予選
カラになった器がテーブルへと置かれる。と同時に少女は終わりを告げた
「ごちそうさまでした」
記録は350杯。10ずつまとめられた器で35個である。
それと同時に新記録を称える拍手が起こるが、どこか悔しそうなのは賭けに負けたからであろう。
「では、そこの山は貰っていくぞ?」
机の端にはブロードの財布と小さく硬貨の山が出来ている。
ブロードが袋に詰めて懐へ入れるが実際は財布以外を懐経由で迷宮へ送ったのだが周りからはわからない。
「さて、次は何を食べるかのう?」
麺料理は飽きたと言わんばかりに他の料理を探し始めるフェリール。
ちょうど2組目の呼び出しがあったので観客を離れていくがブロード達にはもう少し時間がある。
「揚げ物が美味しかったですよ」
ブロードが先程食べた物を紹介するとではそれにしようとして周りがざわめくが、本人はそれを無視して注文をする。
「おや?もう終わったのかい?」
糸目の料理人が注文を受けながら話をふる
「うむ!記録を出したので満足じゃ!」
「それは…嘘じゃあないんだな…多めに作ろうか?」
少しだけ目を見開いた。
「頼む!」
大盛りのサービスにフェリールは嬉しそうに微笑む
もちろんそれだけではなく料理を追加する度に周りからは動揺の声が上がるが全く気にせず、気がつけば呼び出しが来る直前まで食べていたのであった。
予選会の武器はあらかじめ用意された物から選ぶようになっている。死者を無くすための配慮だ。
「なにか使いますか?」
控え室には様々な武器が並んでいる
「持ったところで…使わぬでなぁ…」
他の参加者は手に馴染むものを探していたり、長椅子で寛いでいたりと様々だ。
「まもなく始まりますので移動をお願いしまーす」
兵士がそう告げると選手の移動が始まり、ブロードは黄色のバンダナを首に巻きながらその後に続く。このバンダナはペア出場であることを表すものだ。フェリールは黄色の帽子を被っている
食堂目当ての人も混ざることが多いので弱そうなブロードの事を気に止める人はほぼいない。
ちなみに、今のフェリールは黒色のワンピースだ。
「さぁて、ちょっとだけ遊ぶかのう!」
ステージに上がる前にそんなことを呟いていた。
ステージの端では審判役の兵士が開幕を告げるために立っている。
彼が開始を告げてからは4人が立って残るまで続けられる乱戦となる。場外もアリだ。
「それでは、始め!」
掛け声と同時にステージの端にいた何人かは意図的に場外へと降りていく。参加はしたが戦わない人達だ。
「さて、どうしますか?」
ブロード達はステージの端にいたために即攻撃とはならなかったが既にあちこちで争いが始まっている。
「我が手伝うのでな、扱いを覚えるのじゃ」
そう言ってフェリールは背後からブロードの背中に抱きつく。年相応に育った胸が押し付けられブロードの体がびくりと跳ねる
「では行くぞ!」
フェリールが魔法を使うとしゃぼん玉がふたりを包み込みまるで風船人形のようになる。
「適当に魔力を出しておけば我が動かすので感覚を覚えるのじゃぞ」
体の外に逃がした魔力に意識を向けると水の膜に包まれていてそれ以上は離れない。
溜まった魔力を身体に押し付けるようにフェリールが操っていく。
異変に気が付いた参加者が攻撃を加えるが、水の膜が分厚いゴムのように弾き返している。
「なんだこれは!」
「攻撃が通らない!?」
などと騒がれているが中にはなんの影響もない
「さて。そろそろ戦うとするかの?」
魔力を纏う練習をしながら2人はステージの中央へと動き出す
既に三割程度は減っているようだ。
「ここで良いぞ」
中央に立ち止まると手を離して周りを見渡すフェリール。何人かは諦めずに攻撃を続けている
「ふーむ。4人が勝ち残りじゃったかの?」
「そうです」
「では適当に押し出すとしよう」
フェリールが何かをつぶやくと2人の周りにあった水風船はゆっくりと膨張し始める。
「すべて押し出すのであれば楽なのじゃがな」
ゆっくりと広がる水の膜は徐々に足場を減らし、倒れている者すら場外へ向けて押し出していく
「さて、どこまでもつかのう?」
ステージの半分ほどを風船が埋める頃には気付かない者は居ないほどだが、なす術なく押し返されている。
と、ここで1人が膜を切り裂いて中へと入ってきた。彼が通り過ぎると膜の切れ目は閉じられる。
男は持っていた大剣を肩に担ぎ近寄ってくる。
「なんというか……あんたらとは戦いたくはねぇなぁ」
男は頬をかきながらそんなことを言う。
次に穴を開けて入ってきたのは細剣を持った女性だ。
「えっと…?」
バランスを崩しながら中へと入ってきた彼女はどうしたものか戸惑っているらしい
ステージの端から2m程を残して膜の進行は止まる。
「もう1人じゃの!」
「いいのかしら…こんな戦いで」
「勝てばいいんだよ。予選ってのはそんなもんだろ?」
フェリールの声にに女性が疑問を口にして男が答える。
膜の外ではどうにか中に入ろうと苦闘している姿が良く見える
最後に膜を越えたのは篭手をつけた格闘士らしき男性。
「おろ?」
膜中の穏やかな空気に戸惑っているようだ
「では終わりじゃな!」
フェリールが腕を振り下ろすと球体状の膜は中央が凹んで外へと膨らみ、残っていた参加者を場外へ押し出してからはじけて消えた。
兵士がステージへと上がり試合終了を宣言する。
「ところで、目立つ事はいいんです?」
国が主催の大会なのだから、勝てば顔も覚えられてしまうだろう。
「なに、困ることは無い。知っている者も居なければ、我らはすぐに居なくなるのじゃからな!」
それはただの開き直りでは?とブロードは頭を悩ませていた……
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