勝利の美酒
年に1度の武闘会、その優勝者に与えられるのは三つある。
一つは名声。強いということは難易度の高い依頼が名指しで頼まれるようになる。
一つは賞金。節約すれば1年を過ごせるほどで、強い者を王国に抱えておきたいという狙いもある。
一つは王への謁見。その場でひとつだけ願いを伝えることが出来るが叶えられるかは別の問題だ。一軒家を求めたり騎士団に入ったりと様々あるらしい。
「こちらが賞金と明日の夜に開かれる宴会の招待状です」
拍手鳴り止まぬ声援を受けながら舞台を降りた後、フェリールは報酬を受け取った。
「謁見には貴族の方が多く参加されますのでできる限り整った服装でお越しください」
場所と時間を確認してから会場を離れる頃には太陽はその姿を隠そうとしていて、逆側からは月が登り始めている。
「少しなら屋台も空いてそうですけど、どうします?」
疲れたそぶりを見せないフェリールを労いながらブロードは屋台通りへと向けて歩き出した。
「旨いものを紹介せよ。運動をしたら腹が減ったでな」
「了解です。がっつり食べます?濃いめかあっさりで選びますけど」
「胃に貯まる濃いめの料理じゃな。今なら買えぬものもあるまいて」
「賞金があるとは聞いてましたけど、かなりの額でしたからね」
「さぁ、はやく案内をするのじゃ!」
飛び跳ねるように歩くフェリールは傍から見ても楽しそうである。
屋台通りには帰り始めている屋台もあり人もまばらになっていた。
「そこの串焼きはなかなか人気らしいですよ」
「ここの饅頭は出来立てが美味しいとか」
「あそこの麺は刺激的な辛さで有名ですね」
人気のある店はそれなりに知っているもののブロードも食べた事はない料理が多く大量に買って食べながら通りを抜けた。
「さて、屋台通りは抜けましたけどどうします?ほとんどの屋台はもう終わるみたいですけど酒場とかならまだ空いてますが」
果物入の饅頭を頬張るフェリールにブロードは満足できたかと確認をする
「今日はゆっくり酒が飲める場所へゆくのじゃ」
「酒の種類が多い場所、でいいですかね?わかりました」
ブロードはフェリールの手を引いて歩き出す。手を繋ぐのはフェリールの要望だがブロードは兄の、保護者のような気持ちでその手を握っていた。
フェリールが深く帽子をかぶっていたおかげか屋台をめぐる間も話しかけられる回数は少なかった。
酒場の長いカウンターに付いて美味しい酒を楽しみながり飲んでいるとエルドリヒさんがやってきた。
「お嬢様、まずはおめでとうございます」
第一声は大会優勝についてだ。
「購入出来ていない屋台の一覧をまとめておきましたので確認をお願いします」
エルドリヒさんはブロードへと1枚の紙を手渡す。
「昨日の件はお戻りになられるまでに詳細を出せます。それではまた後ほど」
要件だけを手短に伝えると一礼して立ち去るエルドリヒ。
「昨日の…あぁ路地裏の」
渡された紙に目を通しながらブロードは頷く。
「これをもう一杯」
小魚の干したもの、ぴりっと辛いたれ焼きをつまみながらフェリールは追加の酒を頼む。
彼女が今飲んでいるのはきつめのお酒を牛の乳で割った飲み物だ。
「次はどんな酒が良いかな?」
カウンターから見える位置に並んだ酒樽。それらには様々なお酒が入っているらしい。
「これなら半日で回れそうですね」
メモに書かれていた一覧を確認し終えるとブロードも酒を手に取った。
「ならばゆっくり回るとするかの?」
「食べ歩くには、ですが。飯屋以外にもいりいろ店がありますけどそっちは見ますか?」
「ふむ、飯以外か。特に物がなくて困っておる訳では無いが時間を潰すにはちょうどよいかの」
「夜は宴会で食べられるらしいですし、昼からは適当に歩き回る感じで行きましょうか」
「どうあるくかは任せる。期待しておるからな!」
フェリールは愉快に笑う。
その後、ゆっくりと飲み食いを堪能して2人は帰路についたのだった。
誤字脱字報告は感想にて




