ひとまずのお別れ
「まずブロードと言ったな?私の名はフェリールだ。もう一つの名は広まると困るゆえ、墓まで持ち込むつもりでおれ。」
少しの間を置いて語り出したのは玉座へ腰掛ける黒髪の少女、フェリールだ。
「わかりました。」
袖を下ろしながらブロードが答える。
「3人を送り返す予定ではあったが、事情が変わった。」
額に手を当てながらジェイクらに話しかける
「事情…?」
メフィアが聞き返す
「そう事情じゃ。口止めもある。」
「俺らは帰れねえってか?」
腰に下げた剣に手をかけながらキュリーが前に出る
「手荒なことはせぬ。それを一つ持ってゆけ。」
彼女が指さすのは入口より這ってきたジュエルスライムだ
「どれか一つ選べ。それを口止め料として持ってゆけ」
スライムが向きを変えるといくつかの宝石が輝いている。
「どれかと言われてもな…」
ジェイクには直感的に嫌な予感がしていた。知りうる限りでどれを選んだとしても大きすぎるのだ。
「足りぬか?ではもう一回り…」
「そうではなくて」
メフィアが言葉を遮る。
「これは俺らには大きすぎんよ…換金しようものなら追及されるのが目に見えて…」
肩を落としたキュリーが引き継いで答える
指先ほどのサイズでしか見たことがない宝石が拳よりも大きなサイズで並んでいるのだから、その反応は当然かもしれない
「むむ…では先に種類を選べ」
「選ぶならこの赤いやつだ」
ジェイクが指さすのは最も知られているであろうそれなりに有名な種類の宝石だ
直後少し震えたかと思えばジュエルスライムから赤い宝石が転がり落ちる。
「ではそれを分けよう」
ジュエルスライムが転がり落ちた宝石にかぶりつくと宝石は抵抗もなく凹んでいく
「それぞれに一つだ」
4センチほどの赤い宝石がスライムの背にはえてくる。それらが転がり落ちるとジュエルスライムは来た道を戻り始めた
「この部屋で見聞きした物。全てを漏らすでないぞ?」
睨むような視線でフェリールが見渡す
「わかったらそこの扉から出るが良い。」
彼女が指さした先には一枚の扉が立っていた
「どこに繋がっているのです?」
ブロードはなれない敬語を意識しながら尋ねる
「この迷宮の出口だ。人もおらぬ場所に繋げてある」
ジェイクが扉を開くとぼんやりと青白く光る石が浮いた部屋へと繋がっていた
「転移結晶…確かに出口だな」
迷宮特有の石である転移結晶。その効果は入口へと戻る事と、そして既に訪れた場所へと行けるという代物だ。
「じゃ、元気でなっ」
ブロードがまとめて持っていた荷物を整理した後、キュリーが立ち上がり扉へと歩き出す。
「魔術ギルドへは弟子入りしたって事にしておくから、語れる限りを手紙で頂戴ね?」
メフィアが続いて扉をぬける
「たまには…実家に戻ってこいよ?」
ジェイクが扉をくぐると扉は跡形もなく消え去った
「さて、これからどうしましょうか?」
寂しくないわけでは無いが、ブロードはできる限りの元気を出しながら尋ねた
「ヒロトの足跡を辿る。が、その前にやることが多くてな…」
むむむっと唸りながらフェリールが答える。
時間にすれば夜のはじめなのだが、2人が話をしている間に夜が更けてゆく。
素質が無いといわれてからはずっと受け身だったブロードがこの日、ようやく自らの意思で動き出したのである。
冒険者ギルドに内接する酒場。そこでジェイク達は酒を飲んでいた
「すぎた事を後悔しても、何も変わんないでしょ」
机の上で宝石を転がしながらキュリーが言う
「…本当に…あれでよかったのかとな」
普段なら一息に飲み干す量の酒をちびりちびりと傾けながらジェイクは暗い顔をしていた
「全く。死に別れたわけでもないのに…随分と落ち込んでいるわね」
呆れたような顔でメフィアは空になった容器を机に置く
「それは…そうなんだが…」
普段見せないほどの弱気な姿に、かなり滅入ってることが見て取れる
「それに、気になるなら会いに行けばいいのよ」
居場所を知っているかのような態度でメフィアは追加の酒を頼む
「彼女は迷宮の内部を把握しているようだった。それができるのは迷宮の主だったから、でしょう?」
迷宮の主、それは迷宮の全てを操るという。迷宮の最も深き場所で挑戦者を待ち受ける存在だ。
「…強く、ならなきゃな」
先程までとは違い決意に満ちた表情でつぶやくと、ぬるくなった酒を一息に飲みほした
未だ攻略されていない迷宮、エルの竪穴。その攻略は簡単ではない
ゆっくりではあるが攻略はされているのだから、不可能ではないはずだ。
追加された酒を一息に飲み干すと彼らは今後の予定を話し始めた…
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