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毒牙の泉  作者: たまごいため
エクリッド氷原とエルフの里
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一仕事終えて。

テレスタは古城の中へと入る。見慣れた形式だ。これはどこの封印も同じつくりらしい。わざわざ違うものを創っても仕方がないのだろう。天井の止まった魔術陣、中央の玉座。ぶち抜きになった部屋。地下室が無いのは、ヒュデッカと少し違うようだが。

 そもそも何故フレスヴェルグをこの地に縛り付けていたのだろう、とテレスタは疑問に思う。守護と言えるような眷属が居なかったのだろうか。今更解り様の無いことだが、少し気になる所ではある。

 

「さあ、エルフの里の皆も待っているし、さっさと済ませてしまおうか。」

 

 テレスタは今回こそは人化した状態で、玉座へと腰掛ける。地味に、形式にはこだわっていたのだ。すると、静かに、天上の魔術陣が動き出し、光部屋に青白い光が満ちていく。


ポーン


 お馴染みの音が鳴り響くとともに、そこから魔素が溢れてくる。エクリッド氷原は元々の魔素はヒュデッカほどでないにしても、それなりの濃度があった。それが、封印が解けたことによって、このあたりの魔獣も活発化するだろうし、エルフ達の暮らしにも大きな変化があるかも知れない。

 それでも、基本的には魔素は恩恵と考えて差支えないだろう。この封印が解かれたことが、この地に良い影響を与えてくれればいいな、より豊かな方向へ。


 テレスタは、古城を後にする。人化状態で風の付与で戻ろうかとも思ったが、空間転移でツンドラとタイガの境目、カーミラとエルフの狩人達が待つ場所まで移動することにする。

 テレスタは人化を解く、と、何だか見慣れないものがあるのに気づく。青い、氷?


「お兄ちゃん、酷いなあ、僕が進化したっていうのに!」


 マイヤがひっそりと進化していた。いや、人化状態で玉座に座ることにばかり気を取られて、首が進化することをすっかり忘れていたのだ。


「あ、ああ、悪いなマイヤ、忘れていたわけではないぞ!」

忘れていた。

「大将は相変わらず無慈悲だぜ。」

「うぐぐ、面目ない。」

「いいですよー、別に。」


 自分の分身のご機嫌を取らなければならないとは、なんて残念な状況なのだ。

 それはそうと、マイヤは封印を解いた影響で真っ青な水晶のような鱗と青白い鬣の龍となっていた。頭には石英のような結晶化した角が1対生えている。見た目が結構厳ついだけに、子どものような性格とのギャップが激しい。


「ところで、ウダルの時も気になったのだが、進化ってそもそも何だ?能力値に変化があるような気はするのだが…。」

「ああ、ウダルはコミュ力ゼロだからな、俺たちは確かに解ってねぇな。マイヤ、何か変わったことは?」


 アグニが質問する。今のテレスタから質問しても、マイヤが応えてくれないかもしれないからだ。これでアグニは結構空気が読める奴なのである。


「ええとね、術式の合理化が凄く進よね。演算もすごく早くなるみたい。イメージの再現性も上がるし、今まで組めなかった高等術式も組めるようになるみたいだよ!」


 マイヤは嬉々として応える。存外、そんなに機嫌を損ねていたわけではないらしい。


「ウダルにしろ、マイヤにしろ、かなり強烈な魔術を省エネで展開できるようになったという事か。」


 今現在でさえ、まともにやり合う事が出来る魔獣が居ない程、テレスタの戦闘能力は高い。だが、そのうえで全ての首の封印を解除しなければならない程、魔素喰いという生物兵器は強力で厄介な存在なのだろう。「世界」がそのように判断したのだから、間違いないのだろうし、そこに従わずに生き残れるとも思えない。

 今更ながら、自分の強さを通して、相手の強大さに思い至るテレスタ。だからと言って立ち止まるでも怖気づくでも無いのだが、気を引き締めずには居られなかった。





 ツンドラとタイガの境界でカーミラやエルフの狩人たちと合流し、一行はエルフの里へと戻って来た。そこで見たものは、驚くほどの多様性を持った、顕現した精霊たち。


“え?魔素が流れるようになったのは解るけど、この変わりようは…?”


