本戦開幕
本日もよろしくお願いします
朝、日の出の前にブロードは目を覚ました。
窓を開けて外の風を入れる頃には意識もはっきりとして、もう一つのベッドで寝ていたはずのフェリールの姿が無いことに気がつく。
「先に降りたのかな?」
部屋にいない以上それしか思い当たらないので支度をして下へと降りる。
「よく寝れたかい?」
「それなりには、えぇ」
厨房の女将さんはとても穏やかな笑顔だった。
「ほら、今日のぶんだよ」
受け取ったのは二人分の朝食、まだ暖かいお粥だ。
「食べたらすぐに行きましょう」
机に頬杖をついて欠伸をしている黒髪の女の子。彼女の前に座ると軽く手を合わせて食べ始める。
「ふむ。単純じゃがなかなか上手いの」
細かく刻まれてはいるが具沢山なので食べごたえもあるし寝起きの胃にも優しい料理だ。
「で、今日は全勝優勝ですか?」
食事の合間に試合のことについて訪ねておく
「それもかんがえたんじゃがな、我が戦ってみせるゆえよく見ておれ」
「見てるだけでいいんですか?」
正直な所戦わされるものと思っていたブロードである。
「戦って勝てるほどの技術も経験もあるまい?」
あるならまかせるがの、とフェリールは見つめながら言う
「しっかり勉強させていただきます」
気が変わられては大変だとブロードは食べる速度をあげたのだった。
武闘大会本戦は一対一のリーグ戦だ。16人が午前のうちに8人となる。午後の準決勝からは国の重鎮も見に来るので勝ち残りに必死になっている者もいる。
そんな武闘大会の会場には16人が集められ、開会の宣言がされていた。客席は既に8割ほどが埋め尽くされている
「所詮は3番目みたいですね」
すぐに試合となる2名を残して舞台を降りると組み合わせを確認して待合室へと移動した。
「退屈じゃのう」
何もせずに待つだけというのは面白くはないらしい。
「そうだ、待ってる間に出来る訓練的なものってないですか?」
どうせなら待つだけではなく何かをしたいという思いつきだ。
「ふむ、そうじゃな…魔力を扱うことに慣れるためのものがあるぞ。まず指を出せぃ」
両手の人差し指を立てて出したフェリールを真似て両手を前に出す。
「まず指先に塊を作るじゃろ?」
合わせた指先に胡桃ほどの大きさの魔力を形作るとゆっくりと指を離してゆく。
「この塊を限界まで細くしていくのじゃ」
左右の人差し指に繋がるひも状の魔力。次第に細くなり両手を左右に伸ばしても途切れることなく繋がっている。
ブロードが真似をして見ると両手を伸ばすどころか肩幅にも届かずに途切れて霧散してしまった。
「なかなか大変じゃろ?なれてきたら五本の指すべてに渡したり、途中で変形させたりと色々と試すのじゃ」
そう言ってフェリールが魔力を操るとまるで蛇のように滑らかに動き回り様々な形を作っていく。
「結構むつかしいですね、これ」
どうにかうまくできないものかとブロードは頭を悩ませるのであった
「三試合目の出場者は準備を!」
ついつい夢中になってやりこんでいると、元々あまり遅い番では無かったこともありあっという間に呼び出しがかかった。
「自分は端っこで見てればいいんですよね?」
舞台に向かうと傷付いた人が担架で運ばれて言った。おそらくは前の試合の人だろうが意識は無さそうである。
「うむ。よく見ておくのじゃぞ!」
とても軽い足取りでフェリールは階段を上がっていった。
対戦相手は既に中央に立っていた。軽装の鎧を着込み両手剣を肩に担いだ大柄の男性。
フェリールがその前に立つと鐘が鳴らされすぐに試合が開始されたのであった。
「まだ子供じゃねぇか」
にやにやと笑う男はゆっくりと剣を構える。丸腰ということもあり全く警戒せずにいる。
「なら覚えておくと良い。見た目で強さはわからぬとな!」
フェリールは魔力で両手持ちの長剣を手元に出現させる。
「なっ!?」
驚いた男は慌てて距離を取ろうとするが、フェリールが足を払う方が早かった。
「おや?随分と弱そうな男じゃな?」
立ち上がるのを見下ろしながら剣を軽く振り回して挑発するフェリール。
「ふざけやがって!」
男は気合を入れ直し剣を上段に構え、踏み込むと同時に叩きつけるように振り下ろす。
「オラァ!」
男の剣が勢い良く振り下ろされて地面に当たるまで、フェリールは軽く横に逸れるだけでかわして見せた。
「なんじゃ、気合いの割には遅いぞ?その程度の速度で我を切れるとでも思うておるのか?」
予選とは違い本戦では普段使っている武器の使用を許可されている。つまり、当たりどころが悪ければ簡単に死んでしまうということだ。
チッと舌打ちをして男は殴りかかるがそれも簡単にかわされてしまう。
「まだこっちは何もしておらんぞ~?何も出来ないまま負けても良いのか?」
フェリールは煽ることをやめない。
「ぶっ殺してやる!」
男は遂に怒りを顕にして剣を振り回し始めるがいとも簡単にかわされてゆく。
男の息が上がり速度が落ちてくるとフェリールは煽るのをやめて攻撃を弾き始めた。
男が手を痺れさせて剣を落とすと男の首筋に切っ先を向け、負けを宣言させると会場から小さく歓声があがり試合終了が宣言された。
舞台を降りるフェリールには当然ながら、汗一つかいていなかった。
誤字脱字方面、感想等待ってます!




