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毒牙の泉  作者: たまごいため
エクリッド氷原とエルフの里
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氷原の守護者。

 ツンドラは、真っ平らで有ることから、敵の接近を確認しやすい。こちらはいくらでも遠距離の攻撃手段があり、最も距離とスピードに優れるオリヴィアが露払いを買って出てくれている。


“私もミスティほどではありませんが、戦闘で目立った功績を上げないといけませんのでね。”


 テレスタとしては十分過ぎるくらい色々な面で約に立ってもらっているのだが、こと戦闘においてはミスティが悪目立ちしているので、そこを何となく意識してしまうのかもしれない。

 オリヴィアは敵影が確認されるごとに、強力な光の矢を放ち、瞬時に絶命させていく。ツンドラの魔獣は母数でいえばそれなりに数は居るが、この冬に入り始めた時期はお互いに獲物が減って気が立ってきている。対応が遅れ、接近されるとそれなりに厄介だ。


「今回はアタシはテレスタのお守かね。」


 ミスティが退屈そうにこぼす。お守、ではなく風魔術の付与をカーミラに代わって行っているのだが、彼女にとっては戦闘以外の全ての行為は些事に過ぎない。ちなみにカーミラはエルフの里とツンドラの間でエルフの狩人達とともに待機している。


“テレスタ様はカーミラに対しては心配性というか甘いですよね。私もそういう扱いはして頂けないのかしら。”


“別にカーミラにそんなに甘くしているつもりは無いけれど…彼女の力を考えると、この先は危険だ。あまり危ない目には合わせたくない。”


“そのことを言っているのです!”


 ああ、なるほど、でもオリヴィアは何を言っても付いて来そうな気がするが。いや、気持ちの問題か?テレスタは思考をあれこれするのはそれなりに出来るが、相変わらず人の気持ちを汲むのが苦手である。


「痴話喧嘩はいいんだけどさ、テレスタ、見えてきたよ。」


 遥か彼方ではあるが、封印の古城が見えてくる。と同時に、古城の周りに様々な魔獣…のアンデッドが。


“もしかして、先代の水の龍王は、冥魔術も使えたのか?”


「どうやらそうらしいねえ。考えることが誰かさんと一緒だな。アンデッドで城を守るとは。」


“あまり、いい気分はしませんね。”


 オリヴィアはどちらかと言うと毒牙の居城の周りがゾンビだらけなのが気に食わない、という方だろう。この城のアンデッドに関しては、単に殲滅すべき相手だというだけである。


「アグニ、居城の周りは、封印さえ解放出来れば魔素が濃くなるはずだ。多少の無茶をしても環境ダメージは少ないだろう。やっちまってくれ。ただし、色は赤な。」

「おう、ようやく出番が回って来たな。」


 アグニは素早く術式を組んでいく。最古参の首だけに、術式の合理化もクロノスと同様進んでいる。

「【アニヒレーション】」


 これは、パラでミスティ相手にも使った炎の雨だ。古城の上空を炎熱の雨が覆っていく。アンデッドたちは苦し気に悶えているが、消滅する様子が無い。何かがおかしい。


「あれ、おかしいな?手加減したつもりはねぇんだが。」

「主君、彼奴らは魂ごとこの地に縛られているようだぞ?肉体が失われたところで、どうという事は無い。結構な高等術式を使っているように見えるが。」


 シェオルが見る限り、かなりの冥魔術が使われているようだ。あれ?ここの龍王は水属性だよね?


「キュアアアア!!」


 テレスタが疑問を持っていると、間も無くそのような声が響き渡った。

見れば、上空に巨大な陰。

銀色の翼、翼長は50メートルに達するだろうか。その頭には巨大な2対、4つの赤い瞳。現実世界と、冥府を見ていると言われている。そして、脚は一本のみ。その先には巨大な鉤爪。

冥府へ行くことの出来なかった魂を喰らうとされる怪鳥、フレスヴェルグ。竜族とともに、現行の世界にはその伝説が残っているのみの魔獣だ。


“また、凄いのが出てきたな。水の龍王は何を考えてるんだ?”


