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飾り扉の使い方  作者: へたすん
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動き始める者達

作者がリハビリを始めました。

──おや?随分と懐かしい気配がするなぁ。


大陸の北端、荒野の果てには男が住んでいる。


──ふむ。挨拶でもしてやろうか。


永らく動かしていない身体を起こし、ゆっくりと慣らしていく。


──また楽しく過ごせれば良いなぁ


思い浮かべるのはかつての悪友。勢いに任せて様々な事をしていた。


──儂を見て、お前はどんな顔をするだろうな?


目指すは大陸の中央。退屈な世界に刺激を求めて。


──生きているならまた遊ぼうや


長く果ての荒野に横たわっていた山のように巨大な龍が、翼を広げて飛び立った。


──おーーーい。おれはここにいるぞ。


その咆哮に世界が震え、魔物は怯えて巣穴に隠れ、空は青く晴れ渡る。

その咆哮の意味を知るものはとても少ない。






魔大陸へと渡った後もブロード達は相変わらず馬車に揺られていた。


「あんまり、変わらないですね?」

ブロードは外を眺めながらそんなことを言う。

道があり魔物がいて町がある。

姿は変わっても営みはかわらない。


「魔族と人の違いなど強さと姿程度のものじゃ。変わりようがないであろう」

フェリールはかつて肩を並べた者達のことを思い出しながら懐かしさを噛み締めている。

(今となっては…生きてはおるまいなぁ)

それは確信めいた予感だ。

フェリールも1度は肉体をなくしているので運良く生き延びていることなど期待はできない。


「あ奴らの孫でも見てやるかのぅ」

「友人…ですか?」

「うむ、千年も生きられる者など数える程しかおらんて。知ったものは多いが殆どは死んでおるじゃろうなぁ」

「そう…ですか」

気の利いた事も思い浮かばず、ブロードはそれだけしか言えなかった。


「なに、気にするでない。今を生きられることの方がよっぽど楽しいわ」

フェリールは穏やかに笑う。

「そうですね」

知ってしまった以上すぐに割り切れるものでは無いが、とりあえずは気にしないことにして気持ちを切り替える。


「街までそう遠くない。新たな出会いを見つけらば良いのじゃ」

「街…どんな場所なんでしょうか」

ブロードは初めて訪れる街に思いを馳せていた。


突如ドクンッと跳ねるような感覚がブロードを、馬車を、世界を揺らす。

「今のは!?」

何が起きたかは分からない。だが、何かが確実に起きている。そんな恐怖がブロードを襲う。


「アレは…ふむ、ブロード。窓を開けるのじゃ」

「えっはい」

ブロードは小窓を開けて外を見渡す。


遅れて咆哮が空気を揺らした。


「あ奴も生き残っておったか…」

フェリールに自然と笑が浮かぶ。


「…えっ?」

体の底から恐怖の震えが湧き出るような叫びにブロードは言葉をうまく聞き取れていなかった。


「恐らくこの世で最も長い時を生きた友人が、我に会いたがっておるのじゃよ」

「知り合い、ですか!?」

「取って食われることも無いじゃろう……タブン」

はっきりと言い切ることのないフェリールに、ブロードは若干の不安を覚えた。







古龍の去った荒野の果てに、老いた男が残っていた。


「動いたか……手間を取らせてくれる」


男は地面に突き立てた杖を仕舞い、景色に溶け込むように消えた。

荒野に静寂が訪れる……そこに生物の気配はない。






その日、帝王の前に主要な者達が集められていた。


「もはやこの国に未来はない。だから奪う、それだけだ」

その言葉に場はざわめく。


「はじめるぞ」

帝国が、飢えた獣が動き出す。


足りない物は奪ってきた。今までも、これからも。

飢えが帝国を駆り立てる。

奪い、飲み込み、育っていく。


だが……飢えた獣は気が付かない。

実った果実しか目につかない。

すぐ側で狩人が息を潜めていることに。


後に帝国の悪夢と呼ばれる地獄が始まろうとしていた……

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