王都への旅路
「ご苦労であった!」
ギルドへの報告を終え玉座の間へと戻ると、フェリールは労いの言葉をかける
我は出来る王じゃからの、当然じゃと胸を張っていた。
「そうじゃブロードよ。ちこうよれ」
手招きされ玉座のそばへ寄るとフェリールは何かの魔法をブロードに使った
「眠気は覚めたかの?」
徹夜で生まれた先程までの眠気は綺麗さっぱりなくなっていた。
「今のはどういった魔法で?」
「今のか?あれは布団に入るとぐっすり寝れるようになる魔法じゃ」
「寝るための魔法ですか?」
眠気を覚ますためによく眠れる魔法。なんとも信じ難い話である。
「そうじゃ。副作用として布団に入るまでは眠れ無くなるのじゃ。」
続いた言葉に頬が引き攣るのを感じる
「効果は3日ほどじゃがのぅ。安心せい、夜には街へ入る予定じゃからな」
「お嬢様、湯浴みの用意が整いました」
声に振り返ると執事の服に着替えたエルドリヒが柔らかそうなタオルを両手で持って立っていた
「でかした!」
ブロードが振り返るよりも早く、フェリールがその横を駆け抜ける
「そうじゃ、忘れるところであったわ!」
タオルを受け取ってまた駆け出そうとしていたフェリールがブロードの方を見る
「王都へ行くのじゃ、通常の方法でな。着いたら知らせよ」
それだけ言うと素早く飛び出していった。
エルドリヒはブロードへ一例するとフェリールの後を歩いて追いかける
「わかりました」
誰もいない玉座の前で、ブロードは一言つぶやいて扉を開く。
その後、玉座の間は静寂に包まれた…
町へと戻ったブロードは王都への馬車が出ている広場へと向かう。
太陽は完全にその姿を表し、爽やかな風が流れる心地の良い朝だ。
普段よりも騒がしい冒険者ギルドを通り過ぎて停留所に着くと、そこには見知った顔があった。
「あれ、3人も王都へ?」
「おう、赤土に話をしに…って、おぉ?!」
これから頑張ろうと決意をした直後に目的の人物が目の前に居たのだから、驚くのも無理はない。キュリーは苦笑いしている
「もう少しで出るみたい…よ…」
受付を終えたメフィアはまるで死人を見たかのように上から下までじろじろと見つめる
「まだ空いてた?」
「え、えぇ」
「じゃあまた後でね」
足早に立ち去るブロードを3人は呆然と見送ったのであった
王都までの馬車は朝出れば昼に付くほどの距離だ。道中魔物の湧く森を迂回するのだが、時折魔物が出てくることがある。
8人ほどが腰掛けることが出来る幌のない馬車で揺られながら森へと近付くと森から二足歩行の犬、コボルトと呼ばれる魔物が馬車へと向かって走ってきた。
コボルト達を見つけると馬車はゆっくりと停車する。
魔物の相手をするのは護衛のために雇われた冒険者だ。
国が依頼主である乗合馬車の護衛は、駆け出しの冒険者が見守られながら戦闘を行えるので人材育成という役割がある。
乗合馬車には出会った魔物はできる限り倒すという決まりもあるので急ぎではない場合や新人の勧誘など利用目的は様々だ。
駆け出し冒険者では勝てなければ応援として呼ばれることもあるのだが、今回は大丈夫だったようだ。
運悪く1人の剣士が腕を怪我したようだが、あの程度なら回復薬等ですぐに治すことができるだろう。
討伐証明部位の剥ぎ取りが終われば死体は森の近くに投げ込まれる。半日もあれば別の魔物によって綺麗に処理されるのである。
「どう思う?」
馬車に揺らされていた1人が同乗者を見渡しながら呟いた
「祭りの前だ、そういう事だろう」
答えたのはジェイクだ
「やっぱそうだよなぁ」
ため息混じりに男は肩を落とした
王都で四日間かけて行われる祭、その前後は依頼が増え人手が足りなくなる。結果間引きが機能せずに強い魔物が生まれやすくなるのだ。
とはいえ、祭りの後に行われる大規模な討伐作戦は冒険者の飯の種になるので毎年恒例となっている。
彼がため息をついたのは初心者では対応できない大物が現れれば誰がが対応しなければならないからであり、純粋に面倒というだけである。
そして、普段は3回も戦えば多い方であるにも関わらず、今回は5度目の戦闘となっていたのだから、大物が出る可能性が高いと気がついたのだ。
間引きができなければ強い魔物が生まれやすいとはいえ、その強さはバラバラである。そして今年は当たり年だったというだけの話である。
間もなく森から離れられるという場面で、突如1本の木が倒されそこから大型の魔物が現れた。
2mを超える巨体、丸太を軽々と持ち上げる筋肉。大鬼とも呼ばれる魔物、オーガがゆっくりと森から出てきたのである
オーガの強さは角の数で決まる。多いほど強いのだ。出てきたオーガにはツノがなく、比較的弱い事がわかる。
角があるものに比べて弱いとはいえども、オーガには木を殴り倒すほどの力があるので気を抜ける相手ではない。
立ち止まった馬車の上では誰が行くか?そんな話し合いが始まったが、真っ先に手を挙げたのはブロードだった。
「試したいことがある」
だから手伝って欲しいと頼まれたジェイクはブロードの言葉に驚いたものの、ダメなら下げればいいかとその提案を受け入れたのだった。
その答えにブロードは馬車を飛び降りると、オーガへと向かって歩き出したのであった…
誤字脱字報告は感想より。