決勝、の前に
控え室に戻った2人は直前の戦いについて話していた。
「魔法は魔力を現象に変えることだと説明したな?魔法を使う時の詠唱は想像する結果を明確にできる。つまりハッキリと成したいことを想像できるのであれば詠唱がなくとも魔法は使えるのじゃ」
「それで長く使う魔法は即発動ができるんですね」
「うむ。順番としては何をしたいか思い浮かべ、魔力を放ち変化させる事じゃな。変化をさせる瞬間に魔力を霧散させてしまうと魔法は成り立たぬ」
「発動の失敗…最初の攻撃ですね」
「あの時は我の魔力を紛れ込ませることで妨害をしたわけじゃな」
「その後の火の玉はどうして消えたんです?」
「順序は変わるがあれも魔法と言えるな。あらかじめ魔力を放っておいて、威力が弱まるように想像したのじゃ」
「火の勢いが収まって消えた、同じように氷は進むことをやめたんですね」
「氷は速度を落としても氷のままじゃからな」
「なるほど」
時折、用意されているお茶を啜りながら話は続く
「炎の男。あれは召喚術じゃな」
「知り合いみたいな反応でしたよね?」
「あの男は精霊と呼ばれるものじゃ。が、その前に召喚術についてじゃ。魔物や精霊などを召喚する場合2通りある。既に存在するものを呼び寄せる場合と無から有を生み出す場合じゃ。あの男がやったのは前者で後者はかつてエルが祭壇でやっておった事じゃよ」
「あの時出てきた魔物の大軍は作られた存在なんです?」
「そうじゃ。高度な召喚になれば意志を持った者を作ることが出来るが、これはそのうちやって見せよう。今は呼び出しの方じゃな」
「呼び出しと創造ではどう違うんです?」
「呼び出しの場合は相手とあらかじめ契約や制約を結ぶ必要があるのじゃ。あの男かやったのは精霊、イフリートとの制約であろうな」
「僕も呼んだり呼ばれたりできるんです?」
「出来るぞ。まぁ……ゲートで簡単に移動ができるのにわざわざする必要は無いな。魔力もかなり使うしの」
「燃費が悪いんですね」
「呼び出す者との制約、呼び出す度合いで増えるでな。先ほどの召喚はイフリート本体の3割程度の力を持った分身体だと思えば良い」
「あれで3割ですか?!」
「うむ。あの精霊は地熱を利用する事で本来の力を使うからの。火山を寝床にしておるし、本拠地で全力ともなれば噴火を相手にするようなものじゃな」
「それって…倒せないですよね?」
「そもそも精霊自体が倒す倒さない以前の問題じゃ。消えてもまた生まれてくるでな、勝ち目はないのじゃ」
「今回みたいに召喚された場合はどうなるんです?」
「あの召喚方法は術者の技量不足じゃな。継続して魔力を送るのは召喚が不完全故にすぐに魔力切れを起こしてしまうからじゃ。召喚された者が魔力を切らすと存在が消える、つまり分身体の消滅を意味する。呼び出す場合の召喚は術者の魔力で分身体が現れ、与えられた魔力が切れるまで活動する、といった感じじゃな」
「あらかじめ知り合った相手に似た存在を作るってことでいいんですかね?」
「大まかにいえばそうじゃ。高度の召喚術であれば存在そのものを呼び寄せることもできるが代償も大きい。創造の場合はその場で存在を作るでな、死んだら終わりじゃ」
「それで、闇の根源ってのは?」
「それは……その、あれじゃよ」
両手の指先を重ねながら視線を泳がせるフェリール。
「アレ、ですか?」
「聞きたいのか?」
チラチラとブロードを眺める
「是非」
「ぬぬ……いずれはわかる事じゃしのぅ。精霊のように長く生きたものは知っておるだろうがな、闇の根源とは我の古い通り名じゃよ」
フェリールは茶を飲んでふぅ、と一息ついてから続きを話し始めた。
「かつてヒロトと出会う前、我は様々な者を従えておった。国ができるほどに沢山じゃ。当然脅威とみなされることもあり多くの争いがあった。ヒロトを先頭にした人間との戦ってなくなってしまったがな。ちなみに我がヒロトと制約を結んだのもその時じゃ。魔族侵攻の拠点にされておったからの、人間の勢いは凄まじいものであったわ。その長く続いた戦いに精霊の姿も多くあったのじゃ。精霊は人に味方しておったからのぅ」
「でもその話だと酒が好きだなんてわからないですよね?」
「出会ったのはそこだという話じゃ!イフリートのことを知ったのはヒロトと出歩くようになってからの話である。当時人に最も近かったでな、魔物を統べる者として根源と呼ばれておったのじゃ。ヒロトは国が亡くなった後も我のことを王女と呼んでおったがな……」
二人の間にはしんみりとした空気が流れていた。
「間もなくです」
重たい空気を飛ばしたのは兵士の呼び出しだった。
「行きましょう」
ブロードが短く呟いて、二人は兵士のあとを追うのであった。
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