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毒牙の泉  作者: たまごいため
エクリッド氷原とエルフの里
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ウロマノフ台地の入り口。

イネアの門には、多くのダークエルフ達と、ミレアが見送りに出てきていた。

テレスタ一行は、いつも通りの3人に一匹と、ユグド。


「それでは、道中お気をつけて。」


ミレアが恭しく一礼する。最近は守り神熱が落ち着いたのか、付いていくとかそういうことは言わなくなったらしい。まあ長老だしな。もしくは飽きたのかも。


「親書はカーミラに手渡してあります、よしなにお願い致しますね。」


「ええ、有り難うございます、また近いうちに。」


(エルフとダークエルフの挨拶で近いうちって、何か独特の冗談みたいだよな。)


テレスタがそんなことを考えていると、挨拶が済み、一行はヒュデッカを抜けてウロマノフ台地へ向けて進み出す。


「ウロマノフ台地から北方へ抜ける、エルフ族が代々利用している通路があります。精霊の加護が強いので人間族が入っても北へ抜けられませんが、私がご案内致します。」


そのような説明をするユグド。ルノの風の付与を受けて軽快に進んでいっている。彼は水の精霊を扱うそうだが、狩りの際には仲間の風属性の精霊から力を分けてもらうことも多いらしく、移動は馴らしたもののようだ。

ウロマノフ台地の中腹からそのまま山岳地帯を北へ抜ける道であるとの事で、後々ウロマノフに空間転移でやってこれるようになるのは非常に有り難い。


(確か、ウロマノフ台地は無属性魔術の封印だったな。クロノスは今でもこれだけの力があるから、実際解放されたらどれだけになるのだろう。)


ウロマノフの事が少し気になるテレスタではあるが、今はエクリッド氷原だ。タイガの北、ツンドラの大地。生物の住む北限であり、厳しい気候のなかで水属性・氷属性の魔獣が太古から息づいているという。そして、その最奥、封印の地で異変か。こういう事が起こるにつけ、本当に封印同士は繋がっているのだなと改めて思う。

テレスタがカーミラの首に巻き付きながらそのようなことを考えている間、ミスティは水を得た魚のように飛び回り、索敵に引っ掛かった魔獣を片端から葬っている。


(道中は、ある意味平和だな。絶滅させるなよ...)


若干の憂いと共に見つめるテレスタだった。





ウロマノフ台地までは7日でたどり着いた。風の付与が無ければとても来る気が起きなかっただろう。ユグドは行きはどのようにして来たのだろうか?


「ああ、行きは徒歩ですね。お便りを頂いてから2か月かけて、ヒュデッカまでお邪魔致しました。」


 凄いな。気の長い話だ。


「一般的には徒歩か、あるいは馬車かという事になるでしょうから、旅程としてはそれほど珍しいものでもありませんよ。このように全員が、しかもこのレベルの、風の付与を受けられる、ということの方が余程異常な事態です。」


 少し苦笑するように、ユグドは口にする。

 ユグドの言葉ももっともなところである。最低でもBランクの実力を持つカーミラとルノの風の付与、オリヴィアはそもそも飛んでいるし、ミスティに至ってはSランクの魔獣より尚強力な風を用いる。世界広しと言えど、それを可能にしているのはこの一行だけだろう。


 そんなわけで、ウロマノフ台地の中腹まで登って来たのだが、


“みんな、結構な数の魔獣がこちらに向かって来ているぞ!念のため私とカーミラの周囲に集まってくれ。”


 テレスタの指示に従い、速やかに集まってくる面々。ユグドも、普段から狩でこのような状況は慣れているのだろう、すぐにテレスタの下へとやって来た。


“Cランク程度の魔獣が群れでこちらを伺っている。面倒だから一掃しようと思うが…ちょっと土属性の魔術を練習したいんだ。皆ここで待っててもらえないか。”


「なによ、あんただけ楽しもうってわけ?そもそもアルダーから帰って来てアタシはまだ訓練つけてもらってないわよ!」


“ああ、すまんミスティ。もうちょっと時間をくれ。私もまさかこんなに早く次の度に出ることになるとは思っていなかったんだ。”


「まあ、しょうがないけど。次からアタシにやらせなさいよね!」


 こくり、と頷くテレスタ。オリヴィアとカーミラに関しては、特段問題はない様だ。


“3人とも、ユグドの周囲を固めておいてくれ。打ち漏らしはドンドン掃除して構わないから。”


