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毒牙の泉  作者: たまごいため
エクリッド氷原とエルフの里
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ユークリッドの記憶。

 キラキラと、エメラルドグリーンの頭髪が光る。見た目は12歳程度だろうか?しかし、その存在感にただならぬものを感じる。


“はじめまして、エウロパ様、テレスタといいます。貴方が、氷原の守護という事なのですか?”


“私は、エルフが守って来たこの里の森、それを創り出したエンシェント・スピリットです。守護、という存在とは少し異なるかも知れませんが、かつての氷原の王達とは懇意にしておりました。それから、敬称はいりませんよ、エウロパと呼んでください。”


 なんと、かつての王達とな。テレスタは目を丸くする。目の前の少女は、実際には龍王やエルフ達よりもはるかに長い時間を生きる者だったのだ。今までの時間概念も大概であったが、良い加減年齢とか時の流れとかがどうでも良いような気分になってくる。


“…随分と長い時間を生きてらっしゃるのですね。”


 以前に、ルノに何年生きてるんだと聴いたら、“レディに年齢を聴くなんて!”とやたらと怒られたことを思い出し、自重するテレスタ。


“私たちは精神体ですから、生きている、というものとも少し異なりますが、そうですね、何世代もの氷原の王達とともに過ごしていました。それだけに、この数百年は少し寂しい感じもしましたけれどね。”


 小首をかしげ、眉をハの字にしながら寂しげに笑うエウロパ。魔素も弱まって、エルフ達の認識からも外れてしまっていたのだろう。精神世界で孤独に過ごしていた、という訳だ。


“それで、氷原の王からの言伝、という事ですが…”


“ええ、こちらです。”


 エウロパは右手を差し出すと、その上に光輝く球が浮いている。一体何か?と見やると、そこから立体映像が浮かび上がった。


「やあ、800年後の龍王さん、初めまして、氷原の王、ユークリッドです。」


 …アルダーの地下でこれと同じようなものを見たけど、いやはや、龍王本人が映像記録を残しているとは。映像には、真っ青な髪の毛を伸ばした優男が映っている。


“これは、話しかけたら反応するのか?”


 テレスタはエウロパに問う。それに頷いて応えるエウロパ。


“ユークリッドの記憶を基に作られた映像記録で、一応反応もします。基本的には、彼が伝えたい事を話して、それに関する質問はある程度受け付けられる、程度だと思ってください。”


 エウロパとやり取りをしていると、ユークリッドが話し始める。その辺りは自動で動くもので有るらしいな。


「まず、君がこの映像を見ているという事は、フレスヴェルグを倒した、という事だよね!いやー、尊敬する。君は大したもんだよ。あれは僕と冥府の王デミっちが創り出した魔獣でね、ちょっと遊びで創ったら手に負えなくなっちゃってさぁ。術式で無理やり居城に縛り付けておいたんだ。でも門番としては最適だろう?もう居城からは誰も居なくなるんだし、知らない奴に封印をぶっ壊されちゃ困るからねー。通常の龍王クラスだともしかしたらやられちゃうかもだけど、君はこの映像を見てるってことで、もう大丈夫だよね!おめでとう!そして奴を倒してくれて有難う!」


 おいおい!何だコイツ!迷惑ごとを次の世代に丸投げとか、人間として、いや竜としてどうなんだよ!っていうか自分で手に負えない魔獣とかどうやって創ったんだよ!

 私が突っ込みを入れたくてうずうずしていると、映像の中でユークリッドの後頭部が何者かにひっぱたかれた。「痛え!」とか言っている。多分この映像作成時に一緒に居た誰かが思わず手を出したのだろう。有難う。

 頭をさすりながら、ユークリッドは続ける。

 

「それからね、眷属の事だけど、今エルフの里だろう?彼らは全員僕の眷属だから、封印を解くと君の眷属になってくると思うんだよね。大事にしてあげてねー。結構堅物だけど、良い奴らだからさあ。それに、この土地は精霊たちの住む精神世界と非常に近しいレイヤーに有るから、精霊の中でも眷属として活動してくれる連中も居るはずだよ。そこに居るエウロパなんかもそうだし、他にも幾人か居るはず。仲良くしてあげてね。」

 