“恐らく、ですが、分かりやすくただ力のある龍王をが次の王位を継ぐことを求めたのではないでしょうか?フレスヴェルグは、もしかするとこの辺りを荒らしているのを王から抑え込まれ、この地に契約で縛られているのかもしれません。”


「ああ、ヒュデッカの封印が解けたのはパラで眠っていたときも解った。恐らくはそれと同時期、あの鳥も目覚めたというところだろ。」


“契約ってことは、例えば次王の候補たる私を倒せば晴れて自由の身、とか?”


“充分あり得ることですね。来ますよ!”


「ギョアアアア!」


何を話をしてる!とでも言うかのように叫び声を上げるフレスヴェルグ。そしてその足下には巨大な魔術陣が展開される。

背筋をヒヤリとしたものが過る。


「アグニ!」

「もうやってる!」

“オリヴィア、ミスティ、私の後ろに!”


テレスタの念話より一瞬早く、怪鳥の術式が放たれる。地を一掃するような強烈な突風と冷気。それは地に生きる全てを凍てつかせ、眠らせるブリザードブレス。


“ぐおお、どこが魔獣だ!普通に竜族並じゃないか!”

「眠ってる間にエクリッド氷原の魔素を食い続けてきたんだろ!」

“テレスタ様、反撃の指示を!”


(こいつの後ろに何かが控えているとも思えない。それなら、出し惜しみしている場合じゃないな!)


“ミスティは全員の風の付与を最大限まで上げてくれ!オリヴィアは、初っぱなからブリューナクをぶっぱなして良いぞ!”

「アタシはまたお守りか!」

“はい、殺って殺ります!”


その間も吹き荒れるブリザード。一体どれだけの魔素を注ぎ込んだのだ。


「ギュネシ、奴を捕捉しろ、撃ち落とすぞ!」

「あいー、了解。」


視界不良で相手の事を目視で追うことは出来ないが、ギュネシの術式は相手の固有の魔素を追いかける。この嵐の中でも十全に機能する。


「兄貴、捕捉完了だぜー。」

「よし、打て!」

「【ゲレル・マグナ】!」


キンッ! と鋭い音を発しながら、ギュネシの額から放たれる光線は、大きく弧を描きながら上空へと吸い込まれていく。


「ギュウウエエエエ!」


気持ちの悪い叫び声が辺りに響き渡り、ブリザードが晴れていく。上空の巨大な陰を目視で捕捉。


“オリヴィア!”

“テレスタ様の邪魔をしたこと、あの世で反省なさい!【ブリューナク】!”


巨大な光の柱が地上から上がり、怪鳥の心臓を貫いて辺り一体を光で包み込んだ。



“!?、私のブリューナクが効いていない?”


いや、確かに心臓を貫いた筈だ。しかし、光が引いた後に現れたのは、無傷のフレスヴェルグの姿。


“いや、確かに魔素が一時的に小さくなっていくような感触は有った。問題は、光に包まれている間に、アイツが何をしたか、だろう。”


(やつは1度瀕死のキズを負った筈だ。それを、何かしらの方法で回復させた。まさか無属性も使えるのか?誰だこんな魔獣を産み出したのは。)

自分の事は棚にあげて、相手の分析を行うテレスタ。


「おい、ボーッとすんな、次来るぞ!」


ミスティの風の付与を受けて、横っ飛びに飛ぶと、無数の氷の槍が地面に突き刺さる。


“ちい、弾幕も張れるか!普段自分がやってることをやられると、いらっと来るな。”

「言ってる場合か!」


ズドドドド!ものすごい勢いで、地面に突き立つ氷の柱。それを回避し続ける。前に、横に。


「クソッ、平行で魔術を使うのがじれったい!クロノス、縮小を解くぞ!避けるのも面倒だ、このままではやつが何をやってるのか分からん!」

「主よ、了解した!」

“ミスティ!身体をオリジナルのサイズに戻すから、その間叩きに行ってくれ!”

「それを待ってたんだ!アタシが終わらせてやんよ!!」


ドウッ と一直線に飛んでいくミスティ。

同時にテレスタの身体を縮小していた術式が解除され、ズズン、と雪煙を巻き上げながら100メートルに迫るサイズの怪物が姿を現した。


いつも有り難うございます。

抑揚、抑揚。

何というか、話にリズムをつけたいですね。

頑張ります。

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