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毒牙の泉  作者: たまごいため
第3都市アルダー
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帰還とこれから。

“では、先ずはアフラ・マズダへ行くのが先決か?”


 私はダインに質問する。


“いえ、そうとも限りません。守護が抱えているのは、術式。それも、全属性を組み込んだ術式です。つまるところ、テレスタ様には全ての属性に精通していただく必要があるわけです。もちろん、今アフラ・マズダまで登っていただくことも出来ますが、時間的にそれは惜しい。先ずは地上にある他の竜王の治めていた地を回って頂き、全ての地の封印を解いて頂くのが先決かと。”


“なるほど。魔素の循環をはかるために全地域を回る必要があるのかと思っていたが、その術式の為にも、私はこの大陸を回らなければいけない訳か。中々にハードだな。”


(アフラ・マズダを除いて、残り5か所を回らなければならない訳か…さて。)


“確か、イネアの村の記録庫に世界地図があったよな?あれとヒュデッカの記録庫の情報を使って、残りの封印をどう攻略するかを考えよう。ともあれまずは、ヒュデッカに戻ろうか。”


 そのように皆に伝えるテレスタ。3人も首肯する。


“ダイン、貴方はどうするのです?”


 オリヴィアが問いかける。


“私もついて行きたいところですが、私がアルダーを離れると、このダンジョンにかかっている術式が崩壊してしまいます。この記録を欲に目を欠いた連中に渡すわけにも行きませんから、私はここに残らせて頂きますよ。”


 まっとうな事を口にするダイン。はじめからそうしていれば話は早かったのだ。無駄に演出の話などしなければ…。

 ダインに別れを告げると、テレスタ達はギルドホールに戻ってくる。が、この情報は開示するのが憚られる。はたして人間族が大厄災の事を知っているべきか否か。魔素喰いの性質を考えるに、こちら側の世界に奴らが入り込んでしまったらアウトなわけで、そういう意味では人間族はその存在を知らされていない状況の方が無駄なパニックを起こさなくて済む公算が高い。人間族の知らぬ間にひっそりとこの件を終わらせる、要するにガストラ山脈東側で迎え撃つというのがテレスタのやるべきことだろう。

 そういう訳で、人間族にはこの情報を提供しない事となった。が、シーラにはこのことを開示する必要があるだろう。何しろこれからはモレヴィアの仕事はしばらく請け負えない。世界中の封印を回らなければならないのだ。隠したりして、変に勘繰られると面倒なことになりかねない。

 そのような事を考えつつ、ギルド総統のサリーには事もなげに「25階層でSランク魔獣を討伐した後、地上に出た。」と話をつけておく。誰も知らない階層のことなど、どう伝えようが問題になりようが無い。


 テレスタは今日はクレープ屋にも寄らず、宿に宿泊費を全て支払うと、部屋から一気にヒュデッカの居城まで空間転移で移動した。


「うーん、ヒュデッカの空気はやはりいいな!生き返る!」


 思わずそう唸ってしまうテレスタ。


“そうですね、体中に生命力が満ちてきます。”

「霊水で魔素を補うって言っても、限界はあるからねー。」

「ヒュデッカは恵まれているね。魔素喰いを倒したら、パラにも魔素の流れが戻ってくるのかしら。」


 ミスティの言葉に、若干の期待がこもる。テレスタもそのことに関しては少し期待している。東側の魔素が全て魔素喰いの体内に吸収されたとするならば、奴らの持っている魔素が世界に還元されれば、循環は元に戻るのではないか。

 しかし、記録によれば、魔素喰いの体内ではメタ世界へ向かって魔素の逆流が起こっているという。ならば、彼らの「門」の逆流を制御しなければ、やはり魔素を回収することは出来ない。いや、メタ世界とこの世界との繋がりが理解できれば、あるいはそれも可能なのだろうか?

