王城にて2
さて、皆が避難している間のブロードはと言うと、壁にもたれ掛かりコップを傾けていた
「早く避難を!」
そこに兵士のひとりが声をかける
「彼女を置いて逃げるわけにもいか無いので」
部屋の中央ではフェリールとそれなりに強そうな人が骨の魔物相手に戦いを繰り広げている。
「ですが、ここにいては巻き添いを…」
兵士は与えられた仕事をこなすためにブロードの方を見ていた。そのため魔物が放った魔法に気が付いていない。
「あっ」
「え?」
ブロードは兵士の腕を引いて位置をずらすと空いた手に魔力を纏い、飛んできた黒色の玉を叩いて弾く。
「身を守るくらいはできますし、他の方を優先してください」
「わ、わかりました……」
ブロードは兵士を見送るとまたコップに口付ける。
そもそもこの戦いは茶番であると分かっているので参戦する必要も無いだろうし、そのうちに倒して終わりだと考えているのだがその余裕がまるで強者であるかのように錯覚させる。
実際の所は連携や近接戦闘の経験が無いので下手に突入できないだけである。
ブロードが並んでいた料理を取り付くし、黙々と喉を潤している間に戦闘はかなり変わった。
避難はほぼ終わり広く戦えるようになっている事と、応援が駆けつけたことによるものだ。
大盾を持った者は魔術師を庇いながら攻撃を受け止め、魔法がろくに通らない事に気がついた魔術師は支援魔法を撒き、剣を持つ者らが絶え間なく攻撃を加える事で相手の行動を抑制しつつ体力を削っていく。
会場は傷跡で荒れ始めているが、敵を倒せそうな気配はない。それどころか徐々に速度を上げる骨の魔物にじわじわと押され始めている。
ブロードはかなり嫌な予感がしていた。なぜなら彼めがけて飛んでくる流れ弾が明らかに多くなっているからだ。
「弾くのはっ、いい、けどっ。混ざれとかっ言わない、よね?」
コップに残ったいくつかの飲み物をゲートの魔法で避難させながらブロードは身を守る。
仮に参加させられる事になったとしても纏で全身を覆いながら特攻する位しか彼に出来ることは無い。
何かを呟いたフェリールが僅かに敵から身を遠ざけると周囲の兵士達は穴を埋めるために連携し魔物に攻撃をする。
ちらりとブロードを見たフェリールは目を閉じ、深く息を吐いてから見てわかるほどの魔力を練り始める。まるでよく見ていろと言わんばかりの表情だった。
彼女のまわりに小さな光が生まれては消え、時間とともに光の数は増え次第に魔法陣を構築していく。
「ゆくぞ!【☆※□○~】」
彼女が声を掛けると射線から兵士達は身を離して避ける。直後に彼女が叫んだ魔法は人には理解のできない言語によって構築され何を叫んだのかは定かでない。
しかしその言葉に魔法は輝きを強め、彼女の前に光球を生み出すとそこから魔物へ向けて幅広の筋が伸びた。
幅1mほどの光の筋は魔物の胴体を突き抜けて壁へと伸びる。
瞬間的に広がった光はすぐにその姿を消し、魔物の胴体に穴を開けた。残っているのは首と足元だけで、すぐに魔物の首は落下し物言わぬ亡骸となったのであった。
ブロードは驚きのあまり呆然としていたが、すぐに兵士側から歓声が上がり戦闘の終わりを告げたのであった。
我に返ったブロードがフェリールを見つめるとちらりと目線をよこしてからにやりと笑った。
「流石ですね」
立ち竦んだブロードに声をかけるのは執事姿のエルドリヒだ。
声に反応して振り向いたブロードは直前まで魔物の姿で暴れていた彼に目を見開いて口をパクパクと動かすが声は出ない。
言いたいことはあるが言葉に出せない事だらけで、いうに言えないのである。
兵士のひとりが魔物の欠片から青く輝く魔石を拾い上げると喜びの声は大きくなり、フェリールを取り囲むように喜びあった。
その後、フェリールは褒美としていくつかの品と報奨を受け取った。
兵士らと協力したとはいえトドメを指したのはフェリールであり、国を守った事による謝礼と魔石の売却分でそれなりのお金を受け取り、ついでに武闘会報酬として好きな時に王城に出入りができるようにしてもらったらしい。
曰くこれでいつでも食堂が使えるようになると喜びながらブロードへ伝えていた。
「人が頑張っておるのを呑気に酒を飲みながら眺めておるとは、随分と良い身分になったようじゃのう?」
ブロードが会場でせっせとくすねた料理を摘みながら、フェリールは頬を緩ませながらブロードを見つめている。
玉座に座った彼女のそばにはエルドリヒが立っており、空いた皿に料理を取り分けている。
「それは……その……」
ブロードは玉座の向かいに立ってフェリールの視線を浴びながら、何か良い言葉は無いかと思考を巡らせていた。
「今回はこれに免じて許すがの。男らしく飛び込んでくれても良かったのじゃぞ?」
「連携も出来ない素人が飛び込めるほど、優しい戦いじゃなかったじゃないですか……」
勝敗の決まっている出来レースとは思えないほどに激しい戦闘であったのでブロードにはまだ早すぎる。
そんなブロードを見ながらフェリールとエルドリヒは声を出して笑ったのであった。
それではまた次回をお楽しみに




