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毒牙の泉  作者: たまごいため
第3都市アルダー
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ダンジョン最下層。

「テレスタ!オリヴィアの回復を!」


 ミスティが声を上げている。見ればオリヴィアは肩を脱臼し、皮膚からもかなり出血している。声を上げているミスティ自身も、そこかしこに火傷を負っているようだった。テレスタはクロノスに師事を出し、手早く回復を行っていく。

 ミスティの火傷に関しては水魔術の方が相性が良さそうだ。マイヤに回復魔術の練習がてら、術式を組ませていく。体液を使った傷口の治癒、というのも中々面白い。自然治癒能力を持った個々人の体液の型を読み取り、それを増幅したものを魔術で疑似的に創り出す、という事らしい。外傷と特に相性が良い様だ。

 

“テレスタ様、有難うございます。このような魔獣ごときに手傷を負ってしまい、申し訳ありません。”


 オリヴィアは心なしかしゅんと項垂れているように見える。無傷で仕留められなかったのが悔しかったようだ。それでも、Sランク魔獣を単独で倒してくれたのだから、テレスタとしては文句を言うべくもない。


“いや、オリヴィアは良くやってくれたよ。そんなにガッカリしないでくれ。きちんと生き残ってくれたことが一番うれしいよ。”


“…は、はい!”


「また、そういう思わせぶりなやり取りをする。」


 ミスティにジロリと睨まれ、視線を泳がせるテレスタ。別に、わざとやってるわけじゃないんですよ。本当だよ。


「アタシにも労いの言葉位あってもいいんじゃないかね?」


“あ、ああ、ミスティも有り難う、助かったよ。”


「はいはい、次の戦闘までは、どうやってストレスを発散しようかねぇ?」


“う、それは…。”


 そう言えば、とテレスタは思い返す。ミスティとの戦闘訓練は何だかんだで出来ていない。まあ、そのおかげで生傷を作らずに済んでるのだろうけど…少しくらい、そういう時間があってもいいんじゃないかと思う。今までミスティは頑張ってくれているし。


“そうだな、ちょっと今度訓練を一緒にしようか。”


「ほ、本当か!?約束だぞ!」


 ことの他嬉しそうに満面の笑みを浮かべるミスティ。うん、喜んでくれるのはやはり嬉しいな、笑顔も可愛らしいし良いことだ。


“テレスタ様、私は一夜の添い寝を所望します。”


“それは…考えておくよ”


“ええ、是非、考えておいて下さいまし。”


 ニッコリ、という笑顔をこちらに向けるオリヴィア。笑顔が可愛いのはいいことだが…何というか、危機感を煽るところがあるんだよな、オリヴィアの笑顔は。


「あたしは…。そうね、2人っきりで、アルダーで一緒に買い物しましょ?」


 カーミラと買い物するのは、しばらくぶりだなぁ。久しぶりに食べ歩きなんかもいいかな?


“うん、そうしよう。”


“な、何ですって!?2人っきり等容認できないのであります!”


「諦めなさい、オリヴィア、私とテレスタの間に、入り込む隙間なんて無いのよ。自覚なさい、うふふ。」


“くっ、やはりカーミラは強敵だわ…やはり既成事実を…”


 オリヴィアは、顔は美人なのにやっぱり残念なところが有るんだよなぁ…。遠くを見てしまうテレスタだった。





 一行は黒曜石の石碑のところへ戻って来ていた。見たところ変化はないが、近づくと不意に石碑が輝きを放ち始める。同時に身構えるも、


「これは、空間転移ですね。」


 クロノスの落ち着いた言葉に、テレスタは警戒を緩める。皆にそれを伝えると、他の面々も一度構えを解いて、石碑の輝きが増していくのを見守ることにした様だ。

 やがて、まばゆい光が3人と1匹を包み込んでいき、気が付くと先ほどとは違う真っ白い空間に転移していた。


“やあ、ようこそおいで下さいました。みなさん”


 目が光に慣れるよりも早く、念話が頭の中に入ってくる。その声に敵意は感じられないが、咄嗟に身構える。


“ああ、そんなに警戒なさらないでください。Sランク魔獣4体を倒した時点で、私の斬ることのできる手札は終わっていますよ。”


