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飾り扉の使い方  作者: へたすん
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火を吹く山

|ω' )ドウゾ。

火吹山は雲にも届こうかという高い山ということもあり、その外周はかなりの距離があっていくつかの村が存在している。


その中の一つ、メズ村は魔道師ジャックの故郷であり、彼は数年ぶりに里帰りをしていた。

「じゃあ、ニック。またしばらく世話になるよ」

「久しいな。帰ってきたってことはまた山に上がるのか?」

「ちょっと、話がしたくてな」

彼が駆け出しの時代に世話になった宿は相変わらずで、今では親友だった奴が店の顔になっているのだから時の流れを感じさせる。


「で、何日くらい居る予定なんだ?」

「7日くらいだろうとは思うが…まだ未定だ」

「そうか。飯はどうする?着いたばかりなら少し後の方がいいか?」

「そうだな、後で部屋に頼む」

「了解。久々だからな、美味いもんつくってやるよ」

「それは楽しみだ。じゃ、俺は部屋で……」

荷物を整理すると言おうとした時、町に鐘の音が響き渡った。


カンカン、カンカン、と断続的に鐘が鳴らされる。


「これは…飯を食いそびれる感じだな」

「ちょっと待て、摘める物があったはずだ」

亭主の男は厨房へと駆けていく。


この町での鐘はいくつかの意味があり、中でも2回の鐘は魔物の襲来、冒険者を招集する時に行われるものだ。

「方向は…山側か」

宿の外を走りすぎる者達は山へと向かっている。つまり、山側に魔物が現れていることを示している。

「ほらよ、これを持っていけ」

ニックは小さな包を持っていた。

「助かる」

「鹿肉の包焼きだ。さっさと行ってこい」

「あぁ。手早く終わらせてくるさ」

足元の荷物を背負いジャックは山の方向へと向かう。

火吹山の主と絆がある以上、山側の魔物はジャックの敵ではない。


……敵ではないのだが、それが簡単に片付くものかと言われれば答えはノーだ。

この時点で彼は数日でも帰れないということに気がついていないし、そのことに気がつくのはもう少し後である。





「ハァ、今日も相変わらず静かだねぇ」

山側の警備兵は山へと向かう道を眺めながらいつものようにため息を吐いた。

元々山の主というのは信仰の対象でもあり、火吹山周辺の村は加護の対象となっている。故に山側から魔物が襲ってくることはまずありえない。

では何故門番がいるかといえばそれは人の出入りを見張るからである。

わざわざ町を迂回して町に入ろうとする者もゼロではなく、山へと挑み負傷した者は手当を行えるようにするのが仕事である。

とはいえ日の落ちた時間ともなれば人の出入りなどはほぼ無い。

つまり、今の時間帯はとても退屈な時間なのである。

「いい事じゃないか。立ってるだけで飯が食えるのはいい事だと思うがな?」

「何も無いと寝ちまいそうで不味いんだ」

「ハハハ。遊び呆けて寝ないのが悪い」

「可愛い女性の誘いを断るなんてこと、出来るわけがない」

「自業自得だ。諦めて耐えるんだなっと、お客さんだ。こんな時間に来るのは珍しいな?」

山側に点った松明の明かりを見つけた男達は姿勢を正して到着を待った。

「1人…か?今山へとあがってる冒険者の記録で単独はいたか?」

「いや、記録には無い。何かあったのかもしれないな」

明かりが近付くにつれその走る様な速度から緊急事態と推測しすぐに動けるように手配をする。

そして、ようやく顔が見えるほどになった時、警備の者達は顔を引き攣らせた。

松明を持っていたのは人ではなく、体長2mを超えるリザードマンであったからだ。

「鐘を!」

「わかった!」

一人の男が門の中へと走り、もう一人が槍を構えて待ち受ける。

「頼むから、襲ってこないでくれよ?」

それは祈りにも似た本心のぼやきであった。

