新たな旅路
生きるって凄い。続きますよ!
木の上を進む男達が静かに止まる。
先頭の男が手で合図をしたからだ。
男は風景に溶け込むような深緑色のマントを身につけていて、下ろしたフードから整った顔が現れる
「距離は?」
「300」
追いついた男が獲物までの距離を訪ねそれに短く答えると手早く弓を取り出して弓に矢を添えて狙いを定める。
視線の先にいるのはランドボア。
冒険者の中では駆け抜ける悪夢と恐れられる、森の中の上位にいるであろう魔物である。
魔法で強化された矢は静かに放たれる。
木々の間を抜けながら一直線に矢は飛んでいき、矢が当たる直前になってようやくランドボアが振り向いた。
それと同時に脳天へと刺さりランドボアの命を刈り取る。
「命中」
男はそう呟いてふぅと息を吐いた。
「流石だな、フィー」
「手早く解体そう」
それを見ていた二人の男は移動を開始するがフィーと呼ばれた男はすぐに動けなかった。
何かを見落としているような気がする。
得体の知れない不安が身を包み、直後にその意味を理解した。
視線の先、獲物に刺さった矢を引き抜いて眺める男がいたからだ。
そして、気がついてしまう。
ランドボアは動かなかったのではなく、動けなかったのだと。
視線を逸らすことの出来ない敵が目の前にいて、こちらに意識を向けることが出来なかったのだと。
「戦闘用意!」
反射的に声が出ていた。
人間が1人で、それも武器すら持たずにこの森に入ってくるはずがない。
先行した2人から微笑みが消え即座に警戒を強める。
ランドボアの遺体のそばで、赤髪の男はにやりと笑う。
永く世話になった宿に別れを告げたブロードは、女将さんに行ってらっしゃいと送り出された。
暗に疲れたら帰っておいでと言われているような気がした。
恐らく帰ってくることはないのだが、悪い気にはならなかった。
たまに顔を見せに帰ろうかなと考えながら宿を出ると宿の目の前に一台の馬車が止まっていた。
見るからに丈夫そうな馬車は全体的に黒で統一されていて、シンプルな見た目でありながら高級感のある仕上がりだ。
繋がれた2頭の馬は黒く塗られた鎧に覆われていて、どこか置物のような雰囲気を纏っている。
「ささ、手早くお乗り下さい」
そう言って馬車横の戸を開いたのは執事姿が板についてきたエルドリヒさんだ。
今の姿になった時からそうであったとは思うものの、魔物から人に変わったとはにわかには信じられないほどだ。
いや、元が人だったなら人らしさを取り戻したって感じなのかな?
馬車の中には革張りの座席が並んでいて、片側には白のワンピースを着た黒髪の少女が脚を組んで座っていた。
「はよう座らぬか。すぐに出るぞ」
促されるままにフェリールの向かいに座ると馬車は滑らかに動き出した。
どこか不服そうな視線に耐えきれずに小窓から外を眺めると、馬車は西門へと向かっていた。
「馬車ってことは街道沿いに進むんですよね?」
「…うむ。なんじゃ、もっと驚くかと思っておったのに」
「そりゃあ驚きはしましたけど、パニックになる程じゃ無いですし」
「仕方ない、今後の予定を話すとするか」
「てっきり亀裂を横断するのかと思ってたんですけど……」
「それでも良かったんじゃがな、多少の寄り道も悪くはあるまい?」
「その割に出発を急いでますよね?」
「うっむ……それは……のう?」
「……何か、あるんですね?」
今度はブロードがじっと見つめる番だ
「ひゅ、ひゅ〜〜」
「口笛吹けてないですよ」
「まぁ、その、なんじゃ?」
「言い難い事なんです?」
「うーむ……少し治安が悪くなっておるのは知っておるか?」
「帝国で、ですか?確かに流れてきてる人が増えてるとか言ってたような」
「その関係じゃ」
「え……治安悪くなってるって噂もありますよね?」
「野盗が増えておるらしいな」
「そんな所に何をしに?」
「行けばわかるじゃろうて」
「……近々出入国が制限されそうな場所へ行くんですよね?」
「そうじゃ」
「それまでに入国したいと。寄り道ってことは目的地では無いってことですよね?」
「うむ」
「賊狩りだったりします?」
フェリールは笑って誤魔化した。
理解したブロードは、これから命を狙われるであろう盗賊が少しかわいそうに思うのだった……
ではまた次週!




