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飾り扉の使い方  作者: へたすん
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国境を越えて

エルフの中でもフィーは若い世代に入る。

故に自分より強い存在が居ることも知っていた。

だがこの日、であってしまった者がどれだけ強いかを察することは出来なかった。

村の長老達であれば勝てるだろうと考えていた。

だが、それ以前にこの男が結界を超えることは無いとも考えた。


「で?こっちにあんのか?」

村の結界は証なきものを追い返す効果がある。

たとえ横を歩いていたとしてもその効果が出るはずだった。


「…あ、あぁ」

おかしい。

既に結界の範囲に入っているはずなのに男は平然と横を歩いている。


「随分とゆっくり歩くんだな?」

赤髪の男はだるそうに訪ねてくる。

「2人も担いでるからな」

赤髪の男のはち切れんばかりの筋肉。それが飾りではない事を身をもって体感した男達をフィーは背負っている。


「それで、村でお前は何をするつもりなんだ?」

フィーは時間を稼ぐつもりで話掛ける。

「世界樹とやらにあいに行くのさ」


まずい、と直感した。

この脳筋の如き男に世界樹を見せたら何をされるか分からない。

世界樹を護るという意味ではこの男を近付ける訳には……

「で?どうして真っ直ぐ進まねぇんだ?」

男が呆れたように言い放つ。

どうやら時間稼ぎはさせてもらえないらしい

「……村の安全のために決められた道があるんだ」

「めんどくせぇことするな」

「文句があるなら森に言え」

そう誤魔化しつつもゆっくりと歩き、気がつけば村へとたどり着いていた。

男を連れて、である。


「へぇ、聞いてたよりちいせぇな?」

「何がだ?」

「世界樹の気配がだ」

その言葉にフィーは驚いた。

この男は世界樹の事を誰かから聞いているのだ。

それも、その存在を感じることが出来るほどに。

「知っているのか?」

絞り出すように呟くのが精一杯だった。

「当然、この結界のこともな」

それは最も悪いパターンである。

「そう、か」

フィーは誰からなどと聞くことを忘れる程度には混乱してしまった。

しかし、打てる手はうってある。

その証拠に既に迎撃の準備が……


「いいねぇ!俺に本気を出させてくれよ?」

男は笑った。囲まれている事を理解したうえでだ。

次の瞬間には周囲から矢が放たれ、間を開けずに魔法が打ち込まれる。


これで倒せたら良いのだが……

巻き込まれぬよう距離を取りながら、フィーはそう考えていた。







南南西から帝国領に入ったブロード達は帝都に向かわず、5日ほど掛けて北西の国境を越えようとしていた。

どんっと音がして馬車がかすかに揺れる。

「今何かおとがしました?」

馬車の中で雑談をしていたブロードは小窓から外を見渡した。


「気のせいではないか?」

フェリールは冷やした茶を飲みながら呑気に答える


ブロードの目に見えたのは小屋らしきものの残骸だ。

そこは本来帝国軍の詰め所であり、出入国の確認をする場所であった。

しかしブロードは初めての通る道であり、それがいつから瓦礫の山となっているかは知る由もない。

その建物はまるでなにかに押しつぶされたかのように崩れているのだが、ぱっと見ただけでは分からなかった。


馬車は常時揺れながら進むもので、微妙に違う揺れが混ざっていたとしても誤差の範囲内である。

自分以外が反応していないというのも気のせいであることを示唆している。

結局、ブロードは国境を超えたことすら気が付かないまま馬車に揺られ続けるのであった。



王国を出発してから十日目。一行はかつて大陸を二分したとされる亀裂を見下ろしていた。

歴史では勇者と魔王の戦いの結果だと言われているが、規模が大きすぎて疑問視する声もある。

幅4、500メートルほどの亀裂は世界を割ったように深く、端の見えぬ程に広いのだ。

どれほどの魔法であればこうなるのかがわからず、神がおこした奇跡の類では無いかとも言われている。

事実、魔物などの人にとって脅威に当たる存在が切り離されているのでそのように言われるのも仕方ないことである。


「それで、どうやって渡るんです?」

2つに別れた大陸は見える範囲に存在しているが、その中央当たりでは一切の魔法が使えないとされている。

今まで何度も、魔法で飛び越えようとした者が半ばで魔法を途切れさせ、見えない底へと自由落下をしている。

犠牲を伴う考察の結果、魔法を打ち消す力が働いているのだとされている。

「どう、とは?」

心底不思議そうにフェリールは首を傾げる。

「魔法で飛んで行けない場所ですよ?ここって」

「なぜ飛んでいくと?あぁ、馬車を降りたのはただの観光じゃて。わざわざ飛び越えようとは考えておらんよ」

そう言ってフェリールは魔法を使う。

【ゲート】

馬車が余裕で通れるほどの大きめの扉が目の前に出現し、ブロードは納得がいった。

この手があったかと。

「航空学、航空力学と言っておったか?魔法に頼らぬ方法でも超えられるはずじゃが作るには時間がかかるからのう」

そう言ってフェリールは後に纏めた黒髪を靡かせながら扉をくぐった。

それに続いたブロードはあまりの簡単さにこれでいいのかと思いつつ、どんな場所になっているのかと期待に胸を踊らせるのであった。

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