 

「もしかすると、魔素の流れを戻すことも出来るかも知れないな。それが最良の到達点、ってことになるだろう。」


 テレスタはミスティに向かって頷いた。






「はあ、また、とんでもない話が降って来たね。」


 シーラはあきれ顔だ。いや、もう諦めているというか、悟ったようなところが有るのだろう。テレスタの持ってくる話はいちいちスケールが大きすぎるのだ。

 テレスタは空間転移を使って、一人でモレヴィアにやって来ている。長期休暇の申請、と言えばいいのだろうか。

 

「それで、しばらく仕事をすることが出来ないと。そうだねぇ…。」


 うーん、と唸るシーラ。暫くそうしていると、不意に口を開く。


「それじゃ、その世界5カ所の地域のマッピングと交換条件でどうだい?どれも未到達領域のようだし、仕事をサボって世界一周旅行何ぞ行くのだから、そのくらいはして貰わないとねぇ?」


 ニヤリと口角を上げるシーラ。うむ、捉え方によってはそうなるな。世界一周旅行か…確かにな。


「解りました、じゃあ、その方向で動きましょう。」


「よろしく頼んだよ。都度の連絡はいらない。都合を見てこっちに記録だけ渡してくれたら構わないからさ。」


 何となくやっつけ仕事のような雰囲気が漂っている。シーラの寛大さにはここでも感謝すべきなのだろう。普通は首である。ただ、未到達領域の情報はシーラとしても捨て置けない。それに、亜人がサボっている訳では無いと外の面々に伝える良い口実にはなる。ギブアンドテイクという解釈をしておこうとテレスタは思う。







「テレスタ様、ご機嫌麗しゅう。」


 居城に戻ったテレスタの下に現れたのは、ミレアだ。

 彼女がヒュデッカのここまで出張ってくるのは珍しい。以前は魔獣が強すぎたために一度も無かったはずだ。今でこそ、アンデッドの警備によって周辺には安全が確保されているが。


「実は、テレスタ様に祭へのご招待をと思いまして。これから3か月間、ヒュデッカは雨期に入ります。

毎年この時期に、ダークエルフは森の恵みに感謝する豊穣祭を行っております。イネアを含め、周辺の村々のすべてを集めて行われるお祭りで、実は今年は北のエルフ族の方もご招待しておるのです。それで、もしご都合よろしければ是非テレスタ様にもご参加いただきたく。」


 と頭を下げるミレア。余所行きの感じが妙にこそばゆいテレスタ。


「もちろん、参加いたします。皆さんに久々にお会いできるのを楽しみにしておりますよ。」


 快く返事を返す。思えばこの半年ほど、色々な所で仕事詰めというか何というかで、ろくに休んでいない。大きなことを始める前に、一度気持ちを切り替えるにもこのお祭りは参加した方が良いだろう、とテレスタは考える。


「もちろん、居城のお連れの皆様もお越しいただければ。」


 ミレアの誘いに、他の面々も笑顔で参加を表明する。


「おばあちゃん、私はお連れ様側、でいいのかしら?」


「カーミラは一度手伝いに戻ってらっしゃいな。暫く村の皆とも顔を合せていないでしょう?たまには村の手伝いもして頂戴。」


「はーい、解ったわ。」


 笑顔のカーミラ。心なしかいつもより嬉しそうである。生まれ育った村の行事は毎年欠かさず参加していた筈で、外野として参加するよりも自分の手で作り上げる方が良かったのだろう。


「それにしても、エルフ族がこの南の地まで足を運んでくるとは、珍しいな?」


「ええ、そうですね。毎年ご招待はお送りしているのですが、実際にお越しになるのは何年ぶりでしょう?彼らとは仲が悪い訳ではないのですが、何しろヒュデッカの気候は熱帯ですから、ツンドラに住む彼らが長期滞在するにはかなり厳しい気候ですので。」


「逆に、ダークエルフが彼らの土地に向かうこともあるのかな?」


 テレスタはミレアに聴いてみる。


「そうですね、あちらからも招待は毎年頂いていますよ。最後に行ったのは…100年前くらいかしら?」


 年号の単位がかなり凄いことになるのは、長寿種族の性だろう。彼らにとっては10年前、みたいなイメージであるに違いない。テレスタも今後生きていく時間を考えると、同じようなことになるのだろうが。

 人間族の間でエルフとダークエルフは仲が悪いという噂話をよく耳にするが、実際には仲が悪いんじゃなくて、人間族の時間単位で見れば疎遠に見えるだけなんじゃないか。エルフやダークエルフは時間の経過に囚われず、お互いの気が向いたときに交流できる、気が長くてほんわかした種族なんじゃないかと、そんなことを思うテレスタだった。

 

いつも有難うございます。

世界を頭の中で繋げるのって、大変ですね。

こう、空想をどれだけ広げられるかって、

そういう作業は中々に面白いです。

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