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飾り扉の使い方  作者: へたすん
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魔法使いの戦い

よろしくどうぞ。

準決勝ともなれば観客も増え客席に座れなかった立ち見の客が多く見える。

これまでの試合との違いといえば最も高い位置に置かれた客席とは隔離されている場所にいる国王の存在だ。実況にも熱が入っている。


「ブロード、よく見ておれよ?魔法の奥深さを見せてやるからの!」

名を呼ばれたフェリールが階段を上がる前にそんなことを言う

「奥深さ、ですか?」

「そうじゃ。魔力の動きを追うておれば良い」

「見逃さないように頑張ります」

「うむ」

既に舞台で待つ対戦相手は黒色のローブを着た30代ほどの男性で手に杖を持っている。


「それでは!準決勝、魔道士ジャック対魔法使いフェリールの戦いを始めます!」

実況とともに鐘が打ち鳴らされ試合が始まったが2人は動かない。

客席からは拍手や声援が響いている。


「道具もなしに魔法を使うのか?」

杖を構えながら男が口を開いた

「補助無くして魔法が使えぬというのは不便なものじゃな」

にこやかに応えるフェリール。

「杖無くしては強き魔法は打てまい」

杖に魔力を送りながら男は不快感を顕にする。

「それは実力の無い者の事であろう?使えぬと思い込んでおるだけで使えるのじゃよ」

「随分と見下したような態度だな」

「実際見下しておるからな。何ら間違ってはおらぬよ」

「チッ。ならば後悔すれば良い!」

男が杖を振り上げる。


「で、何をするのじゃ?」

フェリールはにこやかに笑っている

「むっ?!」

杖を確認してから男はもう1度杖を振り上げる。

しかし、何も起こらない。

「道具に頼るからそうなるのじゃ」

「何をした?」

以前向かい合ったままの2人に会場からは疑問の声が漏れている。


「それは自分で考えるんじゃな」

フェリールは腕を組んで男の方を眺めたままだ。

しばらくの間黙った男は杖を下げて詠唱を始める

「触れしものを燃やし尽くせ 【ファイヤーボール】」

男の頭上にバレーボールほどの炎の球体が出現しフェリールの方へと飛んでいく。


フェリールへと距離が近付くにつれて火の玉は徐々に小さくなりフェリールに触れることなく消滅した。

「届いておらんぞ?」

フェリールの言葉にではなく、飛ばされた魔法が消えたことに男は驚愕していた。

「魔法に干渉しているのか?」

「それで終わりかの?」

周りから見ると男が遊んでいるだけのようにも見える。


「敵を貫く凍てつく弾丸!【アイスニードル】」

男が唱えると氷でできた槍が生まれ、フェリールへと向けて飛んでいく。しかし、氷の槍は徐々に速度を落とし最後には空中に静止してしまうのだった。


「ふむ。それなりに使い込んではおるようじゃな」

目の前に止まった氷の槍をまじまじと眺めてからフェリールはそう呟く。

「そろそろ攻撃をしても良いのかの?」

組んだ腕を下ろしながらフェリールは男へと尋ねる。


ふぅ、と男は深呼吸をした。

「半端な力では届きすらしませんか……私にも意地があるのでね。全力を出しましょう」

男は舞台の端へと歩いてゆくと杖を構えて呪文を唱える

それを見てフェリールは舞台の逆端へと移動する。

男を見据えるフェリールは両手に魔力を纏いながら待ち受ける。


「……我が魔力を糧にその姿を表せ。イフリート!」

男が詠唱を終えると二人の間に炎の柱が誕生する。炎の中から現れたのは赤い肌の筋肉隆々の男。2mほどの体長で服の代わりに炎を纏っている。赤き瞳に意思を宿し、フェリールの方をじっと見つめる。

彼を召喚した男は片膝をつき呼吸を整えている。かなりの魔力を消費したらしく顔はやや青白い。


「イフリート。久しいのぅ」

フェリールは腰を落としながらに呟く。

舞台の上では熱気が渦巻いている。

じっと見つめ合う魔人とフェリール。始まらない戦いに会場はざわめく。

「早く、してくれないか?」

彼、赤い魔人の存在に魔力を使い続けているらしい男が声をかける

「知らぬということは恐ろしいものだ」

魔人がそう呟くと男は困惑した表情を浮かべて立ち上がった

「え、喋れ……いや、なぜ?」

男からの魔力は既に止められている。魔人側から一方的に切られたと言っても良い。


「闇の根源……出会うとは思わなかったぞ」

「こちらとて。それで、やるか?」

拳を上げて構えながらフェリールがたずねる

「場所も悪い。勝てぬ者には挑まぬさ」

「そうか、残念じゃ」

フェリールは落ち込みながら腕を下ろした。


「ジャック、悪い事は言わぬ。アレには関わるな」

振り返ると魔人は召喚者である男にそう告げた。

「知りたければまた山へとこい。昔話程度ならしてやれる」

「待っ」

男が止めようとする前に魔人は炎へと形を変え、空へと舞い上がっていった。


「さて、まだやるかの?」

フェリールは男へと歩み寄って顔を覗き込んだ。

「いや、これ以上は無理だ」

男が両手をあげると勝敗が叫ばれる。少しの盛り上がりはあったものの会場の雰囲気は不満げだ。

「観客は冷たいのぅ」

召喚されただけでも価値があるのに、とフェリールは続ける

「やっとの思いで知り合えたんだがな……」

ため息と共に男は吐き出す。

「詳しくはあの男に聞くと良い。あ奴は強い酒を持っていくと喜ぶぞ」

「知り合い、ならば仕方ないのか……?」

うなだれる男を置いてフェリールは舞台を降りる。彼女が立ち去った後も男はしばらく動けなかったという。

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