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初めての野営ー2

 デネブは「もうっ」と怒りを示したが、足元のアンサーに向き直ったときは機嫌は直っていて「はい、どうぞ」と優しくシチューを与えた。

 そちらの方は冷ましてあったのか、湯気は立っていない。

 アンサーは一心不乱に舌をシチューに舌を伸ばし、大きな肉を美味そうに咀嚼した。


「ねぇ。アルはチキューではどういうものを食べてたの?」

「そうだなぁ。好物はハンバーガーかな」

「ハンバーガー?それって、どういうものなの?」


 どういうもの?

 ハンバーガーを説明したことのなかった俺はその問いに戸惑いながらも、ひき肉と玉ねぎでハンバーグを作るところから、バンズに挟むところまでを何とかかんとか説明した。


 デネブは俺の拙い説明を真っ直ぐに俺の目を見て聞いてくれた。


「ふーん。なるほど。今度作ってみるね」


 アンタレスがテーブルに戻ってきた。皿は川の水で洗ったのか、ピカピカにきれいになっている。

 驚くほど食べるのが早い。


「にしても、分かんねぇんだよな」


 デネブの膝の上にアンサーが飛び乗ってきて小さく丸まった。

 デネブはアンサーの背中を撫でながら「何が分かんないの?」とアンタレスに訊ねた。


「今回の魔族との戦いは毎月のように起きてる小競り合いと同じだと俺は思ってる。襲ってきた魔族の数もレベルもはっきり言って大したことなかった。それなのにヴェガ王女がさらわれちまった」

「そう言われてみれば、そうね。少なくとも先の大戦のレベルじゃなかったわ」


 デネブは思案気な表情で顎に人差し指を当てる。「あたしは見張りがぼけっとしてたから発見が遅れて城壁の中まで入られちゃったって聞いたけど?」


「確かにそうみたいだけど、王女はどこでさらわれたんだ?」

「どこかは知らないけど、護衛がついてなかったっていうから王宮ではないみたいね。お忍びでどこか行ってらっしゃったのかしら?」


 そこで二人の視線が俺に向く。

 そうか。

 俺はヴェガ王女と付き合ってるんだ。

 お忍びで王宮から脱け出したのは俺のところへ来るためだったのか。

 あるいは、俺のところから王宮へ帰る途中だったのか。

 どちらにせよ俺が絡んでいる可能性高いのだろう。

 でも……。


「お、俺は知らないよ」

 俺は顔の前で大きく手を横に振った。

 嘘ではない。

 俺がアルになる前のアルのことは俺には分からない。


「そうね。アルはあたしと一緒に戦ってたもんね」

「そうだよなぁ。しかし、どうしてこうも簡単にヴェガ王女がさらわれちゃったのかなぁ」


 いくら考えても答えはアンタレスにもデネブにも分からないようだ。


 俺は二人に気になっていたことを訊ねた。


「ポラリス王って娘が魔族にさらわれたのに、結構平気っぽくなかった?普通、もっとおろおろするもんじゃない?」


 俺の言葉に、デネブは「そう言われればそうかも」と同調し、アンタレスは「なかなか鋭いな」と褒めた。


「実はな、ヴェガ王女は、前のポラリス王、ポラリス七世の娘なんだ。今のポラリス王、ポラリス八世はポラリス七世の弟君で、つまりヴェガ王女の叔父にあたる。ヴェガ王女は今のポラリス王の養女になったから娘であることは間違いないんだが、血のつながった娘じゃないから取り乱すこともなかったのかもな」

「ふーん。じゃあポラリス七世は亡くなったってこと?」


 俺が質問を続けると、アンタレスは暗い顔をしてそっぽを向いた。


「そっか。アルはそれも知らないんだよね」


 アンタレスが口を閉ざした代わりにデネブがポラリス七世の死について説明してくれた。


 三年ほど前、王国は魔族から大規模な戦争を仕掛けられた。

 それは両者とも夥しい犠牲を払うかつてない衝突となった。

 最後は前ポラリス王と魔族を率いたサタンが差し違える格好で幕引きを迎え、痛み分けの格好で辛うじてポール王国は魔族を退けた。


「この戦いを先の大戦って呼んでるの」


 そこでデネブは顔を近づけて小声で話しかけてきた。「アンタレスのお父さんは王様直属の近衛隊の隊長だったんだけど、先の大戦で戦死してるのよ」


 それでアンタレスの表情が一変したのか。

 俺は納得して先の大戦にはそれ以上触れなかった。


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