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毒牙の泉  作者: たまごいため
エクリッド氷原とエルフの里
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北へ向かう。

 イネアに来るのは本当に久々だ。遠くモレヴィアやレビウス、アルダーには赴いていたのに、お膝元のイネアに来たのはいつ以来だろうか。

村は何時もより賑わいを増しており、普段は見かけない顔もちらほらと見かける。恐らく他のダークエルフの集落からも手伝いがやって来ているのだろう。それに混じって、カーミラも宴会の料理の準備や、村の装飾に飛び回っている。

今年の豊穣祭はテレスタが封印を解いた影響で多くのダークエルフに森の声が聞き取れるように成ったことから、分担やお供え物等がてきぱきとスムーズに並べられ、整えられていく。


“まだお祭りの準備中に見えるのだが、私が来てしまっても良かったのかな?”


テレスタが呟くと、ミレアが応えてくれる。いつの間にか横まで来ていたようだ。今、彼は蛇の格好をして以前に隊商が集まっていた広場の中央で用意された椅子の上に乗っている。


「準備万端、となるまでダークエルフを待っていたら、雨期が終わってしまいますよ?」


ニッコリと微笑む彼女を見るにつけ、ダークエルフという種族は本当に朴訥としてのんびりしているのだなと思う。


「そんなことより、テレスタ様、ご紹介したい方がいらしています。」


ミレアの言葉を受けて見れば、彼女の後ろには真っ白い肌に金髪の美丈夫が立って、此方に一礼するのが見えた。ミレアがそれに合わせて口を開く。


「テレスタ様、此方がガラハッド王国よりお越しいただいた大使、ユグド様です。ユグド様、此方は我々ダークエルフの守り神、テレスタ様です。」


「ユグド、と申します。この度は数十年ぶりの来訪を快く受けて下さり、誠に有り難うございます。」


“テレスタです。来訪を受けるも何も、私はこの村には何の権限もありませんよ。ミレアさんが全てやってくれているお陰です。”


本当にそうなので、偽りはないのだが、


「ご謙遜を。私どもの耳にも、森の声を通じて、テレスタ様のご活躍が届いて来ておりますよ。」


おお、そうなのか、と少し驚くテレスタ。しかしよく考えてみるとそれも当然の事かも知れない。森の声は元々が精霊や竜族であり、それが大地と一体になったものだ。そしてそれらは冥魔術でいうところの精神やスピリットのレベルでこの世界と強く結び付いている。

テレスタが世界と通じているなら、それが森の声へと伝わっていくのは道理であり、エルフ達にそれが伝わったとて、何も不思議ではない。


“森の声は元々が精霊達ですものね。あなた方の居る北の地に私の噂が届いていたとしても、不思議は無いのでしょうね”


お客人ということで、何時もより丁寧な返答を心掛けるテレスタ。どうだろうか?上手く出来ているだろうか?


“テレスタ様でもそのような言葉遣いをなさるのですね?”

「私もちょっと驚いたよ。普段はぶっきら棒なのにね。」


 オリヴィア、ミスティ、そういうこと言わなくていいからね。

 見るとユグドも笑ってしまっている。まあ、この場が和んだのならそれでいいとするか。


「実は、その森の声に託されたこともありまして、この度私はこちらまで参った次第です。」


“そうなのですか?では、立ったままではなんですから、こちらへどうぞおかけになって下さい。”


 ユグドはテレスタの正面の切り株のような椅子に腰を下ろし、話し始める。


「私共の暮らしている広葉樹とタイガの森の先に、エクリッド氷原というツンドラと雪の大地が有ります。その奥に、かつての龍王が支配した遺跡が残されていると聞き及んでおります。」


 ここで、封印の話が出るとは、と少し驚いたテレスタだが、森の声に託されたとあれば、そういう事もあり得るだろう。ヒュデッカに龍王が現れたことに気付くことも有るだろうし、場合によっては、前龍王からの言伝を受けて森の声になり、800年間封印を解くべき相手が現れるのを待っていた、何てこともあり得ることだ。現にダインとアフラ・マズダの守護はそのようにして情報を守ってきたわけであるから。


「その、遺跡の様子が、最近どうもおかしいのです。昔から私どもの一族は遺跡を守るために交代で見張りを立てておるのですが、遺跡の方角から大きな音が聴こえたり、普段はタイガまで下ってこない雪狼ネヴァルトロンが集落近くまで出没したりしているのです。そこで、我々の長老が森の声に問うたところ、南に龍王が現れた旨、そしてそこで知恵を授かってくる旨を受け取ったのです。」


 ユグドはそこでいったん話を切って、テレスタと目を合わせる。


「テレスタ様、不躾なお願いごとで誠に申し訳ありませんが、我々エルフ族に、お知恵を授けて頂ければと思うのですが。」


 そう言って頭を深々と下げるユグド。テレスタは内心困ってしまった。何しろ、知恵など何も持っていない。北の遺跡に何が起こっているのか、何故、Aランク魔獣のネヴァルトロンが南下してきたのか、その辺りはさっぱり見当がつかないのだ。助言も知恵を授けることも出来ないが、かわりに提案は出来るだろう。テレスタはユグドに念話を送る。


