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毒牙の泉  作者: たまごいため
エクリッド氷原とエルフの里
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足手まとい。

 夜も更けると、宴会もお開きとなり、まばらにエルフ達が残るのみとなっている。一応、サラマンダーたちは宴会場に暖気の術式を残してくれているようで、相変わらず飲んだくれている人々についても、寒さで冷え切ってしまうような心配は無さそうだ。

 ドリアードのエウロパは封印が解けた日に合わせて顕現をしてきたと言っていた。彼女が現世に現れるのに合わせて、他の精霊たちもお祭り騒ぎで付いてきたのだという。精霊とは基本的に陽気で、楽しいことが好きだ。何か特別なことがあれば、すぐに顔を出したがる。里に精霊が溢れていたのも、そう言う理由であった。

 しかし、いかにこのエルフの里が精神世界と接する場所に位置しているとはいえ、暫くすればエウロパや精霊たちはまた精神世界に帰らなければならない訳で、このような宴会も、サラマンダーの暖気も、本当に今だけ利用できるものであるらしい。

 そんな中、カーミラは切り株の椅子に腰かけ、物思いにふけっている。テレスタはユグドに注がれた果実酒で直ぐに酔っぱらって眠ってしまったし、オリヴィアはそれを介抱するという口実でミロードが手配してくれた宿泊先へテレスタを連れて行っている。普段だったらそんな下心丸出しのオリヴィアの態度を許したりしないのだが、今のカーミラは何となくそんなことにも意識を向けられないでいた。

 そんなカーミラの横には、気遣うような視線を彼女に向けて、町娘姿のミスティが佇んでいる。


「カーミラ、そんなに気にすること、無いんじゃない?」


 ミスティはそんな風に声をかけてくれる。彼女の優しさは有り難い。有り難いのだけれど…。


「私は、やっぱりもっと強くならないといけないんだと思う。」


 カーミラはそのように漏らす。


「アルダーの時から少しずつ思うところはあったの。私、少しは強くなったつもりだったけど、みんなみたいにテレスタのために戦えない。いつも、後ろについて行くばっかり。」


 悔しくて下唇を噛みしめる。私だって、テレスタのために戦いたい。背中を任せてもらって、いざという時には足手まといにならないように、ミスティやオリヴィアのお荷物にならないように。だが、現状では全くカーミラの出番は無く、ひたすらテレスタが無事で有ることを祈って待つばかり。出来ることと言ったら、精々が彼が魔素を少しでも温存できるように、彼の代わりに風の付与を与えること位だ。


「私は、みんなの足を引っ張るばっかりだ。」


 泣きそうな顔で俯くカーミラに、ミスティは優しく声をかける。


「そんな事無いよ、カーミラ。テレスタは貴方の事を心の支えにしてる。戦うだけが取り柄の私には無いものを、貴方は持ってると思うよ?」


 ミスティはそう言ってカーミラの正面に椅子を引っ張ってくると、腰を下ろして、目の前の今にも泣き出しそうな自分の仲間と視線を合わせる。


「カーミラは、そのままで、不足なんて無いんだからね?今のままで、何の不足も、無いんだから。」


 そっと肩に手を添えるミスティ。その言葉を聴いて、カーミラの目から涙が零れ、つと頬を伝っていく。


「ひっく…ミスティイイイ うぇえええん。」


 どっと、涙腺から涙が溢れる。そのままミスティに抱き着く。同姓の仲間が話を聴いてくれるって、凄く有り難いことだなぁと、カーミラはこの時思う。私は、きっと恵まれている。強くて、かっこいい、私を受け容れてくれる、仲間がいる。幸せだなぁ。ミスティが背中をさすってくれる。カーミラは彼女に甘えて、泣く。大きな声で、泣く。


 どのくらい、そうしていただろうか?カーミラは少しずつ落ち着きを取り戻す。ミスティは彼女が泣き止んでも、暫くは優しく包み込むように抱きしめてくれている。


「…ありがと、ミスティ。もう、大丈夫だから。」

「カーミラ、いいのよ。甘えることは、悪いことなんかじゃないんだから。」


 ミスティの一言に、また涙が零れそうになる。


「もう、そんなこと言って、また泣いちゃうでしょ…ふえええん。」

「おー、よしよし。」

「ぐすっ、ミスティ。ばか。でも、ありがと。」


 ミスティに回していた腕をほどいて、深呼吸をする。胸いっぱいに空気を吸い込んで吐き出す。スーッ、ハー。今までの憂鬱も、情けなさも、全部呼吸と一緒に飛んで行ってしまえ。

