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飾り扉の使い方  作者: へたすん
25/55

黒の獅子

気持ち短め。

赤き虎の攻撃は一方的なものであった。地を蹴って飛び掛り、攻撃の勢いそのままに離れるのだからかわして反撃する頃には届かない位置だ。

攻撃を受け止めようにも地面気増え続ける傷跡から簡単ではないことが見て取れる。身体に触れようものなら相応の怪我を受けるだろう。


何度目かもわからない攻撃をかわし、フェリールは構えを解いて立ち上がる。

「なんだ、降参か?」

表情から違うと分かっていながらも、男は襲いかかるのをやめて様子を伺う。


「なに、そろそろ格の違いを教えてやろうとおもってな」

フェリールの体から揺らめくように漏れ出す黒色の魔力。それを見て赤色の虎はゆっくりと距離とる。

「がお」

茶化すような軽い声とともに漏れ出す魔力は勢いを増し、フェリールの身体を多い尽くしていく。


「ったく、冗談きついぜ」

赤き虎が目にしたのは黒く艶のある鬣を持った、獣の頂点に立つと言われる獅子であった。獅子の大きさは赤い虎よりもやや大きめである。


その深い闇のような黒色と鮮やかな毛並みで美しい獅子の姿に客席は息を呑むように静まり、獅子の咆哮が地面を揺らすと大きな歓声が会場を包んだ。


「さぁ、早く終わらせようぞ?」

そこからの戦いは圧倒的な力量の差を見せつけるかのようにあっさりとしたものだった。

攻め方を変えて襲いかかる赤い虎。しかし、その全てを正面から受け止めてやり返すので力の差は歴然だった。


「参った、降参だ」

地面に転がされた男が元の姿に戻り、両手をあげて負けを認めると勝敗が宣言されより一層の歓声が上がる。

フェリールが魔力を収めて元の姿へと戻ると、満足げに頷いたのであった。

「さて、このままではまずいかのぅ?」

見渡す先は傷だらけになった石でできた舞台である。

フェリールが片足をあげて床を踏み鳴らすと、まるで水面のように波紋が広がり表面の凹凸を平に慣らしていく。

「若者よ、精進するのじゃぞ?」

フェリールはそう声をかけて舞台を降りる。

その背後でゆっくりと起き上がった男は

「あんたの方が若く見えるんだが…」

と呟いていた。


「次の試合まで時間がありますが他の試合は観戦しますか?」

次の呼び出しまでは特にすることもないので待合室で待つか、スミの方で眺めるかのどちらかしかない。

「知らぬほうがたのしめるからの。見えない所で待つことにしよう」

通路の方にいた兵士に案内されたのはちょっと豪華な個室だった。

「それでは後ほど呼びに来ますのでそれまでゆっくりなさってください」

兵士を見送ってから部屋を見直してみる。道具の手入れができそうな作業台に柔らかそうなベッド、中央の机には茶と菓子が用意されていた。

「準決勝までくるとかなり豪華になるんですね」

年に1度の大会で上位に残ると言うのは簡単ではない。故に待遇についてはあまり広まっていないのだ。

「あっこのお菓子って去年くらいから有名なやつですよ」

サクサクとした食感に程よい甘さのある茶色の焼き菓子でその名を

「クッキーじゃな?」

一つを口に運びながらフェリールがつぶやく

「あれ、クーキーをご存知で?」

「味もなかなか良い。思い出すのぅ」

「昔からあるんですか?」

「ヒロトが時折作っておったよ。クーキーか……これを作ったのはどんな者なのじゃろうな」

「噂によると黒髪の女性らしいですよ?あまり表には出ないらしくて噂しか無いですけど」

「1度話をしてみたいのぅ」

「高価なのにすぐに売り切れるので閉店も早いんですよね」

「会うのは難しいのか?」

「買わないのであれば開店後に行くだけですからそこまで難しくないかと」

「ひとまずは保留じゃな」

「あぁ、美味しいですねこれ」

初めて食べる菓子に驚いている間に残りのクーキーは綺麗になくなる。

「うむ。また食べたいものじゃ」

その後、ゆっくりとお茶を飲んでいると兵士が呼びに現れた。

「まもなく時間です」

「それじゃぁ行きましょうか」

椅子から立ち上がると先導する兵士のあとを追う。優勝まではあと1回だ。

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