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毒牙の泉  作者: たまごいため
エクリッド氷原とエルフの里
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守護への任命。

“そういうわけで、カーミラさんを、今代の毒牙の泉の守護に任命されてはいかがでしょうか?”


 私はそんなことは考えたことも無かったので、驚いてしまった。そもそも、カーミラが自分の弱さにコンプレックスを持ち、強さを求めているなんて、考えもしなかったから。

 しかし、そういう事なら私としても彼女を守護に指名することに吝かでは無い。だって、何の制約も無しに仲間が強くなるんでしょ?それならやらない理由は無い。


“あの…その場合、私はどうなるのでしょうか?”


 オリヴィアが不安そうにエウロパに尋ね、私とエウロパを交互に見やる。まあ、そうだよな、それで力が失われる、なんてことになるなら考え物だ。


“それについては大丈夫です、貴方の力は先王ユグルタから与えられたものですし、守護の任を降りたとしてもその加護が消えたりすることはありません。要は、一人の王につき、一人だけ力を得ることが可能になる、という事だけです。”


 エウロパは優しい笑みを浮かべてオリヴィアの不安を取り除いてやる。安堵の表情のオリヴィア。これで、私のパーティーの皆が、一緒に前に勧める土壌が整う、という訳だ。


“そうであるなら、私としては何の文句も有りません。カーミラが悩んでいるなら、それを解消してあげたいですし。”


 オリヴィアがまともな事を言っていると何だか急に不安になってしまうが、表情を見るに真剣なのだろう。800年も孤独に毒牙の泉を守って来て、ようやく出来た仲間という存在、それを大切に思っているのが伝わってくる。


「じゃあ、みんながOKなら、私としてはその任命を済ませてしまいたいのだけど…どうすればいいのかな?」


 私は二日酔いの頭痛を抑えながら、エウロパにお伺いを立てる。頭痛い…が、この場面でそれを出すのは何か間違っている気がする。我慢だ我慢。


“形式はどのようなものでも構いません。ただ、カーミラさんを守護に任命する、と強く思って頂ければ大丈夫です。”


 そうか…でも、何となく格式ばった何かは必要な気がするな。


「じゃあ、カーミラ、こっちに来てくれるかな?」


 私に呼ばれて、カーミラは私の直ぐ目の前へと進み出る。その瞳には決意と、それから今後自分も一緒に戦えるようになるのだ、という期待、それに任命の後にどんなことが起こるのだろう、という不安がない交ぜになっている。そこ肩越しに、ルノが少し心配そうな表情を浮かべている。


“カーミラ、大丈夫だよ、私が傍にいてあげるからね。”

「うん、ありがと、ルノ。」


 ルノも普段はふざけた奴だが、こういう時は優しい。

 そのやり取りを聴いた後、私は厳かな雰囲気でカーミラに向き直り、宣言する。


「毒牙の王、テレスタの名に於いて、ダークエルフ、カーミラを毒牙の泉の守護に任命する!」


 こんな感じで大丈夫か?と私が思った瞬間、カーミラの身の回りが発行し始める。まるでオーラを纏ったような、不思議な光景が広がる。


「これ…は…、うぁ…。」


 フラリ、と倒れそうになるカーミラを慌てて両手で支えてやる。どういうことだ?


“守護になったことによるエネルギーの急激な上昇に、一時的に身体が付いていけなくなったのでしょう。カーミラさんはしばらくお休みになった方が良いかも知れません。”


 エウロパはそう言うが早いか、うなされるカーミラの額に右手をそっと当てる。そこから波紋のようなものが拡がって、カーミラはすぅ、と眠りに落ちていく。


“おそらく、ですが、カーミラさんは種族ごと変化する可能性があります。暫くは目覚めないかもしれません。良ければ、エルフの里への滞在期間を伸ばされてはいかがですか?”


「そう、ですね。それなら、もう暫くはここにお世話になることにしましょう。ただ、私はこの間に、アンガス大地溝に出向いて封印を解いてしまおうかと思っています。皆は、カーミラの傍にいてあげて欲しい。」


 私がそう言うと、すぐに反対してくるのがオリヴィア。


“いけません、テレスタ様、一人でそのような危険な場所になど!もしもの事があっては…”


「でもね、オリヴィア。アンガス大地溝とウロマノフ台地の2カ所だけは、勝手が違う地域のようなんだ。毒牙の居城にある地下で知ったのだけど、その2カ所だけはその属性魔術が無いと奥に分け入ることは出来ないらしい。みんなと一緒に攻略したいのは山々なんだが、皆に都度術式をかけていたら魔素が持たなくなるかもしれないし、恐らく一人の方が安全だ。」


“で、ですが…そうだ、困ったときは私の魔素を全部使って頂ければ!”


