呼ばれて、デネブと瞬一に背中を押される。

 前へ出ろってことか。


 俺は一歩前に出て、その場に伏した。


「聞いているかもしれないが、先刻の魔族の襲来で、我が娘、ヴェガがさらわれた。お前はこれから仲間を二、三人募ってヴェガを捜し、この王国へ連れ戻すのだ。さすれば、お前を婿としてヴェガとの婚姻を認めよう」


 は?魔族?婚姻?どうして俺が?


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