心地のよい目覚め
窓の隙間から差し込む朝日が部屋を明るくしている。鳥のちちちっという声はブロードの耳にも届いていた。
スッキリとした頭とは裏腹に、身体は固くなっているようにも感じる。
広げた両腕は重たくて、起きることもままならない。
いや、誰かに押さえつけられているかのように持ち上げることすらできないのだ。
顔を右に向けると金髪を後ろで束ねた女性が腕を枕にして眠っていた。その表情はだらしなく緩み、時折ふへへと笑うような声が漏れている。
夢で見た姿と違うのは灰色のシャツに黒色のズボンを履いている事と、まな板のように平らであるという事である。
露出が低いとはいえ美人が腕枕で寝ているというのは初めてのことで、ブロードの身体は強ばり状況を理解しようと考えてみてもますます混乱するだけだった。
「朝から両手に花というのはどんな気分じゃ?」
ギギギっと音がしそうなほどにぎこちない動きで左を向くと反対側と同じように腕を枕にしている黒髪の少女、フェリールがにこやかにブロードを見つめていた。
「えっと…これは…」
きっと理由がある。そう考えてみても明確な理由は思いつかない。
「金が手に入ったその日に女を連れ込むとはいい身分になったのぅ?」
顔はにっこりと微笑んでるがその言葉には刺がある。
「有罪じゃな」
目を細めながらフェリールは判決を言い渡す
「異議は」
できる限りの説明をすればきっと…
「認めぬ」
弾むような口調で言い放ち指を鳴らすと金髪女性の下に細長い扉が出現し、彼女の体を吸い込むと元から誰もいなかったかのように消えさった。
「あの者はエルに任せておけば大丈夫じゃ」
起き上がりながらフェリールは想像はついていると言う。
「ってことはからかわれたんです?」
ブロードの問にワハハっと笑って誤魔化すとどこかへ繋がる扉を開く。
「支度をして降りてこい。下で待っておるぞ!」
早口に言うと何かをチラリと見てから扉の向こうへと消えていった。
彼女が見ていた方向には空になった器が置いてあった。
「食べたのか…」
夕食を抜いているにも関わらず、あまり空腹を感じないことに違和感を覚えながらも、ブロードは外用の服を着ると空の器を持って部屋を後にした。
一階へと降りると厨房へ器を返す。
「おはようございます。ここ置いておきますね」
厨房の奥ではクレアさんが洗い物をしていた
「あぁおはよう。今日のはそこにあるからね」
宿、枕木での朝食は準備されている物を各自が取っていくようになっている。基本的にはひと皿なのでわかりやすい。
今日の朝食は固焼きのパンと蒸し芋のサラダらしい。
どこに座ろうかと考えて見渡すと、長いテーブルの端でフォークを握りしめている少女に目が止まる。
横には執事のエルドリヒが立っている。
フェリールの目の前に朝食を置くと、頂きますと一言呟いてから食べ始めた。
「今日はどうします?」
ブロードはもぐもぐと口を動かしているフェリールに尋ねる
「ひょふははんほうひゃ」
口の中に物が入っているのでほとんどわからない。
「本日の前夜祭から後夜祭までお嬢様をよろしくお願い致します。こちらは当面の費用としてご使用ください」
お祭りを楽しむということらしい。エルドリヒは見覚えのある財布を机に置いて一礼すると足早に外へと出ていった。
「おや、お付の人は帰ったのかい?」
財布を懐にしまうと厨房から出てきた女将さんが声をかけてきた
「うむ!えるは仕事が忙しいのじゃ!」
既に食べ終わっているフェリールが答える。詳しくは聞いていないが何かを任せているのだろう。
「ブロード。しっかり守ってやるんだよ?」
女将さんは護衛を受けたのだと思っているらしい。
「しっかり案内するよ」
むしろ襲いかかる者を心配するべきなのだが、そんなことは言わないでおいた。
「見回りがあるとはいえ最近は物騒な話も聴くからね。気をつけるんだよ」
「なるだけ人の多い場所を通りますし。気をつけます」
「器は流しに入れといておくれ」
そう言い残して女将さんは受付の奥へと入っていった
「さて、飯の事じゃがな?」
周りに人がいなくなるとフェリールは少しだけ小さな声で話し出す
「1週間程度なら水だけで生きられるぞい」
「具体的には?」
その一言は混乱するには十分すぎた
「漂う魔素を取り入れることで生活できるということじゃ。魔素の無い場所ではそうもいかんが…一食二食抜いたところで大した問題ではない」
既に人間から離れていたらしい
「じゃがな、我は美味しいものは食べたいでな。食べることには妥協せんよ」
「えっ…と、どこから文句を言えば…」
そういうことはもっと早くおしえて欲しかったブロードである
「なに、もう過ぎたことじゃからな。諦めて次じゃよ!」
少しの困惑を残しながらも他には無いよな?と思い始めたブロードであった…
誤字脱字報告は感想にて…




