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毒牙の泉  作者: たまごいため
エクリッド氷原とエルフの里
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エルフの里。

 森を抜ける…ことは無く、そのまま広葉樹の森が延々と続いている。エルフの住む里まで、ここまま平原に出ることは無いという。


「このあたりの広葉樹林が私達エルフの全てを支えてくれいるのです。食料や住居、衣類までそうなんですよ。」


 少し興味の湧いたテレスタ。エルフはダークエルフ達よりも何というか衣服が清楚で落ち着きがあり、素材にも高級感があるように思える。


“エルフの里ではそのような洋服も折ったりするのか?”


「ええ、養蚕と綿花の栽培もおこなっています。私達も形式上、人間族との取引が無い訳ではないので、その際には洋服を売ったりもしますよ。なんでも人間族から見るとかなり高級なものなのだとか。」


 エルフ達は貨幣経済に染まっていないため、多分二束三文でそれらを売ってしまっているのだろうが、損得勘定というもの自体が存在しないのだろう。むしろ自然からの贈り物を人間族とシェア出来て嬉しい、というような表情が、ユグドからは見て取れた。

 

「さあ、もう間もなく里の中に入りますよ。ダークエルフと違って、エルフは一か所に固まって大きな集落を作っています。人口はそれなりに居ますから、少し驚かれるかもしれませんよ。」


 そう告げるユグドは前方の一際大きなクヌギの木を左手に見ながら半周する。それに着いて行くと、突然視界が開け、木々の間や上に多くの住居が点在する広場のような空間が広がった。ユグドの到着を精霊や森の声を予め聴いていたのか、すでに広場には多くのエルフが集まっていた。

その中から一際高貴なシルクのローブを纏った男性が一歩前に出て一礼する。


「ようこそいらっしゃいました、テレスタ様、御一行の皆様。私はエルフの里を治めております、ミロードと申します。長旅でお疲れでしょう?どうぞこちらへ。」


一つ一つの所作が美しいミロードが案内を告げると、幾人かの世話係を任されているものたちがテレスタ達を大きな樫の木の下に建てられたドーム型の屋根を持つ建物に案内してくれる。

エルフ達はダークエルフよりも素材に成形を加えたりするのが好きなようだ。広葉樹林で取れる木材を様々に組み直して、建物を建てていることがわかる。もっとも、人間族のように細部に意匠を凝らすということはしないようで、木材のそのままの暖かみを感じるような雰囲気である。


そして、建物の入り口を潜って案内された奥は...温泉。入口から伸びる廊下の横には庭園があり、そこかしこから湯煙が上がっている。

テレスタは一瞬思考が止まってしまう。あれ、何か客間とかに通されるんじゃないの?と。


「ふふ、驚かれましたか?エルフの最近の慣習で、お客様はにはまず、温泉にご案内することになっておるのです。遠路はるばるいらっしゃる方が殆どですし、年の半分は雪に覆われるような土地柄ですから、温泉で寛いでいただくのがまず最初にやるべきこと、というわけですね。」


“何かこう、私の持っていたエルフ像と大分違うようだが...”


ダークエルフの記録庫では、エルフはそれなりにお堅い種族という認識だったのだが。温泉って、何かこう、和む。


「まあ、温泉が出たのはここ300年ほどの事ですから、昔の記録に載っていないのも無理はありませんよ。ささ、どうぞこちらへ。」


300年って、最近のことなのかな...時間概念がここのところどんどん歪んでいる気がする。そんなことを考えつつ奥へと進むと、男湯、女湯、混浴が。混浴?


“混浴って、どういう場合に利用されるのだ...?”


テレスタは恐る恐るミロードに質問する。オリヴィアが妙なテンションになると、色々とまずい。


「混浴は、なんでしょうねえ?当時の長老が変わり者でして、混浴というのを作ったんですよ。ガラハッド王国だと湯は貴重ですから、人間族は割に気兼ねなく混浴を楽しむようで、都市部で何年か暮らしていた彼がそれに憧れて混浴を創ったと聞いておりますよ。それなのに村の面々と来たら混浴に反対するばかりで、全く忌々しい。」


あれ?


“…ちなみに、ごく興味本意での質問なのだけど、ミロード殿はどのくらい長老をやってらっしゃるのだ?”


「そうですね、ざっと200年くらいになりますか。300年位前に1度事故で引退したんですがね、何分、後身が頼りなくて。お恥ずかしい話です。」


いや、絶対この人だし。首になっただけだし。


混浴の事を考えるのはよそう、と思い、男湯の方にスルスルと入っていこうというテレスタ。しかし、そこで何かにぶつかってしまう。


“ふふ、何処に行こうというのです、折角混浴が公認されているというのに...?”


ハッ、これは光魔術?まさか同じ手に二度も引っ掛かるとは!不覚!ガシッ。

尻尾を捕まれたテレスタはズルズルと混浴へ引きずり込まれていく。


“これぞ、はじめて殿方に裸を見られてしまいました、もうお嫁に行けません、責任を取って頂けますか?作戦!”


バカな念話を駄々漏れにしているオリヴィア。

ゲシッ!

の脳天に、踵が突き刺さる。


“ぎゃう!”


...それ念話にする必要あるか?


「あんたもブレないわね。さっさと行くわよ。」


カーミラに引きずられて女湯に連行されるオリヴィア。完全に気を失っているあたり、カーミラの格闘レベルが上がってきていると言うことなのだろうか…。


「や、やっぱり、その、殿方に肌を見せるというのはちょっと、その、やめた方がいいって言うか、私達まだそこまでの...」


「あんたはブレブレね。キャラ変わりすぎじゃ無いかしら...」


面白いから良いけど、と苦笑するカーミラ。取り乱し気味のミスティも引きずられて女湯へ消えていく。


ちっ


あれ、変な舌打ちが聞こえたような...ミロードさん?


「何か御座いましたでしょうか?ご要望の際は、いつでもお呼びくださいね。」


ニコリ、と首を傾げるミロード。ぬう、なまじイケメンだけに、疑いをかけるのをためらってしまう。

まあ、折角の温泉だ、面倒事も回避されたし、ゆっくりするとしよう。






 温泉でゆるりと時間を過ごし、宴会を終えた面々は、明くる日、長老の家へと招かれた。ミロードは風呂の事を除けば非常にそつなく仕事をこなす長老のようで、その辺はミレアとちょっと似ているかも知れない。長老という役職に就く人は仕事の性質上多少癖があっても仕事をきちんとこなす人が選ばれるものなのかもわからない。


「テレスタ様、お連れの皆様、この度は、エクリッド氷原の奥地へと進むことを快諾下さり、誠に有難うございます。エルフ族の代表として、今一度感謝を申し上げます。

 さて、現在のエクリッド氷原の状況ですが…まず、氷原の奥地に住むとされていたネヴァルトロンの群れや、その他の強力な魔獣たちがこのエルフの里近くまで南下してきております。どれもAランクやBランクの魔獣ばかりで、率直に言ってエルフ族が総力を挙げたとしてもその侵攻を阻止することは難しい状況です。」


 一度言葉を切るミロード。その目は真剣そのもので、テレスタの事を真直ぐに見つめてくる。


「ネヴァルトロンの群れとの戦闘にはエルフ族の戦士たちを全て動員して、テレスタ様のご負担を少しでも減らすよう動きますので、何卒、エクリッド氷原最奥の遺跡の状況をご確認いただければと…。」


“いや、大丈夫ですよ。ネヴァルトロンの群れは、私が単独で相手をしますから。”


「は?いや、しかし…。」


“広域殲滅型の魔術を使用しますから、むしろ離れていていただいた方が良いと思います。私の打ち漏らしはミスティやオリヴィア、カーミラが相手をすることになると思いますが、恐らくネヴァルトロンでしたら問題ないでしょう。”


「ほ、本当ですか?ネヴァルトロンと言えば、間違いなくAランク魔獣、それも一頭や二頭では無いのですよ?」


“ええ、問題ありません。まあ、見ていてもらえれば大丈夫ですよ。”


 テレスタの余裕に呆気に取られてしまうミロード。


「私としてはテレスタと一緒に前線に出たいんだけど。むしろ、封印の地までは魔素を温存してた方が良いんじゃないの?他のメンバーが守護を倒したってしょうがないのだし。」


“ん、そういえばそうかも知れない。じゃあ、私がファイアストームを詠唱して魔獣の群れに風穴を開けるから、そこから先はミスティとオリヴィアでお願いできるかな?カーミラとルノは打ち漏らしを村に近づけないように後衛で待機していてくれ。”


「OK、やる気出てきたわ!」

「了解、もしもの時のために霊水も何本か後衛の私が持っておくわね。」

“水属性はそれなりに相性もいいから、問題なく進めるでしょう。”


 3人とも、前線の動きについては問題ない様だ。


“そういう訳なので、エルフの皆さんはカーミラの後ろで待機していただけますか?”


「わ、解りました。では、いつでも戦闘に参加できるよう準備をしておきましょう。」


 ミロードもここで流石に呆けてはいられない。テレスタに確りと頷いて答えた。



いつも有難うございます。

最近考え過ぎでストーリーが重ったるくなってしまいます。

こういうところのバランス難しいですね。

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