 眷属、か。新しい眷属が出来るのは久しぶりだなぁ。そういえばパラはミスティが一人で守ってたから眷属は居なかったんだよな。多分人間族の眷属が多かったのだろうけど、今、あの土地に住んでいる人間族は殆ど居ないからな。っていうかその頃はエルフはやっぱり堅物だったんだな、それが今じゃ温泉と混浴ですよ。


「そして、最後にもう一つ。僕らは魔素喰いをこれから抑え込みに行くわけだけど、その後の世界でのアルラウネの動向には注意して。彼女だけは、僕ら竜王でも抑え込めないからね。」


 アルラウネ?聴いたことも無いのが出てきたな。しかもこの言い方だと、魔素喰いは何とかなるけど、アルラウネはもっと厄介ってことになるのか?そんなことが、有り得るのだろうか。


「そんなとこだねー。何か、質問はあるかな?」


 おお、質問タイムだ。では早速…


“アルラウネ、とは何者なのだ?”


「えー?知らないの?教えてあげなーい!」


 んだコイツ!何考えてんだよ!

 テレスタは思わずエウロパの方を見る。彼女も、仕方ないなあ、という風に苦笑している。その後は何を聴いてもこの返答だったので、ユークリッドの映像はこの辺にしておくことになった。イライラするので。


“ゴホン、では、改めて、エウロパ、アルラウネとは何者なのですか?”


 テレスタは仕切り直し、という風に念話で咳ばらいをして、エウロパに向き直る。


“アルラウネとは、エンシェント・スピリットの一つで、冥属性と毒属性の二つの適性を持つ非常に珍しい精霊です。そして、おそらくこの地上で最古の精霊と言えるでしょう。”


“そのアルラウネ、に注意しろ、とは、どういうことなのでしょう?”


“彼女は、当時冥府の王デミウルゴスに捉えられ、アンガス大地溝に幽閉されていました。彼女は普段は普通の女性のような姿で、温厚そうな雰囲気を装っていますが、常にどこか後ろ暗いところが有る存在です。悪魔召喚などと言って人間を殺したり、かつて乱立していた人間の諸王国のいくつかを、人化した状態で乗っ取って崩壊させ、傾国の美女と呼ばれたり、あるいは人心掌握の冥魔術や毒魔術を新たに創り出してみたり…。”


“やれやれ、滅茶苦茶な輩では無いですか。”


 エウロパの話を途中で遮り、思わずため息の様に言葉が出てしまう。人心掌握あたりはテレスタも人の事を言えない部分があるが、気にしたら負けである。


“ええ、そして、彼女が本当に厄介なのは、それらを興味本位でやってのける、という事なのです。何かの目的があるわけでは無く、今自分がやりたいからやる、というただそれだけのために。目的意識があるのであれば、竜王達はその目的を潰すために先回りをしたり、戦うことが出来たでしょうが、彼女は一切目的意識が無かったために次の行動が読めなかったのです。そして、エンシェント・スピリットという高位精霊でもありますから、その存在を捉える事自体が難しい。800年前には運よくデミウルゴスが冥魔術で彼女を捉え、幽閉に成功していますが、現在彼女がどうなっているかは、アンガス大地溝に直接出向かなければ解らないでしょう。”


“なるほど…そうすると、現在のアルラウネの状態を確認しつつ、冥府の王の預かっていた封印を解くために、次はアンガス大地溝に向かう、ということになりそうですね。”


 テレスタは魔素喰い対策の準備をいち早く終わらせたい。アルラウネはもののついでに確認しよう。残忍で読めない性格なのは理解したが、今すぐに何か問題になることも無いだろう。


“そうですね、今は、魔素喰いの対策をなさるのが良いでしょう。アルラウネについては、その問題が終わった後に注意すればいいことだと、私も思いますので。”


 エウロパが頷く。

 一通りの会話を終えて周囲を見渡すと、果実酒を片手に宴会の開始を今か今かと待つエルフ達の姿が。しまった、宴会の前だったのに、うっかりと色々話し込んでしまったようだ。テレスタは新しい眷属達と親交を深めるべく慌てて人化を身体に施すと、待っていたユグドからグラスを受け取るのだった。

いつも有難うございます。

急に暑いっすね。

みなさんも体調にはお気をつけて。

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