火吹山の主
|ω' ) スッ
山の麓からは真っ直ぐに山へと向かうフェリール。
「村には寄ったりしないんですか?」
それなりの距離を移動した事もあり、ブロードはギルドへ到着報告をする事を考えていた。
「日帰りじゃからの、手早く用事を済ませるのじゃ」
フェリールはすぐに歩き出す。
「あっ、待ってくださいよ」
駆けるような速度でブロードはあとを追う。
「それに、あちらも既に気がついておるじゃろうからな」
フェリールはにやりと笑いながら歩みを速めた。
「っと、ここじゃな」
歩き出してすぐ、岩肌に人が通れる程の穴がぽっかりと空いていた。
「ここは…?」
「裏口じゃよ。と言っても今はまだただの廃坑じゃがな」
フェリールは魔法で灯を作ると躊躇わずに穴へと潜り込んだ。
「考えても仕方ない、のかな?」
ブロードの声に腕の中にいるラビはキュッキュと鳴いた。
曲がりくねった穴の最奥に到着したのを見てブロードは首をかしげた。
「行き止まり、ですよね?」
「そうじゃな、この穴はここで終わりじゃな」
フェリールは壁をぺたぺたと触りながら答える。
「うむ。では行こうか」
「戻るんですか?」
「何のためにここまで来たと思うておる。道がなければ作れば良いのじゃよ」
フェリールが壁に手を当てて魔力を流すと、壁はぞわりと波打ち音もなく穴を広げ奥へと一直線に伸ばしていった。
「さて、あやつはどんな顔をするかのう?」
フェリールは悪戯をした子供のように笑いながら、ゆるやかな下り坂へと進んでゆく。
ブロードはその後を慎重に付き添った。
しばらくの間進んだ2人はまた壁へと到着した。
「ふむ、ここじゃな」
フェリールは穴を広げると壁の前に小部屋を作る。
「ここはどうするんですか?」
「ここか?ここはな、掘れぬのじゃよ」
フェリールは壁をペチペチと叩きながらに答える
「えっ。ダメじゃないですか」
「うむ。掘ることに関しては、な?」
フェリールはブロードを見つめる。
「えっと……?」
目線の意味がわからずブロードは困惑する。
「ここにゲートを。イメージは壁を貫く道をイメージしてな」
「反対側と繋げるイメージ、ですか?」
「何度かやれば感覚は掴めるはずじゃからな、やって見るが良い」
フェリールは壁の前を離れてブロードに場所を譲る。
少しだけ色の違う壁に手を当てて、ブロードは使い慣れた魔法を唱える。
初めての試みではあるが出来ると言われた事を疑わず、素直な気持ちで受け入れていた。
彼女ができるというのであればきっと出来る。特に理由はないがブロードには確かにそう直感したのである。
【ゲート】
その言葉とともに現れた扉は今までの扉と比べてやや質素な印象を受ける。
「うむ、1度で成功するとはなかなかじゃな!ほれ、早く開いてみよ!」
ブロードが手をかけた扉はカチャリと軽い音を立てると、簡単に開くことが出来たのであった。
「来てやったぞ!イフリート!」
ブロードの横に並んだフェリールは扉の先に広がる空間を覗き込みながら声を上げた。
扉の先に広がる大部屋。そこには先日フェリールと闘技場で向かい合っていた焔の魔人、イフリートがこちらを見据えていたのであった。
その顔は驚きに満ち溢れ、それでいて困ったような表情を浮かべていた。
ブロードの背を押しながらフェリールは扉を潜る。
「えっ!?目的ってあの人なんです!?」
ブロードはここ何来る目的を聞いていなかった。ゆえにその驚きはかなりのものであったのだ。
「言うておらなんだか?」
「聞いてませんよ!」
「気にするでない。さ、後から何かが来ても面倒じゃ。扉を閉めて消すのじゃ」
「いつまで経ってもお前は相変わらずだな」
イフリートとと呼ばれた男は深くため息をついた。
「細かいことは気にするだけ損じゃしな。考えるだけ無駄じゃよ」
「それで、わざわざここまで来た理由はなんだ?からかいに来た訳ではあるまい?」
「祭壇をな、借りたくてな」
「ふむ。そこの者か?」
男はブロードを見つめる。
「これはワシのお気に入りじゃからな、違うぞ?」
「では誰だ?」
「適性のありそうな者の特訓を頼まれてな、ついでじゃよ」
「随分と面倒なことをするようになったのだな?」
「ついでじゃと言うておろうが。火口の穴はどうなっておる?」
その言葉に少しだけ考える素振りを見せてから口を開く
「……すぐに頼めるか?」
「任せよ。で、どれほどの余裕が?」
「あと100年だ。その間に育てる予定だったがお前がやるのであれば祭壇の利用を許可しよう」
「話が早くて助かるな」
「あいつは伸びそうではあるが上手く育つとも限らん。確実な方が安心できるというものだ」
「そうじゃな。手早く終わらせて飲み明かすとしよう」
「良い酒でもあるのか?」
「ふふふ……純米大吟醸と言えばわかるであろう?」
男は目を見開いて驚いた。
「まさか!どうやって手に入れたんだ!?」
「ほれ、先に面倒事を終わらすぞ〜」
フェリールは奥に見える階段へと歩き始めた。
「待て!待ってくれ!本当に手に入れたのか?不可能だろう!?」
「ブロードもはよう来るのじゃよ〜」
「どうなんだ!」
フェリールは男の事をいに介さずに進み、男は真偽を確かめるように問いかける。
(あの人も、多分すごい強い人なんだろうな)
ブロードはそんなことを考えながら二人のあとを追いかけた。
ブロードが彼の実力を知り敵対しなくて良かったと感じるのは、そう遠くない出来事である。