さて、火吹山に生息するリザードマンは鱗が赤い。そして上位種ほど黒くなっていくのが特徴だ。

松明を持ったリザードマンは門より50メートル程の距離で止まり手に持った松明を地面に突き立てるとその場で仁王立ちをした。

その肌を覆う鱗は黒曜石の如き色合いであり、最上位と言っても過言では無いだろう。

緊急を知らせる鐘の音が鳴り響くが、男の耳には殆ど残らない。

彼が黒い鱗のリザードマンを見ることは初めてであり、更に言えば黒の混じる赤いリザードマンですら集団で囲んでようやく倒せる強さだからだ。

仮に勇敢に挑もうものなら確実に日の出を迎えられないだろう。

緊張に身体は怖ばり、動くこともままならない。喉は急速に水分を無くし、背中にはじっとりと汗が滲む。


どれだけの時間が経っただろうか?警備兵は生きた心地のないままに長く立っていた気がするが、結果として男は何もすることが出来なかった。

「どうなってる?」

知らせを受けた中でも最初に訪れた冒険者が声をかけると、ようやく男は体を動かすことができるようになった。とはいえ、ぎこちないままではあるのだが。

「そ、の、見てのとおり、です」

腕を組んだリザードマンは松明のそばで不動のまま佇んでいる。

「別に、倒してしまってもいいんだろ?」

冒険者は手に持った剣を抜きながら尋ねる。

「で、出来るのであれば…」

「フン!俺の強さを知らしめる絶好の機会じゃねぇか!」

冒険者の男は恐れることなくリザードマンへと向かっていった。

リザードマンはかかって来いと言うように手招きをしている。


止めるまもなく冒険者を見送った警備兵は彼の負けを直感的に確信していた。

そして、数秒とかからずに男の身体は空へと跳ね上がったのであった。








ジャックが門へと到着した時、門の外はかなりの賑わいを見せていた。

「いけー!」「やっちまえー!」

松明に黒い鱗を照らしながら、リザードマンは冒険者との戦いを続けている。

冒険者は挑んでは倒され、魔術師の回復を受けてはまた挑み続けている。

誰が最初にリザードマンを追い込むかで賭けをするものもおり、観客もそこそこ増えていた。

「くらえっ!【破岩斬】!」

冒険者は列をなして全力で挑んではいるが、かすり傷ひとつ付けられないままにまた一人空を舞った。

「えっと…これはどういう事だろうか?」

ジャックは門の近くにいた警備兵に状況を尋ねる。

「ちょっと…分からないです…」

町の側へ魔物が現れたかと思うと冒険者と組手をするなど初めてのことであり、対応に困っていた。

「そうか、ご苦労さん」

ジャックは礼を言いリザードマンの方へと歩き出した。

そして、彼に気が付いたリザードマンはジャックの方へと顔を向け、襲い来る冒険者を尻尾で打ち払った。

「待ってたってことで、いいんだよね?」

リザードマンは拳を合わせるとお辞儀をした。

リザードマンが松明を拾い上げ、巻かれていた布を解くと一通の手紙があり、ジャックへと手渡される。

「見ればいいのか?」

その言葉にしっかりと頷く。

リザードマンを配達人(?)として使うのだから、差出人は恐らく山の主であるイフリートだろう。

手紙には短くこいつに乗ってこいと書かれていた。


「手紙にはなんと?」

成り行きを見ていた兵が近寄って声をかける。

「精霊からの招待状だ。今から会いに行く」

「そのように報告しておきますから、町に戻られたらギルドへ報告をお願いします」

「わかった」

ジャックはリザードマンの背へと跨る。それを見て察した冒険者達はぞろぞろと町の中へと帰っていく。

「それじゃぁ宜しく頼むよ」

ジャックが声をかけるとリザードマンは地を這うように駆け出した。

ちなみに、想像以上の加速にジャックの悲鳴が響いていたという…



そしてその日の夜遅く。

山は1度大きく揺れた直後に、雲を抜ける勢いで噴火したのである。

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