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飾り扉の使い方  作者: へたすん
43/55

精霊の形

1月以上も更新が止まるとは思いませんでした…

来週もよろしくお願いします。

祭壇を取り囲む燭台には青い炎が揺らめいていたが、徐々に色は薄くなり真っ白い炎へと変化していく。

白は部屋を明るくし、そして目を開いていられないほどに埋め尽くしていく。


「あの…目を開いてられないんですけど…」

小声で話しかけるブロードに黒髪の少女、フェリールは優しくこたえる。

「奇遇じゃな、我も見えぬ」

炎が燃え盛る音のしなくなった真っ白な部屋。

時の流れが止まったかのような静かな時間が終わり、部屋は徐々に暗さを取り戻していく。

白から青へ、最後に赤い炎が揺らめいて消える。

部屋の明かりが消えても、祭壇にいた赤髪の女リヴィの側はぼんやりと明るい。

「これは…?」

彼女の正面には高さ二十cmほどの光が居た。

「名を付けると良い」

魔法で明かりを浮かべながらフェリールは彼女の元へと歩き出す。

「まさかそのような姿になるとは思わなんだがな」

リヴィの正面に存在する光。

その姿は彼女が最もそばに居たいと願う人物、テッドと瓜二つであった。





「ふむ、言うなれば煌の精霊だな」

酒を飲む手を置いて、イフリートが答えた。

「きらめき、ですか?」

馴染みのない言葉に首をかしげたリヴィの隣にはそこだけ白く塗りつぶしたような球体が浮かんでおり、暖かな光を放っている。


「火に属する精霊の中では最上位と言っても過言ではないだろう。精進するが良い、それの能力はお前次第で上がるからな」

そう言って彼は微笑みながら酒を飲み干した。



「では訓練について話をしておこうかの」

どこからとも無く酒を取り出しながらフェリールは言う。


「まず、精霊との戦いは二種類に分かれる。ひとつは使役型。精霊と肩を並べて戦うものじゃな。もうひとつは憑依型。これは精霊をその身に宿して戦うのじゃよ」


「どちらかしか選べないんですか?」

質問したのはブロードだ。


「そんなことは無い。使役型は連携や指示の出し方次第じゃし、憑依型は身体に負担をかけるでな。日頃の鍛錬で切り替えが速くなるであろう」


「鍛錬とはどのような?」

リヴィが尋ねる。


「うむ。ここは好きなだけ暴れても良いからな、順を追っていくぞ?」

ニヤリと笑うフェリール。

「祭壇使うだけじゃ無いのかよ…」

テンションを下げたのはイフリートだ。


「む?分かっておったことじゃろうが?」

「まぁ適当にやってくれ。俺は酒でも飲んでるからな」

「ほう、本当に良いのか?」

フェリールの手には渦潮と書かれた酒瓶が握られている。

「満足するまで手伝おう!」

受け取った酒を大事に抱えながらイフリートは満面の笑みでそう答えたのだった。








「精霊にはあるべき形が存在しない。

それは精霊というものが生物ではないからだ。

君の想像が反映されているから人の形をしているのだ。

まずは求める状況に応じた形を取れるようにする必要がある。

君が求める姿を明確にするのだ。

良いな?では始めよう」

イフリートの特訓はとても丁寧だ。

必要事項を確認し、実践して反復する。

長く生きた経験に基づく客観的な指導はリヴィの実力を伸ばすのにとても効果的であった。



「どうでしょう!」

イフリートの特訓を眺めながら、ブロードは纏う技術の向上を図っていた。


「背中の方がやや薄い。もう少し厚くするのじゃ」

全身を覆い尽くす魔力を均一の厚さに伸ばして維持をしたり、特定の場所に集めるなどの技術を磨いているのだ。


「こ、コレでどうでしょう?」

「今度は厚すぎじゃな。それに腕周りが乱れてきておるぞ?」

「ぐぬぬ……」

「それで良い。ではそれを暫く維持しておくのじゃよ?」

フェリールは羽根箒を取り出してブロードを撫でる。

「ひっ、いひっ……」

「どうした?自然体で維持出来るまで頑張るのじゃよ〜」

周りから見れば遊んでいるように見えるが、本人は至って真面目である。

「次は左の足に集めてから……」

ブロードの特訓は、ひたすらこれを繰り返したのであった。






「ふーむ……」

ギルドの職員が書類を見ながら首をひねっていた。

「どうした、不備でもあったか?」

それを見た同僚が声をかけた。

「いや、ちょっとな。西の森での集中討伐戦があるだろ?」

「明日に迫ってるやつだな」

「ちょっと見てほしいんだがわかるか?」

書類の束を渡された男がパラパラと捲る。

「森付近の遭遇記録か…特におかしな場所はないぞ?」

「……それ、三日前の報告が最後だろ?」

「あー?そういや今日までのがねぇな」

「無いんだよ」

「無いって、紛失か?」

「違う。森から出てきた魔物が居ないんだよ」

「はぁ?」

「魔物が森から溢れ出て来ることもなければ、確認に浅い所まで入った冒険者からも魔物が見えないと報告があったんだ」

もう1枚の紙を渡しながら言う。

「まさか、上位種か?」

男は書類を確認しながら可能性を口にする。


希に産まれる事のある上位種。

その存在は付近の魔物を従える事で大きな群れを作り、付近の町へ多大な被害を及ぼす。


「これを局長に報告を上げてくる」

男は書類を丸めると立ち上がって歩き出した。

「あぁ、たのむ」

男はそう言って同僚が階段を登る姿を見送った。




大量の魔物が想定される時期に、周辺に生物の気配がなくなる。

それはまるで嵐の前の静けさであった。

感想お待ちしてます。

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