 食い下がるオリヴィア。っていうかその方法ダメだからね?貴方捨て身じゃないですか。


「ダメだよ、オリヴィア。自分の事をもっと大切にしないと。君は私の大切な人(仲間として)なんだから。」


 その一言でパアアッと急に笑顔の花を咲かせるオリヴィア。心なしか目に涙を浮かべているようにすら見える。う、カワイイ…が、もしかして私はまた失言をしたのでは無かろうか…。


「テレスタって、それをわざとやってる訳じゃないのよね?ホントに、酷い奴だわ。」


 ミスティの視線が痛い。しょうがないじゃない、ホントの事なんだから。嘘は言ってないでしょ?


“解りました、亭主の帰りを待つのも、妻の仕事という事ですね!”


 違います。違いますが、付いてこられても困るんだよなぁ。


「う…ん、取りあえず、みんなで待っててもらえるかな?悪いようにはならないと思うから。」


 私の言葉に、ため息をつくミスティ。「この失言大魔王め!」とボソリと呟いているのが、聞こえたような聞こえなかったような。


「はあ、まあいいわ、それならカーミラの事は私達に任せて、ちゃっちゃと仕事終わらせてきちゃってよね。」


 こうして、アンガス大地溝には私が一人で赴き、みんなにはカーミラの具合を見てもらう、という事で次の行動が決まったのであった。







 港町タリンまで空間転移で移動した私は、そのままロアーヌ河を南下し、アンガス大地溝を目指す。霊水は一度ヒュデッカに戻って空間圧縮で十分に確保してきたし、今回は風の付与をウダルに任せて移動している。そうして、時折出てくる雑魚どもを食らいながら3日ほど進むと、眼前に巨大な地の裂け目が見えてきた。


 アンガス大地溝、王都メラクと海洋都市レビウスを分断するように伸びる巨大な峡谷である。それは海抜がマイナスで、一番深いところでは400m近くも落ち込んでいるらしい。そしてその壁面には様々な動植物が生息し、いくつかの洞窟からは濃い魔素が未だに漏れ出していると聴いたことがある。


 私は、この巨大な大地溝のどこにそもそも封印があるのかも解っていないので、ともかく魔素が最も濃いと思われる場所目指して進んでいくことにした。もしかしたら、この場所の魔素は封印解除をする前のヒュデッカに近い位の濃さがありそうだ。これなら霊水は要らなかったな。


 そうして暫く進むと、壁面に無数の洞窟が。これは…人工的なものだろうな。石窟と言うべきか。そこから魔素が漏れ出しているようだ。しかし…正解に果たしてたどり着けるのかな…?魔素を追いかければ、何とかなるだろうか。考えていても仕方ない、手近な入り口から、中心部を目指して進んでいく。


「なあ、大将。ここ、おかしくねぇか?なんで魔獣一匹みあたらねぇんだ?」

「解らない。これだけ魔素が濃いのにな。」

 

 アグニの言葉に、首を横に振る。アンガスに入ってから非常に気になっていたことが一つ。それは、周辺に魔獣の気配が一切ない、という事。これだけの魔素の濃い地域で、魔獣が生息していないなんて有り得るだろうか?何か、仕掛けがあるのかもしれない。


「気を引き締めないとな、罠かも知れない。」


 などと、警戒していたのだが、気付けばあっという間に最奥までたどり着いてしまう。拍子抜けも良いところだ。もぬけの空。守護も何も存在しない。魔獣一匹存在しない…あまりにも不自然だ。そう思っていると…


「主君、ここには精神世界ですら一つの存在も観測できませんぞ。」


 シェオルが、不可解だとでもいうように首を傾げながら話す。


「そんなことが、有り得るのか?」

「現にこの場所で、起こっておりますからな。そして、この部屋の前にうず高く積まれた岩をご覧ください。」

「あ、ああ、これがどうかしたのか?」


 私は不思議に思ってシェオルに聞き返す。


「これは、恐らくは精霊が宿っていたであろう魔法生物だったものの残滓…守護か、それに相当する者の残骸と思われます。」

「何だって!?」


 アンガス大地溝は冥魔術の本拠。確かに、精霊を宿した魔法生物が居てもおかしくは無いが…何故それが土塊になり果てている?


「これ程の冥魔術の術式、自然に解除できるものでは有りませぬ。そう考えるならば、この場所は何者かに襲撃を受けた後というのが妥当でしょう。」


 ヒヤリとしたものが背筋を伝う。竜王の術式で組まれた守護をあっさりと土塊に戻してしまうような襲撃者…私はもののついでだった筈の存在の事を思い出していた。ユークリッドも言っていたではないか?そいつだけは、手に負えないと。


いつも有難うございます。

暑さでへばりそうですが、

良いペースで更新は出来そうです。

いつもこうだと良いんですけどねー。

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