まな板美女と男達
宿へと戻ると女将さんに二人分の宿代を支払って部屋に上がった。
「ここは壁が厚いからね」と微笑んでいたのはふたりが恋仲に見えたからかも知れない。
部屋へと入るとすぐに【ゲート】を開き玉座の間へと移動をした。
「まずは朝の件じゃな」
フェリールが玉座へ腰掛けると布団で添い寝していた女性の事を語り出した。
「わからなければその都度聞け。あの女は魔族、おそらく夢魔の類である。もしお前さんが我との制約を結んでおらなければ今頃冷たくなっておったであろうよ」
玉座においてあった王冠を頭に乗せるフェリール。
「とはいえ、制約を結んだからこそ狙われたのだがな。我の魔力は精を吸い取る者にとっては極上じゃからな」
「あの、魔族ってそもそも何なんです?」
控えめに手を挙げながらブロードは尋ねる。
「なんじゃそこからか…魔族とは魔に連なるものとも言うな。意思を持ち、魔力を糧に生きる者の総称であるぞ。魔物と呼ばれるものがおるじゃろう?あれらも進化を重ねれば魔族の仲間入りじゃ」
「では夢魔というのは?」
「夢を操る者じゃな。寝ている者の夢に入り込んで魔力を吸うのじゃが、相手が格上じゃと夢に入った時点で目を覚ましてしまうのじゃ」
「ってことはあの女性よりも自分が格下だったと?」
「そういう訳では無い。言うならば時が悪かったのじゃ。あの時お前さんには寝れなくなる魔法をかけたであろう?その影響でな、疲れが取れるまで目が覚めない状態であったのじゃ」
「本来なら目が覚めるところが魔法の影響で起きることが出来なかったんですね」
なるほど、と納得したように首を振る
「格下であれば吸い付くせるはずじゃからな。格下だと思い込んで吸い尽くそうとした結果、想像以上の魔力に溺れてしまったんじゃな」
「それで横にねてたんですね」
「時にブロード。大きな器から小さな器へ水を流したらどうなるお思う?」
「どうって…流すのを止めないとこぼれるんじゃないですか?」
フェリールは微笑んでいる。が、よく見ると目が笑っていない。
「あっもしかして」
「流出に気付いてな、我が止めに行ったのじゃよ」
「ありがとうございました!」
ブロードはすぐさま姿勢を正して頭を下げた。
「あの女についてはそんなところじゃな」
背もたれに体を預けながらふぅと息を吐き出した。
「路地での襲撃。あれは武闘会の関係じゃな。会場から付けておった者が連れてきたのじゃから、まず間違いないであろう」
「けしかけた者がいるってことですよね?」
「なに、明日にはわかるであろう。誰であったとしても手加減をする理由にはならんよ。売られた喧嘩は高値で買わねばな!」
フェリールは腕を組んでふふふと笑う
「それと、明日からの事なんですが」
しばらくの話の後、ブロードは屋台巡りの事をどうするか悩んでいた。
「明日の武闘会に参加すると実質1日で回る必要があるんですよ」
「合間に抜けたりはできぬのか?」
「不正防止にって話でしたし、負けるまでは出れないと思います」
「むっ…では1日で回れば良いのだな?」
「それが出来ると良いのですが…」
「なんじゃ、言うてみよ」
「二日目に売り切れる事があるんですよ」
「なんと!それでは稼いだ意味が無いではないか!」
「しかも行列ができる場所が多くてですね…2日でも回りきれないかもしれないんです」
「人手があれば良いのじゃな?」
「えぇ、通年通りであれば二人では足りないかと」
「エル!」
フェリールが手を打ち鳴らすと椅子の裏からエルドリヒさんが現れた。
「あの女を使うのじゃ」
フェリールが指示を出すとエルドリヒが
「承りました」
と答える
「ブロード!二日目に回るべき店を教えるのじゃ!」
「はいっ!…と言っても大まかにしかわかりませんよ?」
元々回る予定ではなかったので今年の出店状況などを知らないのである。
「わかる範囲で良い。無理ならば来年挑戦するだけじゃ!」
フェリールの目は決意に輝いている
「なんというか、随分と食べることに意欲的ですよね?」
「それだけではないがな。久しく飯を食べていなかったのだ、反動があっても悪くはあるまい?」
「まぁ、悪いことは…」
ふと思い出されるのは食べようとしていたものがなくなっている風景だ。
「なにか不満があるか?」
言葉を濁したブロードに首を傾げるフェリール
「今後は多めに頼むことにします」
「むむむ?」
よくわからないような顔でフェリールは唸っている
「沢山食べることはいいですが、味わって食べましょう?」
「もちろんじゃ。それくらいはわかっておる!」
「時間に追われてるわけでは無いですよね?」
「長い間待ったのじゃ。少しくらいゆっくりでも問題は無いのじゃ」
「まずは、明日回るべき場所についてですね」
その後、思いつく限りの話をしながら前夜祭の夜は更けて言った……
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