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飾り扉の使い方  作者: へたすん
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古龍「スカル」

太陽を隠す程の巨大な影がブロード達を覆う。

馬車の中にいたブロードは空が暗くなるのに気が付き、天窓から顔を覗かせた。


「エルドリヒさん。なにか見えま……ヒッ!」

ブロードが目にしたのは手網を握る骨だ。


「しん…で……?」

「ハッ!」

ブロードが肩を叩くとエルドリヒは体を跳ねさせて目を覚ました。


「っと失礼。危うく死ぬところでしたよ。ハハハ」

骨から染み出した魔力が体を形作り、すぐに見慣れた姿へと戻る。笑って誤魔化してはいるがブロードを驚かすには十分な衝撃である。


「アレ……ですか」

ブロードの目にも巨大な龍の姿が写っている。

こちらへと向かってきている姿を見るだけで身を隠してしまいたくなるほどに、心の奥から恐怖が沸き起こるような圧倒的強者の風格。

フェリールの友人という事前情報がなければ失禁していたかもしれない。

かろうじてそのような事態は避けられたが。


眺めている間にも龍は真上へとやって来ていて、その場で旋回を始めた。

そしてその場で体を捻ったかと思えばその巨体は瞬間的に見えなくなる。


直後に落ちてきた者によって馬車の横に半径5m程のクレーターができ、大地を揺らす。

そして、立ち上がろうとした男は崩れるようにコケた。


「らしくないのう?スカルよ」

馬車から降りたフェリールが男に話しかける。


「こっちの姿は永く使ってないってか、ずっと寝てたからかぼんやりしてんだよね」

立ち上がる前に足を揺らしてからゆっくりとした動きで立ち上がった。


「いや、まさか足をくじくとはおもわないじゃん?」

長く伸びたヒゲと髪は顔の大半を覆い隠し、表情を読み取ることは出来ないほどだ。


「っと、邪魔だなこれー」

彼が爪で顔を掻くことでまるで剃刀を当てたようにヒゲが体から離れていく。最後に髪を雑に掻き乱すと印象がガラリと変わった。

白の混ざる灰色の髪は程よく切り落とされ、渋みのあるおじさんといった面持ちである。


「おっ?そっちの若者はお仲間かい?僕はスカル!宜しくね!」

伸ばされた手にブロードが握手をする。


次の瞬間にブロードは空を飛んでいた。


「あれ?随分と軽いんだねー?」

スカルはそんなことを漏らしてみあげている。


「少しは加減を…いや、そんな話ではなさそうじゃな」

フェリールはスカルの方を見ながら何かを考えるような表情となる。


ブロードは空を舞いながら混乱していた。

何が起きたかが全くわからないのだ。

実際、スカルは何もしていない。ただ軽い気持ちで握手をし、軽く手を振っただけなのだ。

なのに気がつけば空を飛んでいる。

ブロードの頭は疑問符で埋め尽くされたが、地面に落ちる衝撃で我に返ることとなる。


落下の始まる瞬間にフェリールがゲートを開き、勢いがつく前に地面へと到達する。

「ぐえっ」

「気をつけろと言うのを忘れておったわ。大事はないか?」

「若干……肩が痛いす……」

ブロードは地面に横たわったまま答えた。





「語りたい話もないことは無いが。スカルよ、どこまで把握しておる?」

「んー?龍と世界、どっちがー?」

「両方じゃ」

「こっちはくしゃみすれば払えるんだけど加減が効きそうになくてねー、解いてもらえると助かるよー。世界樹は2本が弱ってて枯れかけてるのは回復を待ってる状態だねー。アースの気配が感じられないからその他はちょっと分からないかなー」

「ふむ。様子を見に行ってやるか」

「あっじゃあ僕もいっていい?」

「世界樹は良いのか?」

「あーそっかーやめとくー」

「まずは外すぞ」

フェリールが作り出した黒色の魔力をスカルの身体へ纏わせるとパチパチと静電気が走る様な音が鳴る。


音が止んで魔力を霧散させると先程よりも随分と若くなったスカルが現れた。

髪色は銀に近い色となり身長もやや縮んでいる。


「いやースッキリした!ありがとー」

「他の場所は任せるが良い」

「頼りにしてるねー!とは言っても2、3日なら大丈夫だし付いていくよ!」

「じゃが、向かうのは城じゃぞ?」

「ついでに今だいの魔王を見よっかなーって」

「ふむ。なれば乗ると良い」

「じゃあ遠慮なくぅー」

スカルは駆け込むような速度で馬車へと乗り込んで行った。


「ブロード、あれはあぁいうものだ。怒らせれば手に負えんが、かといって軽い気持ちでやった事も他から見れば理不尽の塊じゃからな、深く考えるでないぞ」

「それは……はい」

既に被害にあったブロードはもっと早く教えて欲しかったと恨みがましい視線を送るのであった。


こうして一行は魔王の住む城へと向かって動き出すのであった。

ほのぼのとした雰囲気が終わるのは間近ではあるが、そのことに気がつくことは出来ない。

いつまでも変わらないものなどなく、全ての物事には終わりがある。そして、忘れた頃にそれはやってくるのだ。







およそ1日の旅を続け、彼らは都を前にしていた。

そこは壁のない街であり、中央に見える城を基点に外へ向かうほどに建物が質素なものへと変わっていく。


「ふーむ、随分と広がっておるのぅ」

「城壁とか無いんです?」

ブロードは防衛がどうなっているかが気になっている。

「昔から魔族に守るという考えはないってことだよ!」

「それにな、大陸で一番強い魔族である魔王がおるのじゃ。攻め込むのは考える力のない魔物らで血の気の多い者が率先して特攻しておるよ」

「夜もそうなんです?」

「種族によって活動時間が違うでな。寝静まる事はないのじゃ」

ブロードはなるほどと納得しながら首を振っていた。


「まずは宿を……」

そう呟いたフェリールの方からパキンと音がする。


「なっ!?」

フェリールが慌てて手元を見ると指輪にヒビが入っていることに気がつく。


「嘘じゃ……そんな……なぜ」

フェリールが体をわなわなと震わせるのを見てブロードはどうかしました?と声を掛けた。


指輪が砕けるということは繋がりのある相手が死亡したということである。

「どうして……」

ブロードは崩れ落ちた指輪の欠片を見てその意味を知る。


スギノヒロトの死亡。それはこの旅の目的である前提が揺らぐ事態である。

しかし、手がかりすら見つかっていない現状で彼らに出来ることは無い。

故に、ただ間に合わなかったことを嘆く事しかできないのである。




直前まで日の差していた空に、どんよりとした雨雲が広がりつつあった。

そして、フェリールは涙を流して嘆く頃には大粒の雨が降ってきていた。

来週もよろしくお願いします。




ヒロト「スカイルーラーって事でスカルで」

スカル「えっ何その捻りもないネーミングセンス」

ヒロト「え?カッコよくない?」

スカル「骨っぽいしドラゴンらしさは無いよね!?」

ヒロト「いいじゃんいつかは骨になるんだし」

スカル「ならないからね!?」

フェリール「諦めろ。あやつは言ったことを曲げるような性格ではない」

スカル「嘘だ……何でこんなことに……」


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