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飾り扉の使い方  作者: へたすん
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魔物の召喚

三日間続いたお祭りも終わり、片付けの始まった王都に朝が訪れる。

窓辺にて賑やかになる街を見下ろしながら大きくあくびをしたブロードはフェリールを探すために玉座の間へと移動する。

今日は赤土の団長が来るはずであり、時間は特に話してはいないがあまりのんびりはしていられないだろう。


門をくぐると玉座の間には誰もいない。振り返り通路へと向かおうとしたブロードの耳にガリガリと音が聞こえた。

音のするほうを見上げるとエルドリヒとフェリールの2人が天井にたって何かをしている。

「おはよーございまーす!なにしてるんですかー?」

ブロードが声をかけるとフェリールは手を止めてこちらを見上げる。

「おお、良い所に。ちょっとこっちへこい」

そう言ってまた杖を地面に当てるとガリガリと音を立てながら天井に模様を描いている。


「蝙蝠じゃありませんし、人間離れしたことできませんよ」

「なぬっ!この程度もできぬのか!エル、手伝ってやるのじゃ」

一例をしたエルドリヒさんがゲートとつぶやき扉を開く。

天井に生えた扉はブロードの目の前にも同じものが出来ている。

「どうぞ」

扉を開いたエルドリヒさんが目の前の扉から覗いている。

天井を見上げながらブロードは恐る恐る扉をくぐると先程まで自分がいた場所を見上げる。

先程まで天井だった場所に立っているのだから、狐につままれたような不思議な感覚に襲われている。

「もうすぐ出来るのじゃ、ちょいと待っておれ」

フェリールが描いているのは魔法陣らしい。ブロードに知識がないのでどんな効果があるのかはわからない

「これ、どうなってるんです?」

ブロードが訪ねたのは天井に立つというよくわからない現象についてだ。

「この部屋は迷宮の一部になっていますので、天井に床としての機能を付与してあります」

「天井を床に、ですか?」

「えぇ、迷宮であれば珍しくはないかと思いますが?」

言われてみるとダンジョンの中には空に浮く足場や天井を歩ける仕掛けも聞いたことがある。

「簡単にできるものなんですね」

ダンジョンの内部がどう作られるかを知らないブロードには分かりにくい話だ。


「よし、出来たのじゃ」

フェリールが描くのをやめて振り返る

「これは何ですか?」

「ふふん、驚くでないぞ?これは召喚の魔法陣なのじゃ!」

「というと、何かを生み出すっていうあの?」

「うむ。これからあちこち旅するにしても足は必要じゃからな、馬でも作ろうと思おてな」

へぇ、これが。そんな感想を持ってブロードは見渡す。

幅5mほどの魔法陣には細かな文字や模様が書き込まれておりとても真似できそうにはない。特に文字などは初めて見るもので記号のようだ。

「これでどんなものを?」

「カッコイイものが良いぞ」

「え?決まったものが生まれるわけでは無いんですか?」

「基本は術者の願うもの、である。ほれ、さっさとここに立つのじゃ。なるだけカッコイイやつを頼むぞ」

「僕がやるんですか?!」

「当たり前じゃ。我であれば魔法陣など書かぬともできるが結果はわかっておるでな、お前さんがやった方が面白いであろうて」

「でもどうしたらいいかわかりませんし!」

「ただ乗り物が欲しいと願いながら魔力を流せば良いだけじゃ。ほれはようせんか」

フェリールに押されて魔法陣の上に立たされたブロード。

「魔力を、流すんですよね?」

「うむ。足元に魔力を放出しておればあとは勝手にできるで早うやるのじゃ」


「乗り物……」

ブロードはカッコイイ乗り物を願いながら足元へと魔力を漏らすように吐き出す。

放出された魔力は魔法陣へと引き寄せられるように消えていく。

(でも…可愛い方がいい気もするんだよなぁ)

カッコイイ魔物よりは可愛い魔物の方が癒しに繋がるような気がするのだ。

「おっ!その調子である!」

明るく光り出す魔法陣をフェリールは楽しそうに眺めている。

魔力が魔法陣に引き寄せられず漂いだした時、魔法陣は強い輝きとなって光り始める

「魔力は十分じゃ。あとは待っておれば良いぞ」

魔力を放つのをやめて魔法陣を見つめる。魔法陣の輝きは端から中央へと集まってきている。

目の前に集まった光が一瞬強くなってから消える。光のあった場所に居たのは……


「ロービットであるか……」

フェリールがため息とともにつぶやく。

ブロードの目の前にいるのは白色の毛玉であった。バレーボールほどの大きさの柔らかそうな塊に兎のような足が生え、つぶらな瞳は紅く輝いている。

「ロービット、ですか?」

初めて聞く名前にブロードは戸惑っている

「別名鎧の中に潜むもの、であるが……いや、街を歩くのであればこちらの方が……」

フェリールはブツブツと呟き始めている。

「キュッ!」

ロービットと呼ばれた白色の毛玉が飛び上がってブロードの肩へと乗る。思ったよりも軽くてあまり気にならないほどだ。

「名を付けてやるがよい。どうやら気に入られておるようじゃしのぅ」

フェリールは眉間にシワを作りながら教えてくれる。

「名前…ロービット、ロビ…うーん」

肩の上からすごく見つめられている気がする。

「ラビでどうだろう?」

ブロードが呟くと毛玉が頬を擦り寄せてくる。うん、悪くは無いみたいだ。

「ラビ、ねぇ…もっとかっこいい方がよかったのじゃ…」

「ちなみにフェリールさんがやるとどんな魔物が生まれるんですか?」

「我か?首無しの騎士、デュラハンであるぞ」

「実在するんですか!?それに乗り物なんですか!?」

「馬であり兵であり騎兵である。地を駆ける者としては上位種じゃな」


ブロードはラビを腕に抱いて撫でている

「この子は乗り物になるんですか?」

「それの特技は物を操る事でな、馬鎧でもあれば十分に馬車を引けるであろう。エル」

「町中を歩けるものを用意しておきます」

フェリールは満足そうに頷いた。


「そうだ、赤土の団長が宿の方に来てる筈なので呼びに来たんでした」

ラビの体はとても柔らかくついつい夢中でこね回してしまう。

「む。誰じゃ?」

「この街で壱弐を争う集団ですよ。武闘大会で副団長と戦ってますし、組織への勧誘じゃないかと思うんですが」

「面倒じゃな」

「そこをなんとか。少し話を聞くだけでも……」

「そこまで言うなら会わぬこともないが……」

「ありがとうございます!ささ、早く行って朝食でも食べましょう!」

片腕にラビを抱えるとフェリールの手を引いて歩き出す。


「やけに積極的じゃのう?」

「ジェイクには世話になりましたし、少しくらいは出来ることをしたいだけですよ」

「……その事では無いんじゃがな」

「何か言いました?」

ブロードは扉を開くとフェリールの顔を覗き込む。

「朝食を食いに行くのじゃ」

フェリールはしっかりと手を握り返しながら笑顔で答えた。

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