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突発的な物語集

アケビ戦争

作者: かんから

 ある秋の日。快晴ではなく、曇天ともいえない中途半端な模様であった。夏の暑さも抜けきれないかと思えば、夜になるとめっぽう寒くなる時もある。そんな時期。

 田中氏は、会社帰りにスーパーによった。果物が並ぶ棚の中に、みたことのない食べ物を目撃した。


 "アケビ″ だった。


 その、茄子に似た奇妙な形。近くにあった貼り紙には″バナナ風味です!″と書かれており、さらに謎が深まった。


 田中氏は試しに買ってみた。三個入りセットで398円。それが果たして、安いのか高いのかはわからない。


 10分後、家につく。日は既におちていた。ビニールに覆われていた″それ"を取り出す。触り心地は特段、違和感はない。


 次の瞬間、なにも知らない彼は暴挙に出た。房と思われる小さな突起の方から、盛大にかじりついたのだ。


 すると、音が聞こえた。爆発音ではない。なんとも気が抜けるかのように響いた小さな音。


 "パカッ"








『"パカッ″って、なんだよ。』

 思わず、アケビに突っ込みを入れていた。想像では内容物が充満しており、噛みごたえを期待していたのだが・・・。 中には空洞がみえた。その奥には、真っ白なほんわかした存在が、彼との対面を待ちあびていたのだった。色さえ赤であれば、筋子に見えたにちがいない。白く透明がかった中に、粒々の者達もいた。おそらく彼らは、種であろう。


 『可食部位はここだろう!』


 白く包まれた、その柔らかき塊を素手にとった。これまた盛大にまるごと口に入れたのだ。

 

 まず、"ぬるっ″とした。一秒ほど、味わっただろうか。その次に、包みを抜け出した後の種が舌に当たった。


 『・・・まあまあ、美味しいのかな。』


 しかし、バナナ風味はしなかった。何をもってして、そのように宣伝をしたのだろうか。一向にわからない。


 

 こんな事を考えていると、あっという間に種以外の部分が消滅していた。溶けてしまったのか、飲み込んでしまったのか。いや、種は口中にあるのだから、それ以外の柔らかい部分は溶けたのではなかろうか。

 いいよ、そんなことはどうでも。あまりにも早く終わってしまったやるせなさ。なにか、噛み足りない気持ち。必然だった。



 種を噛んだ。





 


 これまでに、これほどまでに、苦い食べ物を味わったことがあるであろうか。これよりかは少し大きいくらいのスイカの種だって、噛んだところで何も味なんかしないじゃないか!スイカの"それ″、つまり噛みごたえだけを満足させてくれるだけの存在。あまり大きくないので最終的には、すりつぶすだけに意義をみい出すだけの"それ″で良かったのに・・・。



 田中氏は、敗戦を迎えた。



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