“もし、宜しければ私が直接遺跡に伺いましょう。恐らくですが、何か出来ることがあるでしょう。”


 どのみち遅かれ早かれ行くつもりだったのだ。この際知恵では無くて直接解決が望ましい。と言うかそれしか選択肢が無いだろう。


「ま、誠ですか!?しかし、ヒュデッカの居城のこともありましょう、大丈夫なのですか?」


 ユグドは心配そうにテレスタや、他の面々にも視線を向ける。それについては、オリヴィアもミスティも、テレスタがどう返事をするのか解っているので、特に問題にも思っている様子は無い。


“問題ありませんよ。居城には優秀な門番を多数そろえておりますから。”


「大将、オリヴィアの顔が怒ってるぞ。今は振り向くなよ。」


 アグニから情報のサポートが入る。問題には思っていないが、不満はあるという事だ。だが、残念ながら冥魔術をもう少し磨かないとアンデッド軍団を進歩させられない。オリヴィアには申し訳ないが、今少し、この状況を甘受してもらうほかあるまい。


「感謝いたします。では、この祭りが終わったのち、私とともに北の大地へとお越し頂けますか。長老にも伝えておきますので。」


 うん?長老にも伝える?


“失礼、どのようにしてご長老に伝言をなさるのですか?”


「ああ、それは、我々は妖精よりも少し格の劣る霊体を使い魔として使役しておるのですよ。ピクシー、ご挨拶をしなさい。」


 ユグドがそう呟くと、彼の右肩の上に光の球が現れ、キラキラと光の鱗粉を振り撒きながら小さな人型の妖精の姿を取った。


「彼女たちはピクシーという種族で、個々に特定の名前は持ちませんが、霊体故に実体を持たず、距離を跨いだ地でも言伝を頼むことが出来ます。彼女に、長老へ言伝を頼む、という訳です。」


 ユグドの説明に、テレスタは頷いて納得した。なるほど、まさかエルフの村でも長距離通信の魔道具を開発したのかと思ったが、そういう理由であったか。人間族は道具を創り出すという才能を持っている代わりに、自然物との繋がりが希薄になった。エルフ族は逆にそういった自然の中にあるエネルギーを上手く活用する術を代々身に着けてきたのであろう。


“なるほど、良くわかりました。では、よろしくお伝えください。”


 テレスタはそう返事をした。ニッコリと笑おうと思ったが、今は蛇の姿を取ってしまっている。最近自分が人間染みてきたなぁと実感するテレスタだった。






 お祭り、と言って甘く見ていたが、何とダークエルフの豊穣祭は2日2晩続いた。その間、森で採れた大量のキノコや木の実、川魚や魔獣の肉が振る舞われ、ベリーを発行させた酒なども大量に振る舞われた。テレスタも半年ぶりに酔っ払い、祭りが明けた今朝は頭をクラクラとさせている。

 とはいえ、祭りが終わった後は北へと出発する予定だ。一度毒牙の泉に戻り、ユグドとは旅支度をしてから翌日にイネアで待ち合わせることとなった。


 テレスタは殆ど一月振りに本来の姿に戻って、居城の芝生でごろついている。ただの二日酔いである。だが、その間もベリベリと脱皮が続いていおり、心なしかアルコールも皮と一緒に体外に出て行っているようで、気分が少し楽になっていた。


「あー、兄貴。お休みのところ悪いんだが。」

「何だギュネシ、珍しいな。なんかあったのか?」


 テレスタ以外の首は、魔素の塊の為、二日酔いにはならないらしい。


「新しい首が生えてきてる。」

「マジで!?」


 慌てて背中を見ると、ギュネシとマイヤの首の間が脱皮で広がり、そこからテレスタと同じ顔が覗いたかと思うと、ズルズルズルッと音を立てて伸びてきた。


「ああ、どういう風に首が生えてくるのか、ちょっと気になってはいたんだが…。あんまり見てて気持ちのいいもんじゃないな…我ながら。」

「で、名前付けるんだろ、大将。」

「先ずは冥魔術を使ってからですな、主よ。」


 という訳で、テレスタは冥魔術を使って適当にゾンビを一体召喚する。うむ、グリフォンのアンデッドか。中々の戦力だ。


「我を呼んだか、主君。」

「主君と来たか。名前はあるか?」

「いや、まだ無い。」

「じゃあ、お前の名前は…。シェオルで行こう。」

「主君よ、承った。我はシェオル、冥属性のシェオルなり。」


 シェオルは控えよろう、とでも言うかのように、首を高々と掲げて辺りをねめ回した。まあ、近くにはグリフォンのアンデッドしか見当たらなかったが。



いつも有難うございます。

ついにブックマーク50件になりました。

本当に、有難うございます。

ゼロから始めて、色々な人との繋がりが生まれるってのは、

凄いことですね。

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