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飾り扉の使い方  作者: へたすん
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執事のエルドリヒ

エルドリヒは元々人間で、1度は死んだものの魔物として復活したのだ。

森の中で魔物として目を覚ました時、彼は身体の腐った死人となっていて記憶は断片的にしか思い出せなかった。

持ち物は黒色のローブと杖だ。


数ヶ月後、彼は身体の肉を完全に失い骨の魔物として徘徊を続けていた。

彼が独学で展開する魔法は森の中では敵なしともいえるほど強力になっていた。

そんな彼が気になっていたもの。それは地下深くに渦巻く黒色の魔力である。

その溢れる魔力の正体を見つけることは出来なかったのだが、自分に良く馴染む魔力を利用して魔術師としての研究を重ねた結果が迷宮となって広がっていったのである。






主であるフェリールをブロードに任せてからのエルドリヒはメモを片手に市場を歩いていた。

すべてはより良い生活を過ごしてもらうために、である。


「暇では無いのですが…」

今彼がいるのは城門の近く、兵士達の訓練場だ。

「ただでさえ祭りで忙しいんだ。その場で切り捨てられなかった事を感謝してほしいもんだ」

買い物をしていたエルドリヒに声をかけたのは一人の兵士だった。


彼の名はリル・ダルム。しばしば問題行動を起こすが故に昇進を逃し続けている憲兵団の一員である。

彼は生粋の戦闘狂であり、その性質上腫れ物扱いされている。

ちなみに。冒険者ではなく憲兵団になったのは騎士団と戦えると聞いたからである。


単独行動が許されているのも協調性の無さからで、揉め事は起こらないかと適当に歩き回ってたダルムは直感的にエルドリヒが人間ではないと察し、暴れることの出来る場所へと連れ出したのだ。


ふたりのいる訓練場は祭りの見回りもあり他には誰もいない。

「ちょうど退屈してたからさ、手合わせしてくれたら見逃すよ?」

刃の付いていない剣を手に取りながら好きなものを選ぶように告げる。


「荒事は苦手ですし、見逃される理由はありませんが」

「逃げたなら切り捨てるだけだからな。簡単だろ?」

「全く、迷惑な話です」

エルドリヒは数ある武器の中から短剣と片手剣を手に取った。


エルドリヒが逃げなかったのは理由がある。

ひとつは憲兵の強さを調べるためだ。もうひとつは知識の確認である。

契約をした時に受け取った知識。その中には剣術もあり実際に使えるのは都合がよかったのだ。



「用意は出来たか?それじゃあ始める…ゼッ!!」

武器を構えたエルドリヒにダルムは開始を告げ急速に走り寄る。

剣は腰の横に構えられ、駆け出した勢いを乗せてエルドリヒへと突き出される

踏み込みながら体を捻ることで初撃を躱すと長い方の剣で連撃をさせぬように抑えながら短刀を振り抜いたが、既に身を下げた後だった。


「強そうで良かったよ。俺も全力で殺れるからなぁ!」

ダルムの攻撃は速度を増し、あらゆる方法で休むことなくエルドリヒへと襲いかかった。





途中で軽量化の為に鎧を脱いだダルムは地面に横たわり、顔の前に剣を向けられていた。

「まったく、強すぎん、でしょ」

息を整えながら文句を言う

ダルムが地面に転がるのは初めてではない。故に服はかなりよごれている。


思いつく限りすべて。それこそ土を投げたり足で蹴ったり、時には剣すらも投げて殴りかかったがエルドリヒの服をかすりもしなかったのだ。


「それで、私はもう行っても宜しいので?」

服の寄りを直しながら涼しい顔で声を掛ける。

元々呼吸が乱れることのない魔物なのだから、当然といえば当然だ。


「少し待ってくれ。ソイツに案内させるから適当に使ってやってくれ」

声を掛けたのは後から来たもうひとりの兵士。着込んだ鎧には装飾が施されダルムよりも地位が高いことを表している。


「隊長…見てたんすか」

起き上がったダルムが姿勢を正す

「初めまして。私はトル・ギアム、彼の上司に当たります」

「俺はまだ」

まだ負けていないと言おうとするも途中で止められる

「任務は巡回だ。それを無視して戦わせると思うか?それに、彼は本職じゃないんだ。勝てたところでなんの意味もない」

鋭い目つきで睨みつけるとダルムはそれ以上を言えなくなる。


「さて、大方買い物でもしている所を止められた感じかな?」

「えぇ、祭りの前に終わらせたかったのですが…」

「そのためのコイツだ。極端なもので無ければすぐにわかるだろう」

「あの、隊長…本職じゃないってのは…」

「何、気付かなかったのか?彼はおそらく魔術師だぞ?」

その一言にダルムは口を閉じる

「なぜ魔術師だと?」


「何故って…確認するように剣を振っていただろう?」

「流石に、わかりますか」

「ただの直感で確証はなかったがな」

「それで、彼がいると効率が良くなりますか?」

「普段サボってる事が多いからな」

少しだけ不味い顔をして顔を逸らすダルム


「その分いい店も知ってるってことさ。なに、迷惑料だと思って連れていってくれると助かる。じゃないと始末書を書かせることに…」

「しっかりと案内してきます!」

手早く道具を片付けたダルムが綺麗な敬礼をする。


「この度は部下が迷惑をかけた」

そう言って頭を下げるギアム。

「この街は初めてなもので。案内があるのは助かります」

「どうぞ祭りを楽しんでいってください」

ギアムに見送られながら、エルドリヒは街へと買い物へ戻るのであった…

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