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飾り扉の使い方  作者: へたすん
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勝鬨の裏で

赤土の副長、リヴィは燻っていた。

年に1度の森狩りでろくな相手に出会えなかったからだ。


「オラっ!」

軽く剣を振り払うだけで敵が絶命して転がっていく。


「全く、強いやつが出るんじゃ無かったのかよ」

日が真上を超えてからしばらく立つが、ゴブリンやコボルトといた弱い敵にしか出会って無いのだ。


「姐さんに怯えて逃げたんじゃないですヵヒュッ」

軽口を叩いた男は脇腹を抑えて転がった。


「まったく……」

否定はできないが面白くないので反射的に足が出てしまっていた。

「どうするかねぇ…?」

もし逃げられているならこの先も遭遇する可能性は低いだろう。

リヴィが腕を組んで考えていると、皮膚をチリチリと焦がすような視線を感じた。


「おや?そっちにいるのかい?」

周囲の者にはわからなかったらしく首をかしげている。

リヴィは剣を握り直してから歩き出した。

「ご指名のようだ、行くよ」

噴火前の火山のように、リヴィは闘志を燃やしていた。



後に炎帝とも呼ばれるリヴィの名声はこの日を境に大きく広まる事となるのだった。








人々が酒を飲み交わし、祝勝会とは名ばかりのどんちゃん騒ぎをして夜が老けていく時。

ブロードは身動きが取れないでいた。

それは蛇に睨まれたカエルのようで、殺されるのではないかという恐怖が全身を縛り付けて離さない。

彼は今、武器も持たずに立っている。

正面には5人。

いや、五体というべきだろうか?


昼間に見た記憶のある赤色の大鬼。

身長は同じだが細身の青色の大鬼。

血の気がなく置物の様に土色の大鬼。

ひと回り小さく紫色の大鬼。

そしてリヴィに討伐された鬼とそっくりな黒色の大鬼。

それらに共通するのは角が4本であるという事実のみである。


そして。5体の大鬼はブロードの方を向いている。

それらの目線は好戦的であったり興味を覗かせていたりするが、彼にとってはそれどころではない。

単体ですら国の危機とも言われる厄災の目線がブロードに向けられているのだ。


背には汗が出ている。身体は動く気配が無い。生きた心地がしていない。


彼が立っているのは玉座の横。

呼び出されて来たはいいが直後に訪れた鬼たちにより離脱することが出来なくなったのだ。

ブロードの緊張が高まり、今にも意識を飛ばしそうになった時、玉座の部屋に声が響く。


「頭が高い」


その言葉を境にブロードは体が軽くなったように感じた。

それと同時に鬼達は片膝をついて頭を下げる。

よく見れば身体が震えていたりするのだがブロードは呼吸を整えるので精一杯だ。


ちらりと横を見ると玉座にフェリールが退屈そうに爪を撫でていた。


「弱いのぅ」

それは何に向けられた言葉だろうか?

視線に耐えきれず手ぶれそうになったブロードへの言葉かもしれない。


赤い鬼が立ち上がろうとした。

否、立ち上がる勢いで前に倒れた。


「む?平伏するとは随分と献身的ではないか」

フェリールは微笑む。

鬼の拳が握られている事から意思は抗っているらしい。

見えない力に押しつぶされているように、鬼の体は起き上がることがない。



「忠誠を誓えば受け入れよう」

フェリールは頬杖をついて片手を伸ばす。


それに反応したのは青の鬼。

続く様に他の鬼も動く。

最後に赤色の鬼は諦めたように身体を起こして動いた。


片手は胸の前へ。あいた手でフェリールの手を取るように伸ばす。

フェリールから伸びた魔力が鬼たちを包み、その姿を変えていく。


「やはり…つられておるのぅ?」

フェリールはブロードへと目線を向けて声をかけた。

「?」

ブロードは首を傾げる。


「見よ。魔物ではなく人の姿をしておろう?」

フェリールが指す方には五人の男。


色白で糸目の男。

死人のように顔色の悪い男。

やや日焼けの目立つ男。

黒色の肌の男。

そして存在を強く主張する筋肉を持つ男だ。


立ち位置からそれが鬼であったことは理解できる。

そして、従属により強くなることも想像に容易い。


「それぞれの強さは後で確かめるとして。ブロード。宿を引き払うでな、話をつけて荷物をまとめて来い。次に戻るのはずっと先である。すべて運べ」

「了解、です」

緊張に凝り固まった体を労りつつブロードは歩き出す。


「戻ってきたら進路について語るでな。速くな?」

ゆっくりとした動きで歩くブロードをフェリールが急がせる。

フェリールは椅子から立ち上がり背伸びをしていた。



ブロードが部屋を出た直後、ドンっと大きな音が響いた気がした。

「急ごう」

ブロードの声に反応はなく、通路の闇へと消えていく。

いそいでいるからか、ブロードとすれ違いに部屋に入った男に気が付く事は無かった。

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