火吹山へ
「それで、これからどうするんです?」
朝食を食べ終えたブロードは膝上の毛玉を撫でながらフェリールに尋ねた。
「これからとは今日の事か?それとも今後の話かの?」
「両方です」
「そうじゃなぁ、最終的な目的はヒロトを探す事である。そのために知りうる者を訪ねる旅が今後の予定じゃな。じゃがその前に旅の拠点を整えるのが先であり、それまでに体を慣らすことが優先なのじゃ」
「体を慣らす、ですか?」
「うむ、なにせ長い事暗い場所で寝ておったのでな。思うほど体が動かんのじゃよ」
「今でも十分に強いと思いますけど……?」
「我が単体であれば魔王とてそれなりに戦えるであろう。じゃが、お前さんがおれば話は別じゃ。感覚を取り戻しつつお前さんの特訓をするという事じゃよ」
「……その言い方だと魔王に戦いを挑むように感じるんですが?」
「そうならん事を祈れば良い。が、旅に事故は付き物じゃからな。鍛えて困ることはあるまい?」
「まあ、それはそうですが」
ブロードの心には不安がこみ上げている
「それ故特訓に付き合うのじゃからな、覚悟しておくが良いぞ」
フェリールはハハハと笑った。
「では明日のために特訓の場所へと向かうぞ!」
フェリールの声とともにブロードは大空を見上げてため息をついた。
今彼がたっているのは両手を広げても余裕がある大きな扉の前で足元には薄らと雲が広がっている。
「本当に、やるんですか?」
「む?蹴り落とされたいか?」
「いえ、もっと安全な手段で行ければと…」
ブロードは高いところが苦手という訳では無いが何の準備もなく大空に踏み出せと言われれば誰であれ首を横に振るだろう。
「空に立つのは楽しいぞ?」
フェリールはブロードの目の前にたっている。
「立てれば、ですよね?」
曰く、纏った魔力をその場に固定するのだという。
「ラビを見てみろ。既に波を乗りこなしておるぞ」
フェリールの背後では鉄の盾をサーフボード代わりに大空を飛び回るラビの姿がある。
時折見せる宙返りなどは落ちるのではないかと不安になるほどだ。
「まずは足に魔力を纏え。しばらくは手を貸してやるから、感覚を覚えるのじゃぞ」
こうして、ブロードの特訓が始まった!
だが、思い出してほしい。ブロードには才能がある訳では無いことを。仮に才能に満ち溢れていたとすれば荷物運びなどという役職に落ち着いてはいないのだ。
「あー、風が心地良い」
ブロードの腕に抱かれている毛玉、ラビはキュイキュイと泣きながら楽しそうに揺れている。
「あのー、まだ怒ってます?」
「当然じゃ!素質はあっても才能がないなど約立たずもいいとこじゃ!」
昼を過ぎるまで試した結果、わずかな浮遊には成功したがすぐに自由落下を始めるので仕方なくフェリールがぶら下げた状態で空を飛んでいるのである。
さて、空の旅が平和かといえば決してそんなことはない。
空を縄張りとする魔物が存在する以上何も無いということは有り得ないのだ。
「ギェァァァァ!」
空を飛ぶ2人をめがけて叫び声をあげなから大型の魔物が迫ってくる。
「煩い!」
定期的に現れる魔物は期限の悪いフェリールの憂さ晴らしにサクサクと駆逐されていく。
そんな可愛そうな魔物を見なかったことにしつつ、ブロードは雲を見下ろすほどの高さで吊るされたまま目的地である山の頂を雲の隙間に見つけ、期待と不安の入り混じる微妙な気持ちになっていた。
2人が山の麓へと到着したのは日が沈み始める頃となっていた。
どうにも、断片的な構想は得意ですが流れを繋げるのは苦手なようです。