 目が慣れてくると、眼前に立っているのは一人の男。姿は、オリヴィアに心なしか似ているようだ。長い緑色の髪、柔和な表情、見た目の年齢は20代の美丈夫という感じだろうか。背中には透明の蝶の羽が生え、身体は甲冑のようなものを着込んでいるように見える。


“初めまして、私はオベロン族のダインと申します。「光輪の王」の眷属筆頭として、この古代文書記録館の最下層を守っております。”


“私は「毒牙の王」テレスタと申す。色々、聴きたいことがあってここまで潜って来たのだが…。なんというか随分雰囲気が違うのだな?その石碑の方の人影は随分と古臭い物言いだったと思うが?”


“ああ、すいません、あれは何というか、ああいう雰囲気の方がいいかなと思いましてね。あれにはあんまり詳しいデータも入れてませんし、なんか一方的な物言いだったでしょう?少し思わせぶりで申し訳ありません。でもね、やっぱりああいう場ではああいうやり取りが一番クールなんじゃないかなと僕は思うんですよね。何しろ、25階層まで潜って来て如何にも最後の砦じゃないですか?そこを通ろうとするときに出てきたキャラクターが僕みたいなちょっと軽い雰囲気の妖精だったりしたら、多分ダンジョンを攻略してきた人々としてはがっかりすると思う訳ですよ。僕としても苦労してこのダンジョンを作成して、守って来たという所もあるので、そうそう人をがっかりさせるような事をするわけにはいかない。何しろ、自分がそのことに納得いかないという訳なんです、その辺りは解っていただけますよね?何しろここまで潜ってくる人間は100年に1人くらいしかいない訳で、そういう意味ではセレモニーでもあるわけです。セレモニーはやはり厳かに行わなくては。そうでしょう?”


 なんだ、こいつは。何というか、饒舌さが突き抜けているな。800年も人と会わずに居ると、こうなってしまうのだろうか?


“そ、そういうモノかな?”


“ええ、そうです。このダンジョンは非常に重要な情報を守るダンジョンであるからして、そのような演出を片手間に行うなど言語道断。私としてはこの施設の重要性を示唆するためにあらゆる視覚的・聴覚的な仕掛けをあの石碑をはじめ至る所に埋め込んでいるわけです。みなさんにはそれを堪能いただけたのではないかと思うのですが、如何でしょうか?”


“う、うん、そうだな。”


“そうでしょう?流石、ここまで潜ってこられるだけのことはあります。このダンジョンの――”


「うるせえ!いらねぇことばっか言ってると殺すぞ!」


 と、ミスティが叫んだ瞬間には、ダインは遥か彼方まで吹き飛んでいた。その顔には、拳のめり込んだ痕が。殺すぞ、っていうか、殺したな。あれは。ドシャリ。間をおいてダインの身体が地面に落下する音が聞こえた。

 数秒して、ガクガクと身体を揺らしながら起き上がるダイン。その顔は、しかし笑顔だ。


“こ、これはまた、中々にセンセーショナルな演出ですね…。”


 う、打たれ強いな。


「お前、もう自由にしゃべるな。こっちの質問にだけ応えりゃいいんだ、解ったな?」


“は、はひっ”


 あれ?っと気付いたときにはもうダインの横まで肉薄しているミスティ。ダインもあの性格だから折れないかと思ったが、ことのほかさっきの右ストレートが効いたらしいな。少し大人しくなってくれたようだ。


“ダイン、君には悪いけど、色々急ぎで聴きたいことがあるのだ。演出については、後にしてくれると助かる。”


“わ、解りました。”


 フー、ようやく知りたかった情報へと取り掛かれるぜ。


“皆さんは、大厄災についてお調べになりたいのですね?でしたら、そちらの書架に全ての情報が集約してあります。”


 光に包まれていた部屋の光量が落ちてくると、私達の右手に書架が見えてくる。これをカーミラの記録媒体に落とし込んでいけばいいのだな。そうと解れば、カーミラとともに書架に向かう。


“どうですか?この光の演出も中々に計算をしてヘブゥ!”


 後ろで何かが殺傷されたような音が響いているが、気にしない。

いつも有難うございます。

そろそろストーリーも次のステージへ動けそうです。

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