 そうして、何度か深呼吸を繰り返してから、カーミラは話し出す。


「…でも、私、今のままじゃダメだと思うんだ。自分の事は、自分で出来るようになりたいの。みんなと一緒に、肩を並べて進みたいの。そのためにどうしたらいいのか、私にはまだ解らないけど。」


 決意を新たに。でも、まだ何も解らないけれど。そう思っていると、


“その方法なら、もしかするとお伝えできるかも知れませんよ?”


 突然の念話に驚くカーミラ。ミスティも同様にきょろきょろと辺りを見回している。すると、2人の横から、ドリアードのエウロパが現れる。


“カーミラさん、貴方個人でこれから先努力を続けても、その強さはそこまでの伸びは期待できないと思います。”


「そう。。。ですよね。」


 エウロパの念話に若干がっかりして、項垂れるカーミラ。そんな事解っているのだ。今更、そんなことを伝えられても困る。


“ですが、テレスタ様はまだ毒牙の泉の守護を決めていらっしゃらない様子。で、あるなら、カーミラさん、あなたが、今代の毒牙の泉の守護に着いたら良いのではないでしょうか?”


「え?で、でも今はオリヴィアが守護なんじゃないんですか?」


 カーミラは疑問を口にする。オリヴィアは800年もの間、毒牙の泉の居城を守って来た、押しも押されぬ守護だと言って良いだろう。今更私が入り込む余地なんてある筈がない。しかし、エウロパは違った道筋を示した。


“彼女は、前王ユグルタの使命した守護であったと思います。今代、テレスタ様はまだ守護の決定を行っていないのではないでしょうか?もしも、守護に任命されれば、それに合わせて貴方という存在が進化し、大きな力を得ることが出来ると思いますよ。”


「そ、そんなことが、可能なのですか!?」


 驚きとともに、喜色ばむカーミラ。もしもそれが出来るなら、私もみんなと、テレスタと一緒に肩を並べてこれからも活動が出来る!その可能性が少しでもあるなら、是が非でもその方法を試したい。


“明日の朝、テレスタ様に聴いてみると良いでしょう。私も、その時には同席致します。この機会を逃すと、私もしばらく顕現できませんからね。”


「あ、有難うございます!」


 カーミラは深々とエウロパに頭を下げる。皆とのお荷物にならずに、一緒に戦える、これが彼女にとってどれだけ大事な事か。もう、みじめな思いをしなくて済むかもしれない。カーミラは思わず笑みを浮かべた。


「でも、ミスティ、守護になったら強くなれるって、あなたそんな事一言も教えてくれなかったじゃない!」


「え、え?私?いや、私は自分が強くなった実感なんて無かったから。守護になると、本当に強くなるの?」


 急にカーミラから矛先を向けられ、驚いてどもってしまうミスティ。エウロパはクスクスと笑みを浮かべて、彼女の質問に答える。


“ええ、間違いなく、そうなります。種族として進化するものも有りますし、能力そのものが成長するものもあります。ミスティさんの場合、もとより亜竜という固有種だったために、強さそのものが上がったのだろうと思います。”


「ほえー、そうだったの。私、あの時精神的に参ってたからなぁ…気付かなかったのかも。」


 父親との別れや人間族からの拒絶など、守護になった後のミスティは苦難の連続で、自分が成長したのか否かなんてことに意識を割く余裕は無かったのだ。そんな状況で、誰からも説明をして貰っていないのに、ミスティにその事を知っておけ、という方が無理というものだろう。


「ああ、そうだったのね。何か…ごめん、ミスティ。」

「い、いいよ、今更そんな事。それより、良かったじゃない!強くなる方法が見つかって!」

「うん、そうだね!有難う。」


 泣きはらした目をしているが、今は満面の笑みを浮かべるカーミラ。ミスティもそれを見て、ニッコリと微笑む。普段元気なカーミラが、こんな様子では自分も調子が出ない。早々に立ち直るきっかけがあって本当に良かったと、胸をなでおろすミスティだった。


いつも有難うございます。

漸く、次の流れをつかみ始めました…

これからまたぐんぐん更新していきたいです。

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