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飾り扉の使い方  作者: へたすん
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赤色の鬼2

ドっと鈍い音がした。


一人の盾持ちが壁の異常に気がついた時だ。

崩れ落ちた壁の上に立っていた者達が悲鳴をあげながら転がってくる。

安全だと思い込みなんの構えもしていなかった冒険者がまともな着地ができるはずも無く、捻挫や打撲といった軽傷を負うものも存在する。


パニックに陥る者達に気を取られ目線をそらす。

そんな隙を鬼が見逃すはずも無く、鬼が拳を振り下ろしたのだ。

だがその攻撃は盾持ちの男に届くことはなく、割って入ったフェリールによって相殺されたのであった。


フェリールが拳を捕まえるよりも早く鬼は腕を引き、さらに数歩の距離をとった。

強者の余裕か、それとも好敵手への期待か。

鬼は口を歪めて笑っていた。



ゴオォ…と鬼が吠える。

魔力とともに吐き出されたソレはデバフとなり、周辺を取り囲む人間らに萎縮や硬直などの状態異常をもたらす。


混乱の最中である若輩には効果が高く、中には呼吸することを忘れてしまうものも存在する。


そして鬼にとっての咆哮はただの時間稼ぎでしか無く、付近の上級冒険者が復帰するよりも速く拳を地面へと叩きつけていた。


ぴしり。

地面が音をたてる。

中央から広がった音は連鎖的に広まり、次第にびしばきと地面が悲鳴をあげていく。

平らだった地面には亀裂が走り、蜘蛛の巣のように足元を埋め尽くしていく。


あっ……と誰かが気の抜ける声を発したのは地面が抜ける前だっただろうか?

先ほど崩れ落ちた淵の瓦礫と共に、逃げ損ねた冒険者達は地下の空洞へと落ちていくのであった。





穴の底に水が溜まっていたことは冒険者にとって幸運だったはずだ。ろくな着地もできないままに瓦礫の下敷きにならないのだから。

だが、森の中で泳ぐための準備をしているはずも無く。

剣や盾、鎧といった金属類は沈んでいったために浮かび上がることもできぬまま沈んだ冒険者も存在する。

パニック状態が落ち着くよりも酸欠で意識を失うほうが早く、生き残るのは難しいのだ。


ちなみにブロードは装備を失わなかった側である。

ラビという優秀な相棒が手早くブロードの背負っていた盾を操り、浮いた盾に掴まることで沈まずに済んだのだ。

盾の大きさからして乗ることは出来ないが、沈まなれば十分だ。

濡れはしたが装備を落とす事は無かった。


陸に上がった冒険者は大まかに二つの行動をとった。

水中へ戻って道具や人の引き上げをする者達と、周囲の探索を行う者達だ。

そのメンバーと周囲にフェリールと鬼の姿はなく、どこからか戦っているような音が響いているため離れた場所へ移動したものだとブロードは理解した。

先程までののんびりとした雰囲気からフェリールが負けるようなことはないのだろう。

そう考えてブロードは周囲の調査を手伝うのであった。



穴の上に残った者はロープや薪などを集めていた。

夕方までに梯子などが届くではあろうが、下にいる者達の荷物は殆どが濡れているため明かりの確保が急務であった。



明かりを確保し動き出した冒険者達は周囲の探索を行い泉の周囲に二つの道があることを理解した。

一つは戦闘音のしていた方向でもう一つは泉の中に潜るような道だ。

とはいえ水中に潜って進める者はおらず、探索は一方のみとなった。仮に水中へ進めたとしても道として繋がっているかかは不明なのだが。



「おい!大丈夫か!?」

戦闘を進む冒険者が声を上げる。

「ん?あぁ、大丈夫じゃ」

少し広くなっている場所に居たのはフェリールである。

所々服には傷が付いているが、目立った外傷はない。


「何があった?」

「赤い鬼との乱闘じゃよ」

冒険者の問にフェリールが答える。


「もっとも、倒すことは出来なんだが……」

見渡す限り抉れた地面や崩れた壁など、戦いの跡は見られるが魔物の姿はない。


「この先に逃げたのか?」

「うむ。が、追いかけるのは無理じゃろうて」

「ん?それはどういう……」

男が聞き返そうとすると道の先へと進んでいた者が戻ってきた。


「駄目だ!崩れてやがる!」

「チッ行き止まりか。赤鬼の状態はどうなった?」

探索を諦めゾロゾロと泉へと戻る冒険者たち。

今の彼らに出来る事はフェリールから情報を聞き出すくらいだ。


「倒すには至らずじゃ」

「単独で生き残ってるだけで十分な成果だとは思うがな」

「まだ確かなことではないが……角持ちの将軍クラスがおるやもしれん」

その言葉に周りの男達が一瞬固まる。


「嘘、だよな?」

「外の状況次第じゃな。仮に他にも角持ちが居れば可能性はある」

「ってことは他にも角持ちが居たのか?」

「逃げられた時にな、道を切り崩した奴がおる。横の繋がりがあるのじゃ、上に居てもおかしくはあるまい?」

「いて欲しくはねぇな」

角なし大鬼の将軍でさえ討伐には苦労するのだから、角持ちともなれば国が指揮することもあり得る。

彼らの雰囲気は随分と重たくなっていた。






そして、地上へと戻った冒険者たちが聞いたのは、黒い鬼の角持ちが討伐されたとの報告だった。


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