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飾り扉の使い方  作者: へたすん
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街道沿いの治安

一人の男が森を駆け抜けていた。

「クソっ……」

なぜこんなことに、そんなことを考えながらだ。

男は必死に脚を動かしている。

背後を振り向く余裕はない。

力尽きるその瞬間まで動いていなければ不安に押しつぶされてしまいそうだからだ。


ーー簡単な仕事だと思ったのに


男はとある盗賊の斥候だった。

街を出た護衛もいない高級感のある馬車。

それを襲って金目のものを拾うだけ。

たったそれだけのはずだった。

中に乗っているのは2人の男女。従者の老人と合わせてもあまりに数が少ない事をもっと警戒すべきだったのだ。

曲がり角の先に丸太を転がしておき、止まったところへ武器を持って取り囲むという簡単な仕事だ。

丸太を見た馬車が止まったことは良かった。

8人で取り囲んだのも予定通り。

首領が馬車の前に立って声を上げたところまでは今までと同じだったのだ。

違ったのはそこから。

従者の男が馬を馬車から切り離した。

自由になった馬はひとなきして走り出した。

馬を逃がすのかと思ったがそうじゃなかったんだ。

馬が正面に立っていた首領へと襲いかかったんだ。

慌てて剣を降ったが馬の鎧がそれを弾き、あっさりと首を噛み砕かれて動かなくなった。

そこからは一方的な蹂躙さ。

鎧を纏っているとは思えない速度で走り抜け、次々に人を蹴り飛ばしていった。

息を潜めて見ていた俺は馬が馬車へと繋がれるのを待って駆け出していた。

遺品を拾う暇などもなく、がむしゃらに駆けている。

拠点で金目のものを奪うために。

リーダーのいなくなった組織から抜けるために。

どこか遠くへ逃げ出すために。

ようやく見えた、あの洞窟に入りさえすれば……


男は知らない。

馬車に乗っていたもう1人の男の事を。

音もなく駆ける追跡者を。

男は知らない。

明日を迎えられないことを……






「今くらいしか話すことが無いからきいておくんですが、言えない事って多いんです?」

馬車に揺られているブロードは正面に座るフェリールに尋ねた。

「何がじゃ?」

「例えば角持ちの大鬼とか、赤鬼が噂になってないとか、他の従者の話とか色々」

「気になるか?」

「勿論。ただ、聞いても教えてくれないでしょ」

「まぁのぅ。知らぬが良い事も多いのじゃ」

「隠されると知りたくなるんですが」

「ハッキリ言ってまともではないことをしておるからな」

「それでも……いつかは知る事です」

「いつか、はいつじゃろうな」

「教えてくれたら今日にでも」

「知りたいか?人として納得出来ないことも多いぞ?」

「既に人を辞めてるんでしょ?僕も」

「それもそうじゃな」

「なら少しでも早く知ってそれに慣れたい」

「ふーむ。まぁ随分と従者らしい考えになったのぅ?」

「人が変わるのに時間はかからないですし…ただ前に進みたいだけです」

「そうか。ならばその意志を尊重しよう」

「じゃあ、教えてくれるんです?」

「時間をかけて、な?」

「十分です」


馬車の速度が落ち、徐々に揺れが小さくなる

「止まった…かな?」

「そのようじゃな」

上部の小窓が開きエルドリヒさんが顔を覗かせる。

「野盗がおります。8名ほど」

「すぐ降りますね!」

それを聞いてブロードは立ち上がる。

「大丈夫じゃ。座っておれ」

「えっ?でも囲まれてるんでしょ?」

「もう終わります」

「え?」

「予定通りに頼むぞ」

「1人が()()()()ので蒼をつけました」

「うむ。まずはその辺を語るとしようかの」

「すぐに動かします」

エルドリヒさんが小窓を閉めてしばらくするとまた馬車は動き出す。

「まずは鬼の話じゃな」

フェリールはゆっくりとした口調で語り始めた。



自然に産まれる魔物と迷宮で生まれる魔物には強さの差があるとされている。

迷宮では幼体を見ることはなく、外では幼体を育てる魔物の姿が確認されている。

「あの五体の大鬼は外で生まれた者じゃ」

「拾ってきたんです?」

「間違ってはいないが…その言い方はどうなんじゃ?」

「外で産まれたにしては、随分と成長が早くないですか?」

「ムムっ!……まぁ、それは、の。素質あるモノを迷宮で育てたからじゃな」

「育て方で特徴が出るものなんです?」

「迷宮では育てやすい反面、実戦経験が少なくてなぁ」

「外で連れてきても同じじゃないんです?」

「そこは腕の見せどころじゃよ。経験が足りぬなら与えれば良い」

「どうやって?」

「魔物もな、人みたく成長するのじゃよ。逃げられぬ場所と獲物を与え続ければ自然と経験が増えるというわけじゃ」

「ちなみに、彼らの強さ的にはどれくらい変わるです?」

「そうじゃなぁ……技術では上の階級を超えるのではないか?」

「……そんな彼らが配下になったと?」

「まだまだ成長中じゃし、もっと伸ばすぞ?」

「えっ?」

「強くなくては、生き残れないからな!」


その言葉にブロードは、何を相手に戦うのだろうと首を傾げた。

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