 思わず絶句するテレスタ。


「おお、テレスタ様、お戻りになられましたか!我々も突然精霊が顕現して活発化したので、もしやと思ってはおったのです。この様子ですと、すべては無事に…?」


 話しかけてきたのはミロード。周囲はお祭り騒ぎの様に精霊が飛び回り、精霊に親しいエルフ達でさえ若干戸惑っている様子だ。


“ああ、ミロード、何とかなったよ。今回の戦闘は、何というか草臥れたけどな。”


 若干ゲンナリとしながらテレスタは返事をする。フレスヴェルグとの戦いは、何というか知能戦とも言うべきものだった。どちらの術式が勝っているのか、その複雑性と、その解読能力を勝負させているような、純粋な戦闘とは違うような、そういうものだったと思う。

 戦闘経験ならこの短い生涯の中でも多分にしてきたテレスタではあったが、流石にこういう闘い方はしてこなかったため、頭痛のような疲れを感じていた。


「おお!それでしたら、是非温泉に入って下さい!…と、言いたい所なのですが、実は…。」


 ミロードの視線を追うと、それは先日入ったばかりの温泉の建屋の方向だが…。


ドドーン!


 という音とともに、地面から火山爆発のごとくお湯が噴き出している。間欠泉だ。


「精霊たちが活発になったのと同時に、いきなり爆発しましてね。おかげで、建屋が全て吹き飛んだという訳ですよ…。」


 魔素の流れが活発化して、地下水脈なども刺激されたのだろうか?ミロード温泉(仮)は跡形も無く吹き飛ばされてしまっている。無念そうなエルフの長老を見るにつけ、何というか少し申し訳ない気分にもなるが、それでもこのあたりで摂れる森の幸や農作物は、魔素の広がりによってこれから少しずつ増産に転じる筈である。温泉がぶっ潰れたという個人的なショックよりも、長老としてそちらを大いに喜んでもらいたいものだ、とテレスタは思う。


「温泉の事は誠に遺憾ですが、森の声の導きでテレスタ様をお呼びして、本当に良かった。そうでなければ、この里もネヴァルトロンの群れに蹂躙されていたやも知れませんからな。」


 頭を下げるミロード。そうそう、そういう事だ。フッと肩の力が抜けたようなミロードを見て、テレスタも少し嬉しくなる。何しろ、人の役に立つというのは気持ちがいいものだ。


「テレスタ様!」


 呼ばれて振り返ると、そこにはユグドの姿。


「この度は里の危機を救っていただいて、本当に感謝の言葉もありません。実は、ささやかですが宴会の席をご用意しましたから、どうぞこちらへお越しください。」


 テレスタは一つ頷くとユグドについて行く。他のメンバーも同様だ。

 それにしても、とテレスタは思う。精霊がこんな数で、術者の媒介無しに顕現するなんてことが、普通の事なのだろうか?疑問をユグドにぶつけてみると、


「ああ、それでしたら、宴会場に来ていただければ解るかと思いますよ。」


 意味深な事を言ってお茶を濁すユグド。首を傾げるテレスタだったが、すぐ先の宴会場で解るというのなら、無理に聞き出すこともあるまい、ということにする。






 宴会場、というのは開けた屋外広場の事であったようで、建屋があると考えていたテレスタには意外だったが、この雪の季節も間近のエルフの里であるにもかかわらず、広場は暖かく、快適に保たれている。


「驚かれましたか?実は、顕現したばかりの精霊たちが、協力してこの場を設けてくれたのです。暖気はサラマンダーとノームが協力して、それからもしも雪が降って来た時のために、シルフィード達が風の天蓋を作ってくれています。」


“へぇ、そりゃ凄い、ヒュデッカでも再現できないかな?”


「どうでしょうか?しかし、今日が特別だという事は、間違いないようです。こちらへ。」


 ユグドに言われて歩みを進めると、視線の先には薄らとエメラルドグリーンの肌と髪をした、美しい少女が此方を向いて立ち、念話で話しかけてきた。


“初めまして、毒牙の王、テレスタ様。私はエルフの里の森の声、ドリアードのエウロパと申します。「氷原の王」より預かりました言葉をお伝えするために、こちらに顕現しました。”


 エウロパ、と名乗る少女は、そう言うと、深々と頭を下げるのだった。

いつも有難うございます。

中々、続きのイメージがわかず、

苦戦中です。

筆が進まないときは、皆さんどうされてますか?

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