 そう言うと、カーミラから離れ、魔獣の群れの待つ方角へと進んでいく。

 ウロマノフ台地は完全に枯れてしまっていたパラと違い、若干の魔素を感じる土地だ。当然ながら、ヒュデッカほどでは無いにしても、それなりに強力な魔獣が集まり、それなりの密度で活動している。今、テレスタの眼前に現れた20頭ほどの魔獣も、そんなウロマノフ台地固有の種族の一つ、石灰質の銀色に輝く棘のような体毛を持つ、ガト・ブランカだ。長い耳と、2本の尾は狐を連想させる。そして、毛を針のように飛ばして攻撃したり、直接体当たりなどをして攻撃してくるという少し独特の生態を持った種である。

 

“ガト・ブランカ…初めて見るな。結構な数だが…美味いのかな。”


 すでに戦闘後のことに頭がシフトしてしまっているテレスタ。何しろ土魔術はまだまだ修行中の身。合理化は全然できておらず、魔素は消費し放題だ。外から魔素を補充できるのであれば、いくらでも頂きたいところ。一般的な人間族の冒険者には死を意味するところのCランク魔獣の群れは、そんな状況には持って来いだ。

 一斉に遠吠えで意思疎通を取ったガト・ブランカたちは、遠距離から鋼鉄のような硬度の毛鉤を幾千と飛ばしてくる。

 テレスタはすかさずアースウォールを展開。毛鉤を土の壁で受けていく。そこへ、初めから駆け出していたのであろう、数等の狐たちが迫る。前後衛がきちんと分けられているのか、中々の連携ぶりだ。

 テレスタはそこに、魔素の量にモノを言わせた雑駁な術式で無数に土の槍を創り出し、敵に放っていく。


「ギャウ!?」

「ケェン!」


 様々な声を上げながら土槍に傷つけられていく狐たち。だが、もともとの防御力がかなり高いのと、テレスタの術式が未熟なために殺傷までには至らない。狐たちはテレスタの寸前まで肉薄する。


“じゃあ、これならどうだ!ロックジェイル!”


 そんな名前の魔術は無いのだが、テレスタは適当な術式を組んで、自分の身の回りに無数の槍を地面から突き立てる。地面から突然生えてきた槍に腹を貫かれ、抵抗もむなしく絶命していくガト・ブランカ達。


“よしよし、至近距離ではこの使い方が有効だな。後は土槍の強度を、そうだな、マッドヴァイパーの飛ばしてきた土槍の強度辺りを参考に、組み上げていけば問題なさそうだ。”


 前衛役の狐をあらかたロックジェイルで葬ったテレスタは、アースウォールの術式をいったん解除し、空中に無数の土槍を展開してく。かなりの魔素消費量だが、絶対量が違うだけに、この程度のことなら朝飯前だ。

 突然の術式の展開に慌てて散開するガト・ブランカの群れ。残りは半分と言ったところか?だが、何しろ物量が違う。四方から雨のように降り注ぐ土槍に、成す統べなく追い込まれていく。


“じゃあ、最後は派手目なので行こうかな。ストーンシャワー!”


 これも、適当な名前の術式だが、その適当な術式が組み上げられた瞬間広範囲に巨大な岩が降り注いだ。

まるで巨大な地震のような振動と轟音が辺りを包み込み、土煙を盛大に巻き上げる。


「ピット器官による生体反応は…無しと。殲滅完了だな。」

「ようやく大将にも派手めな術式が生まれたと思ったけど、これ土属性なんだよな…」

「主よ、ガト・ブランカ20頭の魔素で賄いきれますでしょうか?」

「…難。」

「お兄ちゃんはやっぱ凄いね!」

「主君の苛烈さは、噂以上ですな。」


 アグニのコメントが若干刺さるが、まあ良しとしよう。毒属性で派手さを出すには…やめた、見栄えが悪くなりそうなのばっかりだ。


“みんな、食事にするぞ、何、遠慮はいらない。”

「魔獣の肉なんて、食べないわよ。」


 振り返って念話を発したテレスタに見えたのは、魔獣なぞ食わん、と若干顔を引き攣らせるメンバーと、そもそもテレスタの術式の滅茶苦茶さ加減を初めて間近で見て、呆気にとられるユグドの